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共通編

◆グローバル・バンダリズム

「戦え、戦え、戦え。」

ある年、世界中の戦争が止まった。

しかし、その翌年、人々はアビリティを使用した衝突をし始めた。戦う者たちの身分は問わず、国王であろうと、大統領であろうと、首相だろうと、議員だろうと、また、その他の身分であろうと、関係なくアビリティを持つ世界中の者の大半は、数多の群れを成し、人を傷つけ始めた。

この現象は、後に「グローバル・バンダリズム」と名づけられる。

しかし、それでも、強く生きる人々も確実にいて、それぞれの国は、滅びずに国として存続していった。


◆主人公誕生。そして、成長。

それからおおよそ100年。とある年の日本。戦乱の中でアビリティとは無縁だったごく普通の家庭、百木家に一人の女児が産まれた。

両親は喜び、美結と名付け愛情をもって育てていたが、数年後、美結がアビリティを持って産まれていたことを知り絶望する。戦いに赴かないようその事実を美結に知らせないように育てることにする。

しかし、物心がつき、意思もしっかりしていくにつれ、美結は、自身の中にアビリティがあると自覚する。自分の中の力の件を両親に尋ねると、両親は、戦場へ美結を向かわせたくない、その力のことは忘れるようにと美結に言った。

しかし、美結のユニーク・テクニックはセラピー。怪我をした人を見ると放ってはおけず、アビリティを発動した。両親は、その度に悲しい顔をするが、美結は怪我が治るだけのこのアビリティを戦場でどう使えばいいかわからないので、心配しないようにと笑った。両親は、美結の笑顔に次第に癒され、いつしかアビリティへの警戒心を忘れていった。


◆転機

「戦いを、止めてください。」10歳を過ぎ、数年が経った美結の心の中に断続的に直接語りかける女性の声が届けられるようになった。聞こえる度に美結は、身構える日々を過ごすことになる。

おかしな話だと思い、誰にも言えないまま更に数年が過ぎる。その数年は、美結の心を疲弊させた。そして、遂に両親へその声のことを告げ、きっとこの声は戦いを止めないと止まらないのだと涙ながらに訴えた。両親ははじめ困惑したが、腹をくくる時だとも思った。その通りに、美結は戦場へ行かせてほしいと両親に言った。しばらくの間沈黙が流れたが、父親から許可の声が上がった。母親は少しの間受け入れられない様子を見せたが、涙とともに送り出す言葉を美結に聞かせた。


◆戦いへの一歩

美結は、戦うため戦闘組織を探すことになったが、数多ある組織の中でどれを選べばいいかわからず初めから路頭に迷ってしまった。

無防備に街をうろつく美結。すると、一人の男とぶつかってしまった。お互いに謝ったが、男は、美結を見つめアビリティを所持している人のようだと言った。美結は初対面の人にアビリティの事をすぐに訊かれ、動揺してしまう。しかし、美結も男にアビリティの気配を感じ、意を決して所持していると返答。男は、ここで会ったのも何かの縁、戦闘組織に属していなければ自分の所属する戦闘組織に来てみないかと勧誘。美結は、渡りに船と所属を決めた。

それを受け、男は名前をうっちーと名乗る。それに返して美結は名前を名乗ろうとするが、うっちーに止められた。よくわからないまま美結はうっちーの後をついていき、うっちーの所属する戦闘組織、「ユーロ」の拠点へと足を踏み入れた。


◆隠される名前

「ユーロ」の拠点には、10人は届かないであろうが、そのくらいの人数がそれぞれ思い思いに時間を過ごしていた。

互いに寄りかかって寝ている1組の男女、窓際で遠くを見ている女、何かしらの書物を読んでいる男、難しい顔をしながらボードゲームをする2人の男、そして、自分を奥の中央からまっすぐ見つめ、立ち上がる男がいた。

うっちーは、寝ている男女に遠慮することなく「ショウヘイ」と大声を上げた。すると、寝ている男女が驚き起きたのと同時に、別の部屋からもう1人男が出てきた。うっちーは全員が揃っていてよかったと言い、美結を新入り候補として紹介した。

先程立ち上がった男が美結とうっちーの元へと近寄りつつ、女性の戦闘員が増える事を歓迎した。

そして、男は「ユーロ」のリーダー、蒼虎と名乗る。

それを受け、書物を読んでいた男も美結の方を見ながら立ち上がり、サブリーダーのはるひこと名乗った。

はるひこは、ボードゲームをしていた2人に目配せし、それぞれにスバル、コスモスと名乗らせた。更にはるひこは、スバルを「ユーロ」のエースと紹介した。

それが終わると、別の部屋から出てきていた男が急いた様子で伊集院章平と名乗り、再び先程いた部屋に戻って行ってしまった。

寝ていた女が柔和に笑いながら章平は何かの製作中でいてもたってもいられないのだろう、章平は「ユーロ」の技術者だからと言った。その延長線で女はアクシーと名乗った。

アクシーと寝ていた男は、アクシーの夫の千羽漢鶴と妻と同じような笑顔で自己紹介した。

その様子を窓際で静かに見ていた女が最後は自分と、ほぼ無表情のまま、あきと一言自己紹介し、再び窓の外の空を見始めた。

蒼虎は、ここで活動するのなら、通常コードネームを自らに付けるのだが、考えているか、と美結に尋ねる。美結は、そんな事は知らないので、考えてないと返した。隣のうっちーは、章平みたいに本名で活動するのも手だが、少し考えてみるかと美結に提案する。美結はうなづいた。そして、考えた結果、ももらと自らを名乗ることに決めた。

ももらは、その場にいる章平以外に改めて挨拶をし、正式に「ユーロ」のメンバーとなった。トントン拍子に話が進み、ももらはこれで心の中の声を解消する一歩を踏み出せたと安心した。


◆無知、そして、予想外の冷遇

「ユーロ」のメンバーとなったももら。リーダーの蒼虎にユニーク・テクニックがある筈、どんなものを持っているのか、と、尋ねられた。ユニーク・テクニックという言葉すらわからないももらは、首を傾げながら怪我人を治療することなら出来ると返した。刹那の静寂が場を包んだ。蒼虎は少し困った様子を見せながら、それは「セラピー」というバックラー属性のアビリティだと言った。そして、前線には送れない人材だと続けた。それを聞いていたはるひこは、それでも、メンバーの怪我を治せる人材ではないのか、と、蒼虎に提案。蒼虎は、それもそうだと眉間の皺を緩めた。

ももらは、自分が無知だと自覚。追い出される危機を感じたため、色々勉強し、「ユーロ」のために活動する事を約束した。

それを受け、蒼虎は、あきにももらの教育係を命じた。急な命令にあきは目を白黒させたが、蒼虎の揺らがぬ視線に根負けし、うっちーを睨み付けながらこれを引き受けた。遠くにいたうっちーは、罰が悪そうな様子を見せた。

