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あき編

◆親

とある日、「ユーロ」の拠点に、50代前後の夫婦が来ていた。蒼虎は、リーダーとして応対していた。

そこに、あきが呼ばれた。あきはその夫婦をお父様、お母様と呼んだ。そう、この夫婦は、あきの両親だ。

あきの両親はあきの婚約者を決めてきたという。そして、そのために近々「ユーロ」を除隊させるとのこと。あきは、2つ返事でそれを受け入れた。

蒼虎は、本人の意思と言うことで、除隊を許可。あきの残りの活動期間は、あと3ヶ月と決まった。


◆抑止の行方

あきは、ももらに婚約と除隊のことを伝え、フォースを返却したいと申し出た。その様子は、淡々としていた。

ももらは、全てに納得いかなかった。しかし、決まったことは決まったことと、本人の意思を尊重して手元にあきの「チェックメイト」を戻した。

あきは、今まで世話になったと言いつつ、自室へと消えて行った。

それを見送ったももら。すると、手元に戻ってきた「チェックメイト」から苦しみの雰囲気を感じた。最初に分け与える前にはなかった雰囲気に戸惑った。


◆失われていくもの

あきの除隊と戦闘は無関係、それ以降も戦闘停止作戦は続く。

いつもの行動、いつもの作戦の筈なのだが、ひとつだけ大きな違いがあった。あきだ。あきの戦い方が精彩を欠くものと変化してしまった。

あきは、ダメージを受け続け、ももらの治療が頻繁に必要となった。

ももらは、「チェックメイト」からの苦しみの雰囲気とあきの現状を見て、あきの心に問題があることを確信した。

そして、あきに単刀直入に心が苦しいのでは、と、問いを投げかけた。

あきは、ももらにはわかりっこないと突き放し、自室に行ってしまった。


◆不本意な急進

ももらは、こういう時は待つべきなのだろうと思ったが、あきとの時間が限られていることから1秒でも早く苦しみを取り除いてやりたいと思った。

そして、同じ上級家庭出身の章平に協力を呼びかけた。

ももらは、章平に事情を説明し、あきについて知っていることがあったら教えてほしいと言った。

お嬢様のことか、と章平。

章平は、そんなに情報はないとしつつも、以前聞いたと思うが、あきとは小さい頃一度だけ会っていた。「ユーロ」に入った時、再会して驚いたと。しかし、もっと驚いたのは、あきの性格が同一人物とは思えないほど変わってたことだと言った。そして、小さい頃に会ったあきはとても優しいお姉さんだった、今の周囲に氷を振り撒くような人ではなかったと続けた。ももらは、驚いた。しかし、以前あきが傷ついた者をほうっておくのは「かわいそう」と発言した事を思い出した。あれが「優しいあき」なのかと心で思った。

更に章平は続ける。そんな優しいあきに自分の一族の悲惨さは聞かせられないとあきにはその事は口止めした。後にその配慮をあきの態度から後悔してあの時、自分で言ってしまったがと言った。

ももらは、章平の情報提供に感謝した。章平は、どういたしましてと言い、2人は別れた。


◆対話の前に

ももらは、章平からの情報を受け、あきと話をすることに決めた。

ももらは過去、あきと話した時、自分が感傷的になってしまった経験からあきと2人きりで話すのは危険と不測の事態を想定し、うっちーに協力を求めた。自分が感情的になったらブレーキをかけてほしいと。うっちーは、喧嘩の予告はあまり聞いたことないとしつつも事前の知らせに感謝しこれを引き受けた。


◆対話開始

あきの自室にももらはうっちーを伴い入室。すると、カーテンは閉めきり、暗い部屋で1人あきは力なく座っていた。ももらは、少しカーテンを開けていいか尋ねる。すると、あきはやめてほしい、空は見たくないと、忌まわしい自分の一族と繋がっているからと言った。

ももらは、あきに家は嫌いかと問う。すると、あきは、はっとし、家のことはももらには話す予定はなかったのに、言ってしまった。これ以降は家柄が違うももらにはわからないという理由で話さないとあき。

ももらは話した上でなければ、わかるかどうかわからないと言い返した。

余計なお世話とあきは言い、ももらを再度突き放そうとするが、ももらは余計であろうと世話をしたい。苦しんでいる仲間を、「ユーロ」に入ったばかりの頃自分に色々教えてくれた先輩を放っておけないと再び退かなかった。

