伊集院 章平編
◆苛立ち
その日の深夜、ももらは目が覚めてしまった。なかなか再び眠りに就くことが出来ないため、拠点の中で落ち着く所を探した。すると、章平の部屋はまだ明かりが点いているようだった。消し忘れかと思い、消しに行ってやろうとそっと入室すると章平はしっかり起きていて作業をしていた。章平はももらに気づかなかった。そして、忙しそうにしているものだから、話しかけずにまたそっと部屋を出ていった。
ももらはそれから眠ることが出来ず、朝を迎えてしまった。睡眠不足のためふらふらなももら。それは、外からわかるくらいの酷さだった。心配する一部のメンバーの中に章平がいた。判断力の鈍っていたももらは章平が深夜作業をしていて気になって眠れなかったと話してしまった。
章平は、どうしてそんな事がわかるのかと問いただした。ももらははっとし、口を塞ぐが後の祭り、少し間を空けて夜に起きた事情を説明し、謝った。章平はそうだったのかと言い、たまに徹夜で作業することもあるから気にするなと続けた。ももらはわかったとしながらも、内心徹夜する章平が心配になってしまった。
それからと言うものの、少しでも章平が休めるように前にも増して献身的に手伝いをするようになった。しかし、その手伝い虚しく章平は失敗作ばかり量産。
ある日、遂に章平はその日作り出してしまった失敗作を派手に投げ、壁を損傷してしまった。ももらは、それを間近で見て、体が硬直。そして、明らかに最近の章平は章平らしくないと感じた。しかし、頑張っている章平にその事実をぶつけるのは酷かと思い、まずは、セラピー使いとして体のことを心配していると、少し休んで体力回復させたらうまく行くかもと助言をする。
章平は、それに返して今まで聞いたことのない低く、かつ静かではあったが、最大限の怒りの色を含んだ声で自分には休む時間などないと言った。初めて聞く章平の声色に震え上がるももら。章平はそれを意に介せず、ももらは自分の邪魔をしたいのかと詰問。すでに震え上がっているももらは輪をかけて章平から受けた圧力に負け、声を発することが出来ない。そんな様子に章平は、このやり取りをしている時間すら勿体ない、これからは1人で作業に入る、ももらに今までの手伝いに感謝しつつも、部屋からの退出を求めた。ももらはそれに従うしかなく、部屋を後にした。
そして、震える脚で数歩歩いたが、苦しくなりその場に座り込んだ。その様子を見ていたあきがどうしたのかと近づいて来た。ももらはわからない、だが、確実に章平を怒らせてしまったと言った。
あきはお坊ちゃんは何を考えているのかと、ため息混じりに言いながらももらの腕を引き、立ち上がらせた。すると、ももらはあきにすがり付き、怖かったと泣きはじめてしまった。あきは困惑。しかし、仕方ないとして泣き止むまで付き合った。
ももらは我に返り、あきに付き合わせてしまったことを謝罪する。あきは、この件はももらと章平の問題、自分はこれ以降関わらない、あとはご自由にと言った。ももらはありがとうと返した。しかし、あきは思い出したように組織全体に影響が出るようだったら介入すると付け加え、返答を待たずにその場を後にした。
◆喧嘩と剥奪
その後も戦闘は続いた。当然、ももらも章平も前線に出る。あの件があってからと言うものの、ももらと章平の間には不協和音が流れる。
うっちーは敏感にそれを感じとり、双方に話を聞こうとするが、章平はその件になると不機嫌になり、ももらは罪悪感から口を閉ざす。うっちーは、頭を抱えた。
しかし、このうっちーの行動は、ももらに心境の変化をもたらす。うっちーに章平と自分の件で心配をかけていると。だから、章平に早いうちに謝って、章平の手伝いに復帰できるようにしようと。
意を決してその日、ももらは章平に先日は気を悪くさせてしまったと謝罪。章平も言い過ぎたかもしれないと謝罪。2人は謝罪しあい、以前の態勢に戻った。
しかし、これはつかの間の時間に過ぎなかった。数日後、章平は再び失敗作を作ってしまう。ももらは今まで手伝って来た経験がある、何が原因かわかるかもしれないと章平が作っている武器の詳細を教えてほしいと言った。