それからというものの、素っ気ないあきの教育をももらは受けることになる。組織に受け入れられたからには、すべての苦痛を耐えるつもりであったが、限界を迎える時もあり、同じ女性でこちらは優しそうなアクシーの所に避難してしまうこともあった。

何も知らない、何も出来そうもない自分にももらは内心に苛立ちを抱えながら、それでも組織のために必死に学んだ。


◆学び

ももらは、あきに怒られないように何度も何度もあきから教わったことを反芻する。

「ユーロ」の戦闘目的は、「散発する戦闘を撲滅する」こと。他の組織とは一線を画す組織とのこと。

その他の組織は、無差別に自組織以外の組織を攻撃するものもあれば、因縁があるのかいつも同じ組み合わせで戦闘行為を行うものもある。

どちらにせよ、戦闘員ではない一般の人々の生活を脅かすことの多い戦闘行為は止めるべきだと「ユーロ」は考えている。そのために常に戦闘行為を何らかの方法で知り、介入を繰り返していると言う。

その戦闘を知るには、実際にパトロールするか、章平が作り、各地の地中に埋めてある戦闘感知器を使っている。

また、傾向を掴んでおくのもひとつの手で、その1つ1つの戦闘組織の動向を「ユーロ」は記録に残し、次いつその戦闘組織が戦闘行為を始めるか予測、出動することもある。

戦闘予測は、導入したばかりの頃は空振りが多かったが、現在は、うっちーの調整能力が助けになり、格段に精度が上がっている。そのお陰でその戦闘停止作戦にはどのメンバーが行くか決めることが出来、効率よく戦闘撲滅への道を歩んでいる。

総力戦になるときもあれば、チームを分け、2箇所で発生する戦闘に対して戦闘停止作戦を行う時もある。チーム分けする際は、メンバーはその時で違うが、大抵リーダーの蒼虎チームとサブリーダーのはるひこチームに分かれ作戦に行っている。

そして、エースのスバルや、ナンバースリーの千羽漢鶴、エースの相棒コスモス、ベテラン女性戦闘員のアクシーとあき自身がいる組織が「ユーロ」だと教わった。

ももらはそこまではすぐに飲み込めたが、その後が大変だった。「ユーロ」内のメンバーも多種多様なユニーク・テクニックを持っているが、それ以外にも多種多様なユニーク・テクニックがある。今現在、「ユーロ」が把握しているユニーク・テクニックを頭に入れることをあきから課題が出された。

そちらも頑張って反芻するが、なかなかすぐに全て覚えられなかった。そんな状況を知ってか知らずか定期的にあきはももらにユニーク・テクニックの名前を出し、どんな物なのか聞いてくる。間違えると、だいぶ冷たい目で見られた。ももらは、100点しか許されない学校のテストを受けている気分になった。


◆ひたすら治癒する日々

ももらは、学びながら、来る日も来る日も拠点に留まり、傷を抱えながら戻ってくるリーダーや他メンバーへ精一杯の治療を施した。

はじめこそ無言での治療であったが、そんな日々を過ごしているうちに1人、また1人とわずかながらもももらに声をかけてくれることが多くなった。ももらも仲間たちに優しく声をかけ、会話を楽しめることも増えてきた。

ただ、それに例外が2人いた。あきと章平だ。あきは相変わらず素っ気なくももらはどうしていいかわからなかった。何かしらの任務を帯びている章平は部屋にこもり気味で前線にあまり出ず、怪我をしないために交流が持てなかった。あきと心を通わせたい気持ちもあったが、気が引けたので、まずは章平との交流を持とうと部屋を訪れた。

部屋には機械や武器らしき物が多数あり、ももらは目を丸くした。そして、治療する時以外は時間が有り余っているため、何か手伝えることはないかと章平に尋ねた。章平は驚き、そんな事を言ってくれた人は初めてだと言い、試しにという前提ではあったが、ももらに手伝いを依頼した。

そして、ももらはその後継続した章平の手伝いを正式にすることになった。


◆言い争い

時が過ぎるにつれ、ももらが戦いのための知識を全て身につけたことから、あきのももらの教育係という任は解かれた。

あきはどこか清々した様子で戦いに専念し始めた。それでも、傷を負い帰ってくる時もあり、ももらから見ればあきは渋々ももらの治療を受けに来ている様子であった。ももらはあきの最低限の礼儀を受けてはいたが、あきとだけ親しく出来ない心のわだかまりに耐えきれず、ある日、あきにその気持ちをぶつけ、何故自分に冷たくするのかと尋ねた。そのももらの声色は、敬語を崩すことはなかったが、かなりの熱量を伴っていた。

あきは表情も変えずももらを見詰め、返答を始める。うっちーに連れられて来たとはいえ、戦いに身を投じる事を希望してここに来たと推測されるももらが何も知らずに来ていたことに呆れて物も言えない、その第一印象を覆す行動が今のももらからは見えない、だから、これからもももらへの自分の態度は変わらないと冷徹に言い放った。

ももらは、返す言葉も無かったが、声を荒らげた手前引き下がる選択肢をなかなかとれず、そこでわめいてしまった。その声を聞いていたうっちーが慌てて2人の所へ来て、この件は、自分のせいだとその場を取り成し、この言い争いは終結した。

その後、ももらは、後になってうっちーに悪い事をしたと思い、うっちーに謝りに行った。うっちーは作り笑いに近い笑顔で気にしないでほしいと返した。

いたたまれなくなったももらは、人目を避けたくなり、章平の部屋を訪れ、邪魔をしないから少しだけここにいたいと依頼。断られると覚悟していたが、章平は了承し、手を止めることはなかったが少しだけ話をした。お嬢様と喧嘩するなんて度胸がある人だと笑い、そして、うっちーには毒な事だったとため息をついた。

章平からもたらされた未知の情報に興味を持ったももらは詳しい話を聞きたくなったが、当の章平は、製作中だった武器が完成し、ハルバードの攻撃力を増幅するその新たな腕時計型の武器の説明をし始めてしまい、あまつさえ、スバルあたりに試してもらおうと言い、ももらにここを自由に使っていいと言いつつ部屋を出て行ってしまった。

取り残されたももらは、戸惑いながら、許可は出ているものの主の居ない部屋に留まるのもよくないと思い、部屋を出た。


◆贈り物

後日、章平が完成させた武器は、ハルバードの属性を持つメンバー全員の手に渡された。その中でもスバルはそれをいたく気に入り、章平に感謝の気持ちを伝えた。章平は、もっと時間がかかると思っていたが、ももらが手伝ってくれたおかげで早く出来たと、今度は章平がももらに感謝した。その事を知り、スバルもももらに感謝する。

