アーロス編
◆疲労
ももらはその日、疲れていた。拠点でぼうっとしながら、メンバーのことを見ていた。
蒼虎は、厳しい。
はるひこは、何を読んでるのか。
相棒同士2人近くにいるが、スバルは、暗い表情をしている。
コスモスは、調子の悪さを隠せてない。
章平は、何を作っているのか。
うっちーは、常にびくびくしているようだ。
千羽漢鶴とアクシーは、2人でベタベタしている。
あきは、窓際にいて飽きはしないのか。
いつもながらの光景だが、なんだか今日は皆にそう感じてる、どうしたんだろうと心の中で言っているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
次に目を覚ますと、自分の体や心に巣食っていた重さがひとつ残らずどこかにいって楽になった。寝てしまう前のあの感情を思い出し、自己嫌悪に陥った。
そして、一時でも心の中で批判してしまった仲間達の為に、より一層動かなければと心に誓った。
◆再会
この日は、「ユーロ」最大の敵である「ロック」と「メタル」の交戦を停止する作戦が行われていた。苦戦を強いられる「ユーロ」。
そんな時だった。「ロック」の戦闘員の男が攻撃を加えるのではなく話しかけてきた。その男は、ももらの同級生で幼少期からの付き合いだった者だった。
ももらは、敵ながら懐かしさを覚え、戦闘の手を止めた。しかし、すぐももらとその男は、お互い交戦中ということを思い出し、刃を交えた。
結局、勝ち負けはつかず、その日の戦闘は終えた。
残念ながら、「ロック」、「メタル」とも撤退しただけで、戦力を思うように削れなかった。
◆密会から
数日後、拠点の外に出ていたももらの元に、あの男が来た。美結と再会できてなんだか運命を感じた。付き合わないかと恋人同士になることを提案してきた。ももらは、美結と呼ぶことをやめてほしい、ここではももらと名乗っていると言い、それでも懐かしさからその提案を受け入れた。
その後2人は、自分の所属する戦闘組織に隠れて戦闘の合間を縫い密会を重ねた。
ももらは、懐かしさから目が曇り、男が素晴らしい人に見えてきた。他の戦闘組織にもいい人はいるとして、その人を倒した先への疑問が湧き出て来た。
そして、「ユーロ」の面々が聞いている前でこう言い放った。「私、迷ってるの。敵を消して、その先に手に入れた平和が本当にいい世界なのかって。」その場は、凍った。
その中で、1人ももらに近づく者が。あきだった。あきは、思いっきりももらの頬を平手打ちした。その先を考えるのもひとつだが、今の戦闘を止めねば「その先」はなくなると。今のももらは何かがおかしいと厳しい口調で責め立てた。
ハッとするももら。頬の痛みを耐え、メンバーに謝罪、そして、目を覚まさせてくれたあきに感謝した。
◆策略
ももらは男と会うことをやめようと、最後の密会に赴いた。
ももらは自分としては、懐かしい気持ちを満たしたかっただけのこの関係はもうやめにしたいと男に言い、別れを提案。
すると、男は奇声に似た笑い声を上げた。自分たち「ロック」の戦闘を邪魔する「ユーロ」の一員をいつか潰す予定だった。しかし、ももらはそれに気づいたようだなと言い、攻撃を加えて来た。
ももらは、簡易な盾を多めに作り出し男に投げつけることで難を逃れた。
ももらは逃げ帰る途中、男のそんな意図は知らなかったと思いつつ走っていたが、次第に、「ユーロ」への危機を自分が招くことになったかもしれない可能性に気づき、再び自己嫌悪に陥り、走れなくなった。あの日、自分は心の中でメンバーを批判した。しかし、そのメンバーより批判されるべきは自分だと。
◆決意
ももらは、それから「ユーロ」のため、世界の平和のためではないことをするのを一切禁止した。
それからというものの、戦闘では鬼気迫る戦い方をし、それ以外の手伝い等の仕事では身を粉にして働いた。
「ユーロ」のメンバーは、生まれ変わったかのようなももらをそれぞれの言葉で評価した。どれもいい評価で、ももらはここまでしてきた罪を少しは晴らせたかと思った。しかし、この行動は平和を実現するまで続けようと考えた。
◆宣戦布告
ももらは、アルティーテから聞いた「アーロス」のことを「ユーロ」に遅ればせながら報告。
「ユーロ」は、世界平和実現の足がかりを得たとし、正体不明でどこにいるかわからない存在だが、もし、何らかの機会があり、接触がかなった時は全力をかけて討とうと決定。
ももらはそれを受け、天を仰ぐ。そして、「アーロス」という存在を倒すと宣言した。
◆凄惨なる戦い
その日、再び「ロック」と「メタル」は交戦していた。「ユーロ」は当然総力戦で介入した。
ももらはあの男と戦場にて再会。刃を交え、ももらは男に勝利した。
男に別れを告げ、別な持ち場はないかと探していた時、戦闘組織の大群を見る。戦闘組織の数は3つと推測。ももらはおそろしさに息を飲んだが、蒼虎に報告。