章平から返ってきた言葉は、フォースを攻撃力に変えて戦闘に使うための武器を開発しているということだった。ももらは、それは無理かもしれない、神の導きの力だからと返した。章平は導いてくれるのなら戦闘組織の全滅まで導いてもらいたいと言った。
ももらは、苦しんでいたアルティーテのことを思い出し、それは受け入れられないと次第に感情的になっていった。そして、神は傷つけるためにフォースを授けてくれたわけではないと言った。
章平は、自分に分け与えられたセイクリッド・シードは、「ウィッシュ」、希望の力。戦闘組織全滅の希望を自分に与えられたのではないかと思ってると言う。ももらは、その考えは間違ってると感じ、覆さなければと思ったが、どう言葉を返していいかわからず、押し黙った。
そのももらの様子を否定と取った章平は、何故自分は否定されなければならないのか、伊集院一族を全滅に追いやった複数の戦闘組織、手を下したわけではないが、それと同等の戦闘組織を全滅させようと考えては駄目なのかと問い質す。
更に、章平は今までそのために武器を開発してきた、ハルバードを守りつつ攻撃能力を増幅したり、バックラーにも攻撃能力を与えたりしてきたと。
ももらは自分がそんな家庭状況ではないことからその苦しみは想像の域を出ないが、そこまで考えてはならないと思うと再び口を開くことが出来た。
この言い争いに気づいたうっちーがいつものように介入してくるが、ももらも章平もうっちーとは話している状況ではないと一蹴。うっちーは撤退せざるを得なかった。
ももらは、うっちーが介入してきた短い時間であることを決意した。それは、フォースの剥奪だった。行きすぎた考えを与えてしまった「希望」を自らの手に戻すと宣言、章平からフォースを自らに戻した。もう少し冷静になってフォースと共にいられるようになったら再び章平に持ってもらうと付け加えた。章平は、きっとこれからも一生その件では冷静でいられないだろうと言い、自分に必要なのは、希望じゃない、殺意だとフォースを拒絶した。
◆夢、それは過去
ももらは、うっちーが介入してきたのにも関わらず、再び章平と言い争ってしまったことにわずかに後悔の念を抱いたが、ここは心を鬼にする所だと気持ちを入れ換えた。そして、章平の部屋にはもういられないだろうとそこから退出した。
その夜、ももらは寝付きは悪かったがなんとか眠りに就いた。
すると、夢が始まる。見たことのない豪華な屋敷に自分がいた。だいぶ目線が低く、すべてが大きく見えた。年老いた一組の夫婦、若い一組の夫婦、それに若い男2人、女1人、加えて男の子1人、女の子2人、そして、明らかに身内ではなく仕事で屋敷に出入りしているであろう複数の男女、大勢の人物を見た。そして、その人々が口々に自分に向かって「章平」と声をかける。ももらは、これは夢と自覚し、更に自分は章平になってしまったと状況を飲み込んだ。
夢が続くにつれ、父方か母方かわからないが、祖父母と両親、叔父と叔母、兄と姉、妹と章平の11人家族を執事や家政婦、守衛等の立場の人々が支えていたのが伊集院一族とわかる。
戦闘の音は遠くに聞こえ、章平はじめ子供たちは怖がった。しかし、祖父や父は自分たちには皆アビリティがある。それに、雇っている者たちも守ってくれる、だから安心するようにと言った。章平がほっとしたのをももらは感じた。
そんな中、章平はとても精巧な工作を量産し、家族や働く者たちが評価し喜んでいた様子もあった。これにももらは章平の一片の曇りのない幸せな気持ちを感じた。
そうしていると、だんだん目線が上がってくる。同時にきょうだいの背丈も高くなっていく。
その中で、ある日、名前や数はわからないが、濃いアビリティの匂いがするとして戦闘組織が伊集院家に襲来、その襲来によって、家政婦の1人が死亡した。それからと言うものの、複数の別の戦闘組織が連日のように伊集院家に襲来。伊集院一族のために働いていた者たちは伊集院一族を守るため命を散らしていった。