それを受け、蒼虎は、章平に労いの声をかけ、前線に戻れと命じた。しかし、章平は、あと数日は部屋にこもらせてほしいと拒否。はるひこは、前線にバックラーが不足しているとの理由を説明し、輪をかけて前線復帰を命じた。それでも章平は、失敗する可能性もあり具体的な説明は避けたいが、やりたいことがある、できる限り早くに復帰する予定だと再び拒否。それを聞いてたうっちーが、自分たちでなんとかしようと仲裁に入った。章平は、調整役としてのうっちーに感謝しつつも、早速部屋に向かい、気が散るという理由から、全員の部屋への入室を拒絶し、部屋に入ってしまった。コスモスは、ため息まじりの声色でやれやれと一言。うっちーはそんなコスモスにお互いバックラーとして頑張ろうと声をかけた。

数日後、章平は部屋から出てきた。その手には、槍のようなものが握られていて、これは、バックラーの力に反応する攻撃用武器。それを開発したと言った。皆、それに驚いた。これは試作品だが、受け取ってほしい人がいる、それはももらだと指名した。ももらは驚いた。そして、章平は手伝いへの感謝の品と言い武器をももらに手渡した。勿論、使わなくてもいい、これからもっと進化させるつもりだからと言った。ももらは章平に感謝を述べ、武器をその胸に抱き締めた。それを確認すると、蒼虎、うっちー、コスモスのバックラーの属性を持つ者をはじめ、全員に待たせてしまったことへの謝罪をし、前線に戻る宣言をした。


◆修練の決定

章平の前線復帰により、いよいよ拠点に1人になることが多くなったももらは、章平からの武器を使ってみることに決めた。そして、使い方を練習してみようと思い立ち、武器を治療するようにしてアビリティを与えてみた。すると、まばゆいまでの光の槍へと武器は変化した。ももらは驚いたが、初めて自分が戦えるかもしれない、今も止まない心への声に応えられるかもしれない、と、胸を熱くした。

そこに蒼虎とはるひこが戻って来た。ももらは、2人に怪我などないか確認し、今回は無傷で帰って来たことに胸を撫で下ろしたあと、章平からの武器を使ってみたことを報告。一度、幹部の2人に見てほしいと依頼。2人は了承した。

ももらは、先程のようにやってみせて蒼虎とはるひこを驚かせた。蒼虎は、バックラーの属性を持つ者の可能性を広げると言い、はるひこは、ハルバードの属性を持つ者の助けになると言った。

ももらは、これで自分も前線に行きたい、皆と共にいたいと願いを口にした。しかし、恥ずかしい限りだが、戦い方を知らないので教えてほしいと依頼。

蒼虎とはるひこは、少し考えた。そして、はるひこは、それはハルバードと似通ったもの、ハルバードとして自分が教えようと言った。蒼虎は、それに着想を得て、メンバー全員の戦闘訓練を思い立つ。

後日、全員が揃った所で蒼虎は、ももらの前線への参戦予定と、戦闘訓練をする旨を伝える。


◆修練の本格的な開始

ももらは、始まった訓練の場で今度は全員に武器を使って見せた。あきは相変わらずだったが、それ以外のメンバーたちは様々な反応を示した。その中でも製作者の章平は、予想以上の出来と満足気に笑顔を浮かべ、その武器の正式量産と、新たな武器への開発意欲を見せた。

当初の予定通り、ももらははるひこに槍の効率のいい使い方を教え始めた。その中で、はるひこ自身も槍と似た刃を繰り出し、実演して見せた。その武器さばきは、素人が見てもとても優雅なものだった。ついつい見とれてしまいそうなももらだったが、それを真似するように武器をふるい、少しずつコツを掴んでいった。

しかし、やがてももらは慣れないことをしたせいかその場にへたり込みそうになってしまう。はるひこに抱き止められ、初日はこれくらいにした方がいいと言われた。更に、あとの時間は見学をと提案された。

ももらを心配したアクシーが持ってきた椅子に座りながらももらは皆の戦闘を初めて目の当たりにする。

スバルはその身の周辺に様々な形をした弾丸を無数に作り出し、縦横無尽に仮想の敵へと発射し穴だらけにした。

千羽漢鶴とアクシーは手に浮かべ、投げられた光の球や手、もしくは指から放出される光線にて仮想の敵を爆破していた。

あきは光の縄や棘のある蔦で仮想の敵を縛り切断した。

ももらは、予想以上のハルバードの殺意に身震いしたが、これが現実と目を反らすことはしなかった。

一方、少し離れた所で今度は仮想の敵が攻撃を仕掛けていた。

章平はスバルと似た様子でその身の周辺に小さな盾のようなものを多数発生させ発射しすべての攻撃に当て脅威を排除した。

コスモスは目にも止まらぬ早さで攻撃を避けていた。

蒼虎は全身を隠す勢いの大きな鏡のような盾を展開し攻撃を仮想の敵に跳ね返した。

うっちーは目が痛むくらいの光を自らの周りに展開したりあたかも自らが複数人いるような幻を作り出していた。

ももらは、自分には出来ないバックラーの技を目に焼き付け、また、自らの武器を一層強く握った。

訓練は、ハルバードとバックラーが組みながら仮想の敵を倒したり、メンバー同士で対戦するなどして定期的に行われ、その中でももらは戦闘への体力と技術を身につけていった。


◆戦場へ

メンバー全員がももらの実力に太鼓判を押し、ある日、ももらは初陣を果たす。

2つの戦闘組織「ファイア」と「ウォーター」の交戦を発見し、双方の組織に攻撃を加え、戦闘を止めた。

その中で、ももらは恐怖が拭えない状態であったが、自らの武器の力を信じ、リーダーをはじめ、メンバー全員と共に戦うことと、怪我をした者の治療も合間に施すことが出来た。真の意味で「ユーロ」の仲間入りを果たした気分になった。

蒼虎からは労いの言葉をかけられ、それに返してももらは前線に連れて行ってもらったことに感謝した。以前聞かされていた「ユーロ」の戦闘目的、「戦闘撲滅」を実感できたと言った。

蒼虎は、それを聞き微笑んだが、なかなか視野に入れている世界中の戦闘撲滅までは程遠いと肩を落とした。

はるひこは、ももらが前線に出られるようになって戦闘効率が確実に上がり、それを実現できる日までの期間が短縮されただろうと蒼虎を励ました。更に、はるひこは、ももらを連れて来たうっちー、教育したあき、武器を開発した章平を評価し、この態勢で戦っていこうと言った。


◆病

ももらはその後、戦績を上げていくことになる。そんなとある日、コスモスはももらの槍に興味があるとしてももらの元に来ていた。コスモスは一度だけでいいから試しに使ってみたいと申し出た。いずれ章平からもたらされる武器の感覚を早くに知っておきたいと。