蒼虎は、「ユーロ」に撤退を指示した。しかし、「ユーロ」は「ロック」、「メタル」、「ストーン」、「エレメント」、「オーレ」の5つの戦闘組織に囲まれてしまった。
逃げ道を失った「ユーロ」は、戦闘継続を余儀なくされた。
次第に「ユーロ」は戦力を不本意な形で分散。
蒼虎とはるひこは「ロック」、スバルとコスモスは「メタル」、ももらとあきは「ストーン」、章平とうっちーは「エレメント」、千羽漢鶴とアクシーは「オーレ」と交戦することになった。
「ユーロ」にとって絶望的な戦い、ももらはこれこそ「アーロス」の仕業と思った。そして、アーロスにこんな戦いはやめてと叫んだ。
すると、天から禍々しい雲が龍が如く地上に向かって降りてきた。それはももらにまとわりつき天へと、ももらを連行していった。悲鳴を上げるももら。「ユーロ」のメンバーは全員ももらの名前を叫んだ。
◆対峙
ももらが連行されたのは、息が詰まりそうな闇の空間だった。戦闘の疲労も重なり、ももらは思うように体が動かない。
そんなももらの目に気分の悪いオーラをまとった男が映る。ももらは吐き気を覚えたが、アーロスかと尋ねる。するとそうだと男は答えた。
アーロスは神である自分に楯突く者は許さないと、ももらを睨む。ももらは内心震え上がったが、ここで負けられないと許せないのはこちらもだ。もし、アーロスがこの戦いを始めたのなら到底受け入れることは出来ないと。
それを聞いたアーロスは怒りのオーラを出し、ももらに浴びせかけた。あまりの衝撃にももらは倒れた。幸い、意識は保つことが出来たが、指一本動かせないほどダメージを受けてしまった。
すると、ぼんやり光が見えた。その光の正体は、アルティーテだった。以前対面した時より顔色が悪く、苦しそうだった。不穏な空気を感じて来てみたとアルティーテは言った。それは正解だったと言い、アルティーテはももらが危険だと地上に戻そうとする。
すると、それに激昂したアーロスがアルティーテを攻撃。アルティーテは倒れた。
ももらは這いずりながらアルティーテの元へ行き、アルティーテを抱き抱えた。ももらはセラピーを発動しようとするが、アルティーテがその手を払いのける。そして、アルティーテは息も絶え絶えで自分の命はここまでだと言った。
ももらは自分のせいでこうなってしまったとアルティーテに謝罪。アルティーテは絶命の時が迫っており、ももらの謝罪を受け流した。その上で、ももらと自分を一体化することを決めた、そのことで生まれた力が今度こそ戦いを止められることを願うと言い、息を引き取った。
アルティーテの遺体は細かくおびただしい光の粒となり、すべてももらに吸収されていく。ももらは、いつも通りの体に戻った。その目からは止めどない涙が流れていた。そして、再びアルティーテに謝罪。アルティーテの願いを叶える為にアーロスに立ちはだかる。
◆グローバル・バンダリズムの真実
再び、立ちはだかってきたももらに怒りのオーラを浴びせかけるアーロス。ももらは一旦怯んだ。しかし、ももらはもう一度アーロスに挑もうとした。その瞬間、脳内に知らない映像が流れてきた。
それは、世界の誕生だった。ももらは驚いた。驚いているうちにも矢継ぎ早に映像は流れ続ける。
世界の誕生と共に生まれた神々たち。その中にアーロスとアルティーテの姿もあった。
神々は、世界を構成する様々な要素を司るようになった。アーロスは戦、アルティーテは愛を司り、世界の進む道を見守っていた。
そんな中、愛を司るアルティーテは、いつしか恋をした。その相手がアーロスであった。アルティーテの愛にアーロスも応え、他の神々が祝福した。神々の世界は、幸せに満ちた。
それから、幾千年の間、アーロスとアルティーテは仲睦まじく暮らしていった。
しかし、ある頃からアーロスの表情は暗くなっていく。それに気づいたアルティーテは精一杯寄り添い、その暗い影の正体をアーロス自身の口から聞くことが出来た。アーロスは自分の司る戦とは、他者を苦痛から守るための物という前提から話した。しかし、昨今の人間たちを見ると、守りの戦は見られない。それに絶望していると吐露。アルティーテは、きっといつか人々はアーロスの思いをわかってくれると慰めた。
愛するアルティーテの慰めを希望に、アーロスは事の次第を見守ることに。しかし、アーロスの願いは虚しく人々はアーロスの望む戦いをいっこうに見せなかった。欲望にまみれた自分本位の戦いが人々の中で繰り広げられる状態がアーロスの心に影を落とし続ける。
そして、アーロスは決心した。欲望にまみれた醜い感情を戦への意思と共に人々から回収し、自らの身に封印するということを。アルティーテは、それはとても危険だとし、他の神々を引き連れ反対したが、アーロスは聞き入れなかった。
そして、アーロスはある日、人々から戦意を回収した。しかし、想定以上に人々の醜い感情は強大でアーロスの手には負えなかった。それでも自分がやるべきこととアーロスはそのすべてを身に受け入れた。アーロスの思考は、崩れていった。