働く者たちが全滅した後も戦闘組織の襲来は止まず、大人の男性から命を落とし、それから大人の女性もそれに続いた。子供たちだけ残された所にも戦闘組織は襲来、兄、姉、妹の順番で章平を1人にした。
章平は、自分も死ぬのだと覚悟した。そんな中ではあったが、章平は精一杯のトラッキングを発動していた。
その時、今より少し若いと思われる千羽漢鶴とスバルの姿が。エクスプロージョンとシューティングで戦闘員を退けた。
その後、「ユーロ」の2人に家族はと尋ねられ、章平は1人になってしまったと泣いた。千羽漢鶴がひとまず「ユーロ」の拠点にて保護しようと言い、スバルが章平に寄り添った。そして、連れて行かれた先で事情を聞いた蒼虎と初対面し、よければここを自宅にするといいと言われた。
その後、ある程度まで気持ちが落ちついた章平は「ユーロ」へ保護してくれたことへの感謝をし、何か礼をしたいと言った。
コスモスが冗談混じりに「ユーロ」に所属してみるかと言ったところ、是非そうしたいと章平は前向きな気持ちで言った。この瞬間、章平は「ユーロ」のメンバーとなった。
そして、ここで夢は終わった。
明朝、ももらは通常通りに起床するが、見た夢の内容は頭から消えることはなかった。ももらは、この件で自分が章平に寄り添わなさすぎだったことを反省し、激しく心が痛んだ。
◆後悔
一方、章平。過去に章平はももらが使用していて破損した試作品の槍の切っ先を拾っていた。更に、それをペンダントにしていた。
それを何の気なしに章平は目にし、言い争う前のももらを回想する。ももらが「ユーロ」所属直後から自分に尽くしてくれたのにも関わらず、自分の過去に囚われた発言でももらを怒らせてしまったことを激しく後悔した。
そこで再びももらが手伝いをしてくれていた光景を思い出し、胸の奥がチリチリする感覚を抱いた。
しかし、それは不快なものではなく、どこか心地いいものであった。もっと、ずっと、ももらにそばにいてほしい。しかし、自分にはその資格はもうないと章平の心はがんじがらめになっていった。
◆和解
時は過ぎ、ももらの心の痛みや章平の激しい後悔は和らいだ。お互いに話をしたくなったところではあるが、どうも直接話しかけることが出来ない。そこで、別々のタイミングではあったが、ももらも章平もうっちーにあの時の謝罪をしつつも仲介を依頼した。
うっちーは苦笑いしながらも和解の雰囲気を感じ、完璧に仲介の仕事をこなした。うっちーは、2人の別の感情の雰囲気を感じ取ったが、不測の事態を想定し、オブザーバーとしてその二者会談に立ち会った。
お互いに謝るももらと章平。そして、自分が悪いとお互い譲らず謝罪合戦を繰り広げる2人。うっちーは、話が拗れる前に介入した。それよりも違うことを話したいのではと。
そして、章平は、意を決した様子で、最近は自分のためだけに製作活動をしていた事実は消えないがという前置きをした上でこう言った。「僕、組織の為、世界の為、色んな物作ってきたけど、君との愛を作ってみたくなったなぁ。ダメ?」と。
あまりの言葉にももらは顔を赤くした。ダメではないがと言ったがそれ以上言葉が続けられず、心の奥底から沸き上がる未知の感情に恥ずかしくなり、その場を立ち去ってしまった。
うっちーは、章平に大胆だ、と言いながら、恋愛の仲介をしたのは初めて、あとは2人次第と章平を1人にした。
◆相互贈呈
日を空け、ももらは冷静さを取り戻した。そして、やはり章平には希望が必要とフォースをまた戻すことにした。
別の何かの機械を作製中の章平のもとに行き、この希望のフォースは、章平の過去を見せてくれた。本当に辛かったと正直に言った。章平はフォースは色々見せてくれるようだとさびしそうな笑みを浮かべた。
ももらはもうすでに「ユーロ」自体が章平の居場所になっているとは思うが、それよりも深いところで自分の心を章平の居場所にしたいと言った。そして、こう続けた。「あなたは、私と愛を作ってみたいって言ってたよね?私も作ってみたいって思う。いっぱいいろんな愛、作ろうね!」と。
その上で、やはりこの希望は章平に持っていてほしいと、フォースを再び章平の力とした。悪用するかもと言う章平に、ももらはこれからずっとそばにいるからまた言い争いになってもいい、全力で止めると宣言。