それならばとコスモスへ槍を渡した。コスモスは槍に力を込めはじめるが、すぐに手放してしまい、膝をついた。そして、ももらにこんな武器を平気で使っているのかと尋ねた。ももらは、最初は疲労を感じたが、今は何も問題ないと返した。

コスモスは大したものだと立ち上がり、付き合いに感謝しながらももらの元を去ろうとしたが、倒れてしまった。

ももらは慌てて駆け寄り、更に動揺した。倒れた人にセラピーは使ったことがなく、コスモスを治療できるか自信がなかったが、とにもかくにもセラピーを発動した。すると、コスモスは目を覚ました。ももらはほっと胸をなでおろすも、不用意に槍を差し出したせいでそうなってしまったと自分を責めた。

コスモスは、しばらく躊躇の色を見せていたが、ももらに自分を責めるなと返した。コスモスは、更に自分は元々病気持ち、それを考慮せずに槍に挑戦したのが悪いと言いながら再び立ち上がった。

そして、コスモスはこの病の件は、誰も知らないことでこれからも知らせる予定はないため、忘れるようにと、ももらに告げ、その場を去ろうとした。ももらはそれは大事なこと、皆に知ってもらった方がいいのではと尋ねるが、今更なことで、今の組織の態勢を変えてしまう可能性を避けたいと首を横に振った。

ももらの中に「何故」が沸き上がり、コスモスを引き留めながら質問を続けた。こんな事を尋ねるのも失礼かもしれないが、コスモスには病気療養に専念する選択肢もあった筈、何故それを取らずに戦いに身を投じたのかと。

コスモスは、アビリティを持つ者として産まれたのに、病を理由に戦いから逃げるのは、世界中の人が許しても自分が許さないと、だからここにいると返した。更に、今最も危険なスバルの相棒として戦いたいと宣言した。

そのコスモスの眼差しにこの人を止めるのはかえって罪だとももらは思うようになった。そして、コスモスにそう言うのであれば今聞いたことは自分の心の中にしまっておく、その代わりに体が辛くなったら自分の治療をいつでも受けに来てほしいと言った。

コスモスの表情は明るくなり、ももらに感謝してその場を後にした。


◆過去の悲恋

コスモスの病を知ったももらは、ああは言ったものの戸惑いの気持ちが止まらなかった。コスモスの相棒であるスバルはもしかしたらコスモスの病を知っているか勘づいているかもしれない、そうであれば秘密を共有出来るかもと思い立ち、スバルの所へ行った。

しかし、当のスバル本人はうたた寝をしていた。疲れているのだと、ももらはスバルを寝かしたままにしておこうとその場を後にしようとした。その瞬間、スバルが声を上げた。起こしてしまったか、呼ばれたのかと思ったが、どうも違うらしい。よく耳を済ますとスバルは声に強弱をつけながら「サキ」と何度も呼んでいた。その合間に悲しげな息を挟んでいた。悲しがっている仲間を放ってはおけず、一転ももらはスバルを見守ってやろうとそばに座った。

そうしているうちに、スバルは大きな叫びと共に目を覚ました。そして、スバルはそばにももらがいたことに驚いた。ももらも大声に驚き固まってしまった。お互いを驚かせてしまったことをお互いに何度も謝った。

それが終わると、ももらはもうひとつスバルに謝罪。寝言を聞いてしまったと。スバルは自分が何を言っていたのか尋ねた。ももらはスバルが何度も「サキ」と言っていたと、「サキ」とは誰かと返した。

スバルは自らの口を勢いよく手で塞ぐ。少しの間沈黙していたスバルだが、その話をするのは辛い、知りたければ他のメンバーは知っている話、誰かに尋ねていいと許可を出し、その場を去った。

ももらは「サキ」のこと尋ねていいものか、尋ねるとしたら誰がいいか迷ったが、蒼虎に尋ねる事を決めた。

蒼虎は、「サキ」とは、「ユーロ」にかつて所属していてスバルが愛したバックラー属性の女性だと答えた。そして、サキは戦闘組織「スカイ」、「グラウンド」との交戦中、「スカイ」所属でハルバード属性の戦闘員が持つ時間をかけてアビリティを浴びせかけ相手を消去する「イレーズ」を受け、消滅してしまったと続けた。サキはその時すべての攻撃を吸収、無効化できる「サクション」を発動していたが、限界があったのだろうと蒼虎は回顧した。

ももらは重い話を軽々しくスバルに尋ねてしまった事を悔いた。

蒼虎は、それには及ばない、スバルが無茶な戦い方をし、そんなスバルをサキが庇った結果、あの事態を引き起こした、自業自得と切り捨てた。更に、今のスバルの戦い方はあの時のものに戻りつつある、サキがスバルの胸の中で消えた感覚を忘れたかのようだと続けたが、蒼虎は、こんな小言はももらに聞かせるべきことではなかったと謝った。

ももらは突然の質問に詳しく答えてくれて感謝していると返した。

その後、ももらはスバルに事情を聞いた、「辛い」と言った理由がわかった、自分のセラピーでその心の痛みを取り去ることが出来たならどれだけいいか、と率直な気持ちを伝えた。

スバルはその気持ちだけもらっておくと返した。


◆上級家庭の事情

コスモスの病、スバルの悲恋を立て続けに聞いたももら。心が潰れそうになる日々を過ごしていたが、そんなある日、章平から呼び出しを受ける。新武器の開発を始める、手伝いが必要と。

ももらは章平の部屋に行き、今となっては手慣れた手伝いを始めた。

すると、あきが入室してくる。先に配付された増幅武器の調子が悪い、直せるかと尋ねに来た。章平は、それを簡単に確認する。直せると簡単に返答する。

あきは修理依頼を章平にし、部屋を後にしようとしたが、章平は、ずいぶん武器を乱暴に扱ったみたいだ、お嬢様なんだから、上品に使ってほしいと言った。あきは踵を返し、章平に迫りつつ、何故急に自分をお嬢様呼ばわりするのかと言った。

章平は製作者として少しの怒りを感じた、鬱憤を晴らさせてもらったと不敵な笑顔。

あきは、それは失礼と謝るが、言葉は止まらなかった。そう言えば前から気になる事がある、章平は実名で戦闘活動をしているようだが、家族などに配慮していないようだと責め立てた。

すると、章平はあきにだけは話したくなかったとしつつも、あきも知ってるであろう上級家庭の伊集院一族の者だと認めた。その一族は複数の戦闘組織の攻撃を受け、自分以外執事や家政婦含めすでに全滅しているから別にいいだろうと軽く返す。あきは、絶句した。

章平は、更に続けた。あきは覚えてないかもしれないが、幼少の頃自分とあきは一度会っている、だからあきの上級家庭である家は知っている。コードネームをあきが使っていることから、その家は無事なようだ、いいことで羨ましいと言った。