◆戦いの観賞
それ以降のアーロスは人が変わったように狂いはじめ、自らの部屋にこもった。人々の醜い感情は、アーロスという神の力をもって増幅、凶悪化し、アーロス自身を攻撃し始めた。その攻撃により、アーロスの心は壊れてしまった。
そして、人々へ戦いたくば戦え、その様を見せろと凶悪化した戦意を人々に逆流させた。これが、後に「グローバル・バンダリズム」と言われる戦いの始まりだった。
神々は、アーロスの暴走により力のバランスを崩し、ほぼ機能停止に追いやられた。
アルティーテも例外ではなかった。全盛期の力が出せない状況ではあったが、この暴走を恋人として止められなかった責任と愛するアーロスを悪神としたくない思いでこの件の対処をすることを決意。
アルティーテは再び精一杯寄り添う。そうすることでアーロスの改心の言を引き出したかったが、アーロスはその思いに応えなかった。
そのアーロスは、戦いを見ることを娯楽と位置付け、様々な戦闘組織同士の戦いを楽しむようになった。戦いで生じる悲鳴は自分にとっての音楽、そして失った命の魂は何よりの馳走と日々笑う。
アルティーテは、耐えきれずすべてを止めるようにアーロスに忠告。すると、激昂したアーロスはアルティーテに怒りの攻撃を仕掛けた。これにより、アルティーテの力の器は9割方損傷し、療養を余儀なくされた。しかし、療養によっても力の器は修復することなく時が過ぎていく。
アーロスは、そんな中でも人々の戦意が落ちたと判断すれば、再び凶悪な戦意を人々へ送り、戦いを継続させた。
アルティーテは、修復の見込みのない力の器の件は諦め、アーロスが送り込む戦意を人々が受けないように、盾を定期的に散布した。しかし、万全ではない力で散布された盾はほんの一部の者にしか届かず、戦いは止まらない。
そこで、盾の散布を継続しながら、人々の心に直接語りかけることにした。戦いを止めるようにと。だが、これも届かないのか無視されているのか反応はなかった。
アルティーテは、絶望の淵に立ちながらも、アーロスの暴走を注視し、何かがあればその都度出来ることを探し、対処した。
◆女神の転機
気づけば、おおよそ100年経っていた。アルティーテはある声を聞く。ももらの声だ。そして、ももらと会い、残る力の大半を使ってアビリティの回復と自らのアーロスへの思いを乗せた力を授けた。
人々への希望や慈愛を持ち、勇気を持って戦意と戦い、この事態への対処を知恵を絞り考え、正義の心で見極め、信念のもと抑止を図り、安息を得て自由になってほしいと。
そう願いながら、自らから涌き出る愛がもうないことを自覚し、他の者の愛を感じて力を取り戻したいという望みを抱いた。
そして、アルティーテはももらとの心の中での会話の途中、気絶した。
◆癒しの力、自由に。
ももらは、すべてのアーロスとアルティーテの真実を知った。遺されたアーロスに自分が出来ることはアーロスを止めること。アルティーテの為にも絶対にやり遂げなければならないと強く決心。
先程の涙を振り切り、アーロスをまっすぐ見つめた。
アルティーテと一体化したももらのアビリティとフォースは融合し、フリーダム・セラピーが発動。ももらの背中から純白の翼が生えた。
そして、邪悪な表情を浮かべているアーロスにゆっくり近づく。アーロスは、警戒し、攻撃しようとするが、急に体が動かなくなる。
そして、アーロスの声がその場に響く。その声は、グローバル・バンダリズムを引き起こす前と同等のアーロスの声。こんなことを引き起こしてしまった自分は神の資格はない、自分を討てと。
ももらはそんな事はしないと話しながら歩を進め、遂にアーロスの所へたどり着く。そして、アーロスを優しく抱き締めた。邪悪なアーロスに向け、してしまったことへのお仕置きを今からすると宣言。先程のアーロスの声に対しては、今、アーロスを休ませてあげると言った。
ももらから醸し出される癒しのオーラは、アーロスを深い眠りに導いた。気を失ったアーロスを抱き抱えながら、今度は空間に向けて力を放出する。たっぷりの癒しの空気が充満し、それは、外へと漏れ出て地上にも届く。
それは「ユーロ」のメンバーの元にも。フォースで繋がった仲間の心に直接ももらは語りかけた。戦いは止まったようでよかった、自分は神のお世話をすることを決めた。だから、戻らない。自分の最後の癒しの力を受け取ってほしいと言った。
大量の戦闘員との交戦で傷だらけだった「ユーロ」のメンバー9人の傷は瞬く間に治癒。「ユーロ」は、様々な反応を示したが、最終的にはももらの決意を受け入れた。
◆神
ももらは、神々に新たな愛の女神として受け入れられ、愛神モモラと呼ばれるようになった。モモラはそれから永遠の命と共に世界の行く末を見守り、眠る戦神アーロスを今日も癒しで包み微笑んでいる。