あきは、放っておけばいいのにと呟く。

そこでうっちーが声をかけた。ももらの意思は強いみたいだ、ここで逃げても追いかけられるかもしれない、だから、ももらの知りたいことをあきは今話した方がいいのではと。

あきはそういうことであれば、しつこくされたらかなわないという理由から、一度しか話さない、それで満足するようにと言い、自分の思いを話し始めた。

自分は、わかっているように上級家庭の出身だ。厳しく育てられた一方で、恵まれた生活ができた。

そんな中、自分にアビリティがあると知った両親はじめ一族は、目の色を変えた。

一族への投資を呼び込もうと、方々に宣伝して回ったり、自分のアビリティを披露するパーティーなどを執り行ったりした。幼かった自分は、両親、特に父に強要され、舞台でリストレイントを何度も発動しては拍手喝采を浴びたが、当時の自分は自分のユニーク・テクニックが恐ろしかったし、見世物でもないと思っていたと回想した。

おそらく、章平は一族でそのパーティーに呼ばれ、自分と会ったのだろうと推測を挟みながら話を続けた。

時が過ぎるにつれ、自分がアビリティを所持しているということだけでは投資が呼び込めなくなったのだろう、自分が戦場に行っているという新しい情報を提示することで、新たな投資を掘り起こそうと躍起になったのではと推測している。

そして、噂程度の弱い情報であったが、単純に戦闘を行っている戦闘組織ではなく戦闘組織同士の戦闘を停止させることを目的としている「ユーロ」を知り、両親は、自分が「ユーロ」に入った時のももらと同じ年齢の頃、無理矢理「ユーロ」へ連れていき、半ば捨てるように自分を置いていったと言った。

ももらは、章平から昔のあきは優しかったと聞いた。何があったのかとそれを受け尋ねた。

あきは口の軽いお坊ちゃんとしながらも話を続ける。

名誉に目がくらみ、自分を捨てた一族など無価値だと思い、お返しに一族から学んだ全てのことを捨て、新しい自分を「ユーロ」で作り、「ユーロ」のために全力で5年間戦い生きてきたと答えた。

あきは、そう言った後、しばらく下を向いた。そして、震えるような呼吸を聞かせた。ももらは、あきが泣いてると判断。背中を撫でに行った。うっちーもそれを見守る。

涙声になりながらもあきは言葉を紡いだ。あの一族は、また「ユーロ所属の自分」では投資を呼び込めなくなったのだろう。今度は嫁入りという手を使い、婚約者の家から便宜をもらうのだろう。今度はどんな自分を作ればいいのかわからないと言った後、あきは声をあげて泣いた。その涙は、ももらにもうつった。今度はうっちーがももらの背中を撫でる。


◆再びの抑止

ももらとあきの涙は、しばらくすると止まった。

ももらは、自分とあきは正反対な育ち方をしたんだと言い、簡単に生い立ちを説明。あきは本当に真逆だと言った。

ももらはそんな家庭で育ったが、戦いに身を投じる際は、親の思いに反して来た。年上の先輩に言う事ではない気がするが、あきはちゃんと親の言うことをずっと聞いてきたいい子で偉いと言った。

横のうっちーは少し笑った。

それにつられてももらも少し笑ったが、更に続けた。さっきあきは空は一族と繋がっていると言っていた。自分が「ユーロ」に来た初日、あきは窓際で家族を感じてたのではと尋ねた。あきは、無意識にそうしていたのかもしれないと答えた。

ももらは、帰りたいんだと更に問う。あきは確かに、戦いに身を投じなかったらどんな自分になっていたのか想像した事がある。家に帰りたいのかもしれないと答えた。

ももらは自分もそうだ、アビリティが眠った際の自宅療養終了時、平和になったら帰ると約束していると。あきは、それを聞き、それこそが自分のやりたいことなのかもしれないと言った。

そしてあきは、「はじめは、家柄が違うあなたとなんかわかり合える筈がないって思って突き放してしまったわ。ごめんなさい。いい未来を作ろうっていう気持ちは、一緒だってわかった今、あなたと手を取り合いたい。いいかしら?」と言いながら、カーテンを全て開けた。

窓からの光は、うなずき、笑ったももらの顔を照らした。

ももらとあきは、この会談を見守ってくれたうっちーに感謝した。うっちーは、いい仕事した気分になったと言いながら2人の元を離れた。

その後、あきは一旦自宅に帰り、話し合いの末婚約を解消してきた。それにより、あきの「ユーロ」除隊も撤回。ももらの希望により「チェックメイト」は再びあきが持つことになった。


◆拘束と

あきが婚約解消してから数日後、あきの態度は元に戻っていた。いつものように素っ気なく、あの涙がなかったようになっていた。

それでも、ももらはあきの「優しさ」が奥底に流れているのだろうと推測できるようになった。それに、その態度があるからこそ「ユーロ」であきは戦えるのだと理解した。

その日の「ユーロ」は、戦闘に出ていた。ももらとあきは同じチームに入り、戦っていた。

すると、ももらは妙な雰囲気の光線を発見する。もしかしたら、「アーロス」に関係するものかもしれないとそれに近づいたが、それを見たあきは、危険だと判断した。

そして、セイクリッド・シードのチェックメイトを発動。すると、ももらの体は動かなくなった。その上で、あきはユニーク・テクニックのリストレイントでその光線を刺激、退散させた。ももらは反射的に感謝した。