あきは上級家庭出身の事実を一族名を伏せた形で認めながら戦いを望まなかった自分を一族で唯一アビリティを持っていると言うことだけで一族の名誉のために「ユーロ」へと送り込んだ一族は評価に値しない、その家の名前を隠せるコードネームはありがたいと返した。

険悪な2人にいたたまれなくなったももらは、口を挟む。それぞれ事情があるようだが、2人共、自分より立派に活動している凄い人たちだと評価することでその場をとりなそうとした。

それを受け、章平はアビリティのみならず手先の器用さを併せ持って産まれた幸運をここで生かさなくては一族に顔向け出来ないと言った。

あきは、今となっては無価値な一族から離れられる避難所となっている「ユーロ」の為に動くのは当然のことと言いつつ部屋を出ていった。


◆兄弟

章平とあきの言い争いを止めることが出来たももら。胸を撫で下ろしながら章平の部屋を出たところ、目の前にうっちーが立っていた。どうしたのかとうっちーに尋ねると、言い争う声が聞こえたので心配になって来たと答えた。

ももらはうっちーはいつも喧嘩の声を聞くと仲裁に行っているが大変ではないかと尋ねる。うっちーは、自分がやらねばならないことだからと答えた。

そこまで気を張っていたら疲れてしまうのではないか、「ユーロ」に自分を連れてきてくれた恩人のうっちーが心配だと、ももらは言う。うっちーは、急に声を荒らげて自分の自由にさせてほしいと言ったが、すぐに慌てて大声を出したことを謝った。

ももらもしつこくしてしまったと謝ったが、うっちーは、暗い表情を浮かべながらそれに言葉を返すことなく立ち去ってしまった。

自らの部屋の前で大声が聞こえたため章平が様子を伺いに来た。ももらは、うっちーを怒らせてしまったと意気消沈。章平は、面倒くさいと言った後大きな声でうっちーを呼んだ。早く来ないとうっちーの秘密を勝手に自分が話すと付け加えた。

うっちーは章平の言葉でももらの元に戻ってくる。章平は、うっちーにそろそろ新人さんに自分のことさらけ出したらいいと言った。迷いの色を見せるうっちーに章平は、仲間外れを作ることこそ「不和」なのではと駄目押しした。うっちーは、意を決した様子でももらと二人きりになる。うっちーはこの話は世界の戦闘と比べたら小さな話。少し恥ずかしいから話さない人を作りたかった。けれどもそれは間違っているようなので今回話すと前置きを述べた。自分の家族の話を聞いてほしいとうっちー。ももらはうなづいた。

うっちーは、両親と三兄弟の5人家族で育った。だが、アビリティを持って産まれたのは自分のみ、兄と弟はそれを羨ましがった。

そんなものだから、自分は恵まれていると、兄と弟より上だと幼少の頃思っていた。その驕りから兄と弟に喧嘩をけしかけた。喧嘩に勝った方に自分のアビリティを分け与えてやると。

その日を境に兄弟は取っ組み合いの喧嘩を連日するようになり、ある日の喧嘩の最中に兄弟が同時にベランダから転落、即死を迎えた。

兄と弟を自分のけしかけた喧嘩のせいで亡くしてしまった責任を幼少の頃の自分はわからなかったが、大きくなるにつれてその重さがわかった。世の中から喧嘩を無くすことが自分の使命であり、亡くなった兄と弟への贖罪だと思うようになったと。

世界を見てみれば戦闘組織同士が喧嘩と言っても過言ではないことを繰り広げている。だから、戦闘組織同士の戦闘を止めようとしているといわれていた「ユーロ」に辿り着き、今、ここにいる。

しかし、やはり「ユーロ」の中でも喧嘩はあるから自分はいつも止めに行っていると話した。

ももらは、家族を亡くしたことがない自分には想像できない話だが、決して小さな話じゃない辛かっただろうとうっちーを慰めた。そして、自分はメンバーと喧嘩しないようにすると約束した。更に、もしかしたらメンバーはうっちーが止めに来てくれるから安心して喧嘩しているのかもと続けた。うっちーは言われてみればそうかもしれない、そうだとしたら「ユーロ」にそういった意味で貢献しているのかもと笑った。


◆ベテランの

それから数日後、その日の戦闘で蒼虎は酷い怪我をしてしまった。戦闘の片手間では治療が出来ないと物陰に蒼虎を連れ、ももらは時間をかけた治療を開始した。

そこで、ももらは蒼虎にここ最近、メンバーの背景を知る機会が多く、もっと深い関係を構築出来そうだと話した。蒼虎は、それなら、自分の昔話を聞いてくれるかと言った。勿論と、ももら。

蒼虎は、あれはおおよそ30年前、幼い自分は、リフレクションを買われ「ユーロ」に強制的に所属させられた。その当時の「ユーロ」は、リーダーが絶対で好戦的な組織だったと言った。

好戦的とは無縁の自分は、日々うんざりしていて、何度も抜け出そうとしたが、それはすべて失敗したとも。

次第に戦いから逃げるのではなく、戦いを消せば自分は解放されると考えるようになった。「ユーロ」に拘束されていたことから新しい組織を探すことも作ることも不可能。ならば、「ユーロ」に革命をもたらすしかないと、当時の「ユーロ」とは逆行する態勢を考えることにした。

そして、メンバーの自主的な行動で戦闘撲滅する組織がこれからの「ユーロ」だと決めた。そして、おおよそ10年前、受け入れられないだろうという前提で、幹部以外の者にそういう「ユーロ」に変わらないかと提案。

懸念通り、好戦的なメンバーは反対した。しかし、それに賛同する者がいた。「ユーロ」である程度戦績を積んでいたはるひこと「ユーロ」に所属したばかりの千羽漢鶴だった。この革命の成功後は大所帯の「ユーロ」は自分を含めて3人の小規模組織となるが、蒼虎は2人にクーデターの協力を要請した。

ハルバードの2人を蒼虎はバックラーとして守りながら好戦的なメンバーを粛清していった。降伏や逃走を呼びかけながらの粛清だったが、多くの者ははるひこや千羽漢鶴の攻撃で命を散らした。そして、最後に残った当時のリーダーは、蒼虎がアビリティを使用せずに殺害し、その残された玉座を得た。この事を忘れない為、組織名はそのまま使う事を決め、蒼虎は新生「ユーロ」を発足させた。

蒼虎は想定以上に長話をしてしまったと言い、仲間の所に戻ろうと立ち上がった。最後に、所属してからだいぶ経ったが、新人のももらにとって「ユーロ」は、居心地のいいところであるかと蒼虎は尋ねた。