章平は感謝しつつも何かを取り出した。あの切っ先のペンダントだ。希望をありがとう、お礼にこれを、と自らの手でももらの首にかけた。これで自分が暴走したら切りつけてもいいと冗談を言ったが、すぐに真剣な目でももらを見つめて、戦いが終わったら伊集院家を再興する、そばで手伝ってくれるかと尋ねた。ももらは一生をかけて手伝うと約束。その後、2人の影はひとつになった。
◆発明と
章平は戻って来たフォース、希望の力を武器ではなく戦闘補助の機器を作るために使ってみようと思い立った。
手伝いに戻って来ているももらに相談すると、少し考えた後、いいのでは、と返答をもらえた。早速作業に取りかかる章平。フォースを武器転用としないその作業は驚くほど早くに終わり、数日後には、現場使用の出来る物となった。
この新しい機器は小型の映写機のような形で、すべての力の流れ等を可視化する。その時の最適な戦術を立てやすくし、速やかに戦いを終わらせることを目的としたものだ。
その日、早速使用し、戦闘停止作戦を開始。すると、天から伸びる邪悪な力の流れを発見する。蒼虎は苦々しい顔をするが、スバルがその力の源流である空に向かって攻撃を加える。
すると、急にぶつかり合っていた戦闘組織の戦闘員の戦意が激減した。そのため、この日の作戦は終了。
拠点に戻った後、これからの戦闘は、邪悪な力の源流を見つけることが最優先となった。
そこで、ももらは「アーロス」という単語を持ち出す。アルティーテから聞かされた「アーロス」がいるのかもと。
◆奇襲
日を改め、この日も戦闘停止作戦に「ユーロ」のメンバーたちは前線に移動していたが、そこで、目標としていた戦闘組織とは違う組織から奇襲を受ける。もはや、戦闘員は人としての意識はないようだった。操られるように「ユーロ」に襲いかかってくる。今まで感じたことのない強烈で邪悪なアビリティが「ユーロ」のメンバーをボロボロにしていく。
それは、ももらの治療が追い付かない程の物だった。ももらは思わず叫ぶ。「アーロス」にこんなことは止めてと。すると、アルティーテの声が響いた。今こそアーロスの元へ行き、アーロスを止めろと。そして、補助として1人連れていくことまでは力を貸せるがどうするかとも言われた。ももらは章平を連れて行きたいと要望。ももらと映写機型の機器を持ったままの章平は神々しい光に包まれ、その場から消えた。
◆希望を
わずかな炎の光に照らされている男性、その名はアーロス。アーロスが1人座る空間に移動したももらと章平。すると、章平の持っていた映写機型の機器が手から離れ、映像を映し出した。
章平はこんな機能はこの機器にない筈と驚いたがその映像にももらと共に釘付けになった。その映像は、「グローバル・バンダリズム」の歴史であった。
章平の手は強く握られ震えてくる。そして、こんなことのために自分の一族は殺されたのかと怒りを露にした。その震える手をももらは優しく包む。章平は我に返った。
そして、涙を目に浮かべ、ここでアーロスを止めることで第二、第三の自分を生まないようにすると言った。ももらは、手伝うと言った。
アルティーテの加護を受けたももらはセイクリッド・シードのフリーダムを発動。章平のアビリティとフォースは融合し、ウィッシュ・トラッキングを発動した。アーロスが放出する邪悪な力を追尾、無効化し、その流れと逆にアーロスに希望の導きを与えた。
すると、3人のいる空間は神聖なる熱気に包まれる。章平は、人間は、すべて汚い訳ではない。どうか希望をとアーロスに告げる。アーロスは、感謝を述べ、ももらと章平を地上へと導いた。
地上に戻ると、傷だらけの「ユーロ」のメンバーが手当ての作業を進めていた。なんでも、急にそこかしこで行われていた戦闘が停止されたと。だから、手当てをしていると。ももらと章平はその作業に加わった。
◆再興
とある宴会場、伊集院家金婚式と題された盛大なパーティーが開かれていた。多くの親類や来賓が出席している中、夫に見守られながら「美結ばぁ」と呼ばれている女性が泣いてる自身初のひ孫をあやしていた。