戦闘終了後、あきはももらに危険な物には近づかないようにと忠告。ももらは、アルティーテから聞いた正体不明の「アーロス」の手がかりになるかもしれないと近づいたと言った。

「アーロス」というものは初耳とした上で、それは、重要なことだと考える、なぜ今まで話さなかったのかと詰問。ももらは、返す言葉を失った。

あきはため息をひとつついた後、一緒に行くから蒼虎にその存在を伝えるようにと言った。

あきは、蒼虎に自分の教育が悪かったと、ももらを庇いながら事の次第をももらに説明させた。蒼虎は、遅れてしまったものの「アーロス」の存在を知れてよかった。それを考慮に入れた戦いをこれからすると言った。波風が立たなかったことにももらはあきに感謝した。


◆一瞬の弱気

後日、ももらはあきに謝罪もしなければと思い立つ。そして、ももらは蒸し返すようで気が引けるとしつつも、「手を取り合ったばかりなのに、足を引っ張るようなことしてごめんなさい。でも、私、頑張りますから、これから、友達って呼んでいですか?」とあきに言った。

あきは、もうすでにももらは自分の友人だと思っていたが、勘違いだったようだ、今日からその感情を捨てると言い放った。驚き、悲しげな表情のももらを見て、あきは冗談と言い、そうしたいのであればまずは敬語を止めるようにと続けた。

ももらは嬉しくなり、あきに抱きついた。あきはどうしようもない人としながら一通りももらの好きにさせた後、出動の時間が迫っている。戦闘準備に入ろうと声をかける。今日は総力戦を予定している。ももらは頑張ると意気込んだ。

戦闘では持ち場が多少離れていたが、2人の戦いはいつにも増して敵を圧倒していた。

しかし、徐々に相手の様子がおかしくなってきた。ダメージを与えるが、すぐ回復してしまう。それと反比例するように「ユーロ」側がダメージを強く受けはじめた。

そんな中、あきが相手のリストレイントに捕まった。あきは事前に情報を掴んでいたとは言え、まさか自分と同じユニーク・テクニックの者と相対するとは、と言いながら、やはりリストレイントは恐ろしいと弱音を吐いた。

ももらは、友人となったばかりのあきの危機に叫んだ。あきの未来を奪うなと。

その時、アルティーテの声が響き渡った。ももらにアーロスを討ちに行けと。

ももらはあきの救出を優先したいと言い、一旦拒否する。

しかし、アルティーテは、ももらに加えて共に1人連れていくことが出来る。その者を導けば救われるだろうと提案してきた。

ももらはアルティーテにそれを依頼。神々しい光は、あきをリストレイントから解放し、ももらと共にアーロスの元へと導いた。


◆抑え、止める

次に目を開けたももらとあきが見たのは、あまりに汚い闇の空間だった。こんな所には来たことがないとあき。そして、ももらもそうだと言う。

やがて中央に無気力なアーロスが横たわっているのを発見した。

アーロスは横たわりながら、縄を繰り出し、ももらを拘束。あきはももらの縄を取り外そうとその縄を掴んだ。そこで2人の頭の中にアーロスとアルティーテの過去が流れてきた。

ももらは苦しいと言った。勿論、拘束されている体のことではない。あきは事情があったにせよ、そういう衝動を抑えるのが神なのではと尋ねた。

その問いに答えは返っては来なかったが、あきは、今、自分たちがアーロスを止めると宣言。すると、ももらを拘束していた縄が消えていった。

アルティーテの加護を受けたももらはセイクリッド・シードのフリーダムを発動。その力はあきのアビリティとフォースを融合させた。

それを受け、あきはチェックメイト・リストレイントを発動。

聖なる光の蔦はアーロスを拘束、立ち上がらせた。アーロスははじめもがいていたが、次第に凛とその蔦を受け入れていく。

そして、聖なる迫力溢れる表情に変わったアーロスは、この抑止の力がほしかったとし、綺麗な熱気の溢れる空間からももらとあきを地上に戻した。

戦場だった場所は、破壊尽くされていたが、穏やかな時間が流れていて、戻ってきたももらとあき、2人を迎えた。


◆未来のために出来ること

その日、「公益財団法人薬師寺復興財団」という組織の設立記念式典が執り行われていた。壇上には、幹部の姿と名前の垂れ幕が。沢山の名前が書いてあったが一部にはこう書かれていた。理事長、薬師寺明菜。副理事、百木美結と。

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