ももらは最初こそ戸惑うばかりの日々だったが、今はもっともっと「ユーロ」の役に立ちたいと強く思うと答えた。

あのクーデターを起こしてよかったと蒼虎は言い、ももらの治療ですっかり傷が無くなった身で戦闘に戻って行った。それにももらはついて行った。


◆予想外の事態

「ユーロ」には、難敵と言っていいものがあった。戦闘組織「ロック」と「メタル」の交戦だ。何度も止めに入るが、わずかな間を空けて再び交戦してしまう厄介なものだった。

現行「ユーロ」発足の経緯を知った別の日、この日も「ロック」と「メタル」が交戦していた。「ユーロ」は総力戦で交戦を阻止に向かった。

まずは、スバルがシューティングでこちらに注意を向けさせる。コスモスがアクセレーションで自らと共にスバルと高速移動しながらスバルへの攻撃を避ける。その中でもスバルのシューティングは止まらない。

そうしていると相手の塊は散り散りになって行く。

1人になった戦闘員をあきがリストレイントで縛り上げ気絶させた。

反撃してくる相手の攻撃を章平のトラッキングで無効化。

蒼虎のリフレクションは、1人の戦闘員が放った攻撃で別の戦闘員を倒した。

はるひこは、状況に合わせた刃を繰り出し、一人一人確実に倒していく。

うっちーが操るダザルからの光で目眩ましされた者たちは、千羽漢鶴とアクシーのエクスプロージョンにて爆破された。

その中でも相手の攻撃が当たり、傷ついたユーロのメンバーは、ももらが槍を使いながら自衛、急行し、セラピーを施す。

「ユーロ」はベストを尽くしながら戦うが、「ロック」と「メタル」は大規模戦闘組織、長時間の戦闘を余儀なくされる。これが難敵の所以だ。

そんな長時間戦闘を続けているうちに、力を込めはじめたももらの槍がバラバラに折れた。それに動揺しながらもももらはスバルを治療しようとするが、アビリティが発動せず、その場で倒れてしまった。コスモスがももらをとっさに高速移動させももらの身の安全を確保をした。比較的近くにいたアクシーがももらのそばでももらを守るのに専念。

やがて、「ロック」と「メタル」が撤退し戦闘は終了した。

その後、倒れたももらは、蒼虎に抱えられ、拠点に戻った。


◆眠る力と

拠点で寝かされたももら。章平やうっちーは動揺していた。そんな中、はるひこがももらの様子を見ると言った。それを受け、サブリーダーに任せることになった。

そして、倒れてから丸1日、ももらは目を覚ました。しかし、はるひこは書物を読み耽っていて気づかない。ももらは、うまく体が動かせないことから、そんなはるひこをしばらく見つめていた。

やがて1冊を読み終わったはるひこ、ももらが目を覚ましたことにようやく気づく。放っておいてしまったことにはるひこは謝罪するが、ももらはそばにいてくれたことに感謝した。

はるひこは、ももらの状況を尋ねた。ももらは隠し事をしても仕方のないことと、急に停電するが如く自らのアビリティの気配が感じられなくなってしまったと泣きそうになりながら説明した。更に、今は体が思うように動かせないと続けた。

はるひこは、それを受け、ここで回復するまで休んでいいと言った。

その後、はるひこは少しの間を空け、ももらはここ最近、アビリティの酷使をしてしまったのであろうと言った。はるひこは、詳細を伏せたが、アビリティを使い過ぎるのは、時に問題を引き起こすと言った。自分も経験があると、ため息混じりで話した。

ももらはそうかもしれないと謝った。はるひこは、謝罪がほしかったわけではないと言い、この件はこれ以降の教訓とするようにと続けた。

それからももらは床に伏せる日々を過ごした。はるひこは可能な限り書物を読みながらももらのそばにいてくれた。とても静かな時間が流れた。

そんなある日、ももらは起き上がってゆっくりではあるが、歩行も可能になった。

蒼虎とはるひこはあまり経験上例がないことで推測でしかないが、ももらの今の状況を、アビリティが眠ってしまったと判断し、療養が必要と、ももらを自宅に帰すことに決めた。危険を避けるためメンバーが送って行くことになったが、はるひこが指名したのはあきだった。あきは無表情のままこれを引き受け、ももらはあきに守られながら「ユーロ」の拠点を後にした。


◆暫時の自宅

もはや懐かしい風景だった。所々古い家が立ち並ぶ中規模の団地にももらは足を踏み入れた。隣のあきは周辺を見回しながらももらの隣を歩く。

やがてももらはもうすぐで自宅だと沈黙を破る。そして、あきに送ってくれたことへの感謝を伝え、そこからももらは1人で自宅を目指した。あきは、その背中を見ながらこんな所は生きてきてあまり来たことはなかったと独り言を言い、「ユーロ」の拠点に戻って行った。

一方、ももらと名乗らずともよくなった美結は自宅で両親と再会していた。両親は、娘が突然帰ってきたことに驚きつつ美結を迎え入れた。

美結は母親がマスクをしていることを心配したりするなど虚勢を張っていたが、次第に泣き始めた。あれから「ユーロ」に所属し、「ユーロ」のために戦ってきたが、その力が今の自分にはない。とても辛いと。それは、両親の再会の喜びの表情を奪った。

美結は両親に申し訳なく思うのと、体が万全ではないことから自室に籠り始める。

それから時間を経たずして、母親が父親にあの時美結を戦場に送ったことは間違いだったのではと言い始め、父親は母親にあの時の決断を否定するのかと返し、そこから美結の件と関わりのない事で言い争いをし始めてしまった。母親は咳き込みながらも退かず、父親もそんな母親を意に介せず言いたいことを言っていた。

美結はたまらず言い争いを止めた。両親は、はっとし美結に謝った。美結は自分がきっかけの両親の言い争いに自責の念を感じた。

そして、再び自室に戻ると、涙が溢れてきた。自責の念もそうだったが、自らが言い争いを止めたことからうっちーを、両親の夫婦という形に千羽漢鶴とアクシーを、母親が風邪をひいているようだと病を抱えるコスモスを、そんなコスモスのことを考えたら相棒のスバルを連想し、そうなると「ユーロ」のメンバー全員を思い出すことを止められなかったからだ。しかし、自分は戻れない身、悔しさと無力さのどん底に美結は落ちていった。

美結はそんな中ではあったが、自宅療養生活中は両親を心配させまいと明るくふるまった。美結の心に様々な思いが心の中を行き来する時間は、1ヶ月程度続いた。

そんなある夜、就寝後の美結の心に従来のものではない「戦いを、止めなさい。」と命令口調に変化した強烈な声が襲来する。悲鳴や荒い息と共に飛び起きる美結。アビリティの気配は未だないが、もう一度声に応えなければと「ユーロ」に戻ることを決意した。

翌朝、両親に謝罪の上そのことを伝え、今度は戦いが終わったこの家で元気な自分と再会してほしいと言った。両親は、あの時より辛そうな表情ではあったが、あの時と同じように送り出してくれた。

それを受け、美結は「ユーロ」の拠点へ歩を進めた。

そして、無事に辿り着いた「ユーロ」の拠点にももらは足を踏み入れた。

そこには、蒼虎とスバル、コスモスがいた。3人はももらに状況を尋ねるが、ももらは1ヶ月程度不在だったのにも関わらず、状況は変わらないと謝罪。その上で、「ユーロ」のためにできることを探させてほしいと頭を下げた。


◆夫妻への憧れ

ももらの「ユーロ」への復帰は、受け入れられた。休んでいる間にハルバードに簡易な鎧型の守備能力を与える武器や、バックラーに槍型の攻撃能力を与える武器が配置されていた。章平の手伝いを最後まで出来なかったことを悔やんだももらだった。

そんな中、復帰早々負担がある話をするのは酷と千羽漢鶴とアクシーの2人は楽しい話でもしないかと、ももらに提案してきた。

もし、良ければ2人の馴れ初めを聞かせてほしいと、ももらは返した。2人はその話かと笑いながら昔話を聞かせてくれた。

千羽漢鶴は、幼い頃激化していた戦闘から逃れるため家族総出で疎開したことがあった。その疎開先の家がアクシーの家だった。千羽漢鶴とアクシーは年齢も近いことからすぐに打ち解け、まるで産まれた頃からの家族だったかのように急速に仲が良くなった。

しかし、しばらくすると千羽漢鶴が元居た地域の脅威が去ったことから千羽漢鶴は帰ることになった。アクシーは、千羽漢鶴と離れるのが嫌で嫌で仕方なく、帰りの車の中に潜りこんでしまった。

両家はなんとかアクシーを帰そうとするが、頑として言うことを聞かないアクシーに根負けし、千羽漢鶴の家は、疎開させてもらった礼としてアクシーを居候として受け入れた。

それから自分たちは大きくなっていたが、千羽漢鶴の母親が、ある時アクシーはどんな旦那さんを迎えるのかと言った。千羽漢鶴は、アクシーの隣に誰か他の男がいることを想像したくないと考えたことから、アクシーを居候以上の存在と認識し、求婚。難なくそれは受け入れられた。

アビリティを所持する夫と、アビリティを所持しない妻の夫婦生活が始まる。そんな中、しばらくしてアビリティを所持する千羽漢鶴は、戦いに身を投じる決心をした。

今回ばかりは、アクシーは追いかけて行くことが出来ない。アクシーは初めての愛する人との別離に苦しんだ。その上、夫がそばにいるのは戦いで深刻な傷を負い、自宅療養する時だけ、アクシーは千羽漢鶴にある日思い余ってこう言った。「私、戦いであなたと離れるの、嫌なの。だから、あなたのそばで戦いたい。力をちょうだい。お願い。ずっとあなたと一緒にいさせて。」千羽漢鶴は、アクシーの愛にこれ以上ない喜びを感じ、アビリティを分け与え、今に至ると、そんな昔話を終えた。

少し、暗い話を交えてしまったが、楽しめたかと千羽漢鶴とアクシー。ももらは、素敵な話で癒されたと言い、いつか好きな人が出来たら2人のような夫婦になってみたいと笑った。


◆決意

千羽漢鶴とアクシーの配慮に心が温まったももら。皆のために頑張ろうと意気込んだ。章平の製作活動への手伝いを真っ先に思い立ち、実行に移した。それから、言い争いを阻止しようとするうっちーと共に仲裁を始めた。そういったアビリティが必要ない些細なことをももらは積み上げていった。

「ユーロ」の日常が表向き戻ったかのようだったが、いざ戦闘にメンバーが行くと、必ず1人は怪我をして帰ってくる。メンバーは、ももらが所蔵する前にやっていたように、絆創膏他の処置で傷の治療をし、自然治癒を待つ態勢に戻った。ももらは、処置の手助けはしていたものの、あれだけたくさんやってきたアビリティ由来のセラピー治療が出来ないことを歯がゆく思った。

怪我を負いながらもいつもと変わらないメンバーたちが集う「ユーロ」の拠点である日、ももらは涙した。スバルがそれに気づき寄り添い始めた。コスモスもそんなスバルについていき、ももらのそばに来る。

スバルは、ももらにどうしたと尋ねた。ももらは涙で答えられない。仕方なくスバルは横からももらの肩を抱いた。コスモスが少し考えた後、自分が許せなくなったかと問う。ももらは一旦涙を止め、首を縦に振った。すると、悔しさ等の気持ちが溢れ、ももらは再び泣き出した。

それから、スバルは泣き止むまでももらに付き合った。コスモスもそれを見守った。その後、感情の奔流から抜け出したももらは、スバルとコスモスに感謝した。

それと同時に、ももらはある決意をした。その足で蒼虎に皆に話したいことがあると言いに行く。

蒼虎は、それに応え、全員を集めた。メンバーは一様に戸惑った様子だったが、ももらは心の声の件を話し始めた。

ずっとその声のために今まで戦ってきた。そして、今もっと強くその声は自分に呼びかけている。しかし、アビリティを使えなくなってしまった自分はもう戦うことができない、自分はここに入った時より役に立たないメンバーになってしまったが、精一杯やれる事をやるのでどうか戦いを止めるため戦ってほしいと頭を下げた。

メンバーは、誰ひとりそれを拒絶しなかった。更に、蒼虎はバックラーの誰かのアビリティをももらに分け与える案もあったが、ももらの意思を尊重し、「ユーロ」で思う存分活動するようにと続けた。ももらは久しぶりに心からの笑顔で感謝した。


◆復活と

決意表明から1か月後、ももらは戦闘に向かう直前のメンバーたちの準備を手伝っていた。そうしていると、あの声が聞こえた。

ももらは、意を決して声に心の中で話しかけてみた。自分がわかるのかと声に尋ねられたため、ずっと前から聞こえていたが、恐ろしくて今まで話しかけていなかったと、ももらは答えた。声に反応されたことへの感謝を述べられた。どういたしましてと返したももらに声は自らの所に来るように命令した。どうやってと戸惑うももらだったが、今、導くと声に返された。それにももらは驚いた。

一方、ももらの心の中での二者会談中、ももらの実体は虚ろな目をし、呼びかけに反応出来ない状態になっていた。先程まで忙しくしていたももらの急変にメンバーたちは慌てた。そこに神々しい光が現れ、ももらは消えてしまった。更にメンバーたちは慌てたが、戦闘は待ってはいないとそちらを優先し、「ユーロ」はこの時点での総力戦を始めた。

「ユーロ」の拠点から消えたももらは、まばゆい光が降り注ぐ空間にいた。そこに優しげでどこか苦しそうな女性が座っていた。ももらは驚きながらも女性の体調を気遣う。気にすることはないと返したその声は、何年もの間心の中で聞いた声そのものだった。そして女性は、アルティーテ、神と名乗った。

神ということに驚いたももらだったが、百木美結、「ユーロ」ではももらと名乗っていると自己紹介をした。

アルティーテは、すべての人々の心の中に長い間戦いを止めるよう話しかけていたが、それに応えたのはももらが初めてと感動の意を述べた。

更に、ももらに戦いを止める意思はあるかと尋ねてきた。ももらは自分には今、力がないが、その意思はある、そのために「ユーロ」のメンバーを助けるつもりと答えた。

それではとアルティーテはその力の問題を解決し、また、新たな力をももらに授けると言った。ももらはそれを受け入れることにしたが、新たな力を自分だけもらうのは気が引ける、せめて「ユーロ」の仲間にも分けてあげたいと要望。アルティーテはこれを許した。

そして、アルティーテはももらに力を放出し始めた。ももらは、セラピーの力を久しぶりにその身に感じ、感動したが、そのうちに壮大な力が注ぎ込まれ苦しみ始めた。

アルティーテは、やはりだめかと諦めの言葉を述べた。ももらは、アルティーテも苦しんでいるようだ、ならば自分も苦しみから逃げないと言い新たな力を何とか自分のものにしようと耐えた。すると、しばらくの時を経て苦しみが消えていった。ももらは凛とし、力をくれたことに感謝をした。

アルティーテは、戦いを止めるべく戦場に戻れと命令、再び導くと言った。それでは、仲間のところに行きたいと、ももらは返す。アルティーテは、それを聞き入れた。

ももらは再び神々しい光に包まれ、ゆっくりと移動していった。その最中、アルティーテが心に語りかける。自分の思いの種を傷ついたものに授け、アーロスが始めた戦いをどうか止めてほしいと。

ももらはアーロスとは誰かと問いかけたが、アルティーテの声は苦しいものと変わり、それ以降の会話は不能となってしまった。

ももらが帰された先にいた「ユーロ」のメンバーは、激戦のまっただ中であった。神々しい光に包まれたままのももらは、「ユーロ」と対戦していた戦闘組織へ得体の知れない神聖な力を浴びせかけそれらを排除した。そして、ももらはただいまと「ユーロ」のメンバーに言った。




【追加設定・用語】

「フォース」

アルティーテが与えた力。これは、攻撃的なものでもなく、守備的なものでもない。導きの力。戦闘の力ではなく、戦いで被害を受けたものに対して作用する。「セイクリッド・シード」という戦いに対し憂慮しているアルティーテの思いの種となって発現する。

「フリーダム」

自由を司るセイクリッド・シード。ももらが持つ。

「ウィッシュ」

希望を司るセイクリッド・シード。伊集院章平が持つ。

「ブレイバリー」

勇気を司るセイクリッド・シード。スバルが持つ。

「フェイス」

信念を司るセイクリッド・シード。蒼虎が持つ。

「ウィズダム」

知恵を司るセイクリッド・シード。はるひこが持つ。

「コンフォート」

安息を司るセイクリッド・シード。コスモスが持つ。

「アフェクション」

慈愛を司るセイクリッド・シード。千羽漢鶴とアクシーが持つ。

「ジャスティス」

正義を司るセイクリッド・シード。うっちーが持つ。

「チェックメイト」

抑止を司るセイクリッド・シード。あきが持つ。





◆新たな使命

アルティーテから授かった力をももらは自分なりに分析。「ユーロ」のメンバーにぴったりだと考えながらももらはメンバーたちと共に「ユーロ」の拠点に戻る。ももらは早速怪我を治療。久しぶりのセラピー発動にももらは喜びを感じた。

皆の怪我を綺麗に治した後、ももらは蒼虎はじめ、メンバーに、突然いなくなって驚いただろう、信じてもらえないかもしれないが、心の声は、神だった。その神と会っていた、アビリティの回復をしてもらい、更に新たな力をもらったと。

はるひこは、セラピーが戻ったことから疑いの余地はないと言った。ももらは信じてくれたことに感謝した。その上で、いい仲間、とても大好きな仲間だから神からもらった力を皆に分けたいと言った。ただし、この力は直接戦闘力を上げるものではないようだとも付け加えた。

蒼虎が受けると言ったのを皮切りに、全員その力を受け入れると口々に言った。ももらは、自分のようにメンバーが苦しまないよう、セラピーを同時に発動しながら一人一人力を分けていった。

章平には製作への希望を感じているとして「ウィッシュ」を分けた。

スバルには先陣を切る勇気が凄いと「ブレイバリー」を分けた。

蒼虎にはリーダーとしての信念をとても感じるからと「フェイス」を分けた。

はるひこには思慮深く、知恵を感じていると「ウィズダム」を分けた。

コスモスには詳細は伏せたが、安息を与えたかったとし、「コンフォート」を分けた。

千羽漢鶴とアクシーの夫婦には慈愛をと「アフェクション」を分けた。

うっちーには仲裁の正義を感じていると「ジャスティス」を分けた。

あきには自らへの抑止がほしいと「チェックメイト」を分けた。

そして、自分には「フリーダム」があると言い、受け取ってくれたことにももらは感謝した。

その後、はるひこ、章平、うっちーの3人で力の詳細な分析を行い、アルティーテが言った通り、この力は戦闘で傷ついたものに対し使えるもので戦闘には使えないと確定。また、アビリティと混ぜることが出来ない物だと判明する。

元々所持しているアビリティと区別するため、「フォース」と名付け、更に力を試しに発動すると、種が如く小さな力の塊となることからユニーク・テクニックに対応する言葉として「セイクリッド・シード」と呼ぶ事が決まった。

その事から「ユーロ」は、戦闘撲滅と戦闘後手当ての2つの使命を担うことになった。


◆戻る日常と

また別の日、章平はももらに新たな槍を手渡した。ももらだけに渡せなかった槍を、やっと渡せたと安堵しているようだった。ももらは感謝し、試作品とまた違った素敵な槍だと言った。

「ユーロ」はこの日、アビリティのユニーク・テクニックで戦った後、フォースのセイクリッド・シードで手当てを行う初の試みをした。戦いで傷ついた大地は劇的に綺麗になり、戦いでおびえていた人々が笑顔になった。

拠点に帰った後、あきがももらに話しかけてきた。その内容は、自分が「ユーロ」は戦闘停止作戦に熱意を向けていると教えて、ももらはそれを実感してきている筈なのに、神様と会って余計な使命を背負ってきてメンバーにやらせるなんて、なんてお荷物な後輩なんだろうと思ったということ。ももらはそれに対して謝罪。

しかし、あきはこうも言った。よく考えたら戦闘停止させた後、傷ついた者達をほったらかしもかわいそうだと。だから、今後も自分は手当てを精一杯やるつもりだ。そして、あきは自分をももらが「抑止」と評したからには覚悟を、と、言った。ももらは、お願いしますとそれに返した。


「あなたは、どの種を掴む?」

「私は。」

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