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家族の食卓

作者: 森永ダリオ

pixiv様主催の『執筆応援プロジェクト~ほろ酔いの夜~』に参加する為に書き下ろした作品です。

より多くの方達に読んで頂きたいと思いこちらにも掲載する事にしました。

それではごゆっくりどうぞ・・・。

「誕生日おめでとう。」


1月1日。

元日である今日は俺の誕生日でもある。

正月休みという事も有り久々に皆が集う台所ではおせち料理やローストビーフ、寿司等が並ぶ華やかな食卓を囲み賑やかな夕食のひと時を楽しんでいる最中、長年連れ添った妻と既に独立した3人の子供達が70歳になったばかりの俺を祝ってくれた。


「(俺も70歳か・・・。)」

妹夫婦から送られて来た贈答用のエビスビールの350ml缶を1缶空けほろ酔い気分でそんな事を思っていると、既に夕食を済ませた長女の子供達が台所へ戻って来ると3人は促されながら俺の前に立つ。


「おじいちゃん、おめでとう!」


俺自身、年を取ったせいも有ってか孫達のその言葉に意図せず感動を覚えていたがそれも束の間。

彼等は早くケーキが食べたかったらしく、母親である長女が切り分け皿に盛ってもらうとテレビゲームの続きをする為、そそくさとその場を後にした。


「(もう、大きくなったからな・・・。)」

まるで自分に言い聞かせる様にしながら孫達の後ろ姿を見ると嬉しさと淋しさが混同した複雑な気持ちになった。


ケーキを箱に戻し涼しい場所へと持って行った妻がこちらに戻ると再び俺を含め7人の大人達で賑やかに夕食を囲む。

俺と妻、長女とそのパートナー(長女にとっては夫、俺にとっては義理の息子に当たる人物)、未だに独身の長男、そして次男とそのパートナー(次男にとっては妻、俺にとっては義理の娘に当たる人物)という面子だ。


続いて焼酎かウィスキーでも飲もうかと席を立とうとした時、ジュースを飲んでいた長男がそれを察し、コップをテーブルの上に置くと俺を呼び止める様に話しかける。

「そうだ、父さん。俺、正月用に日本酒を買って来たから良かったら飲んでよ。」

そう言うと長男は一旦席を立ち、玄関の空いたスペースに置いていた紙袋を持って来ると、この日の為に買って来たという720ml入りの日本酒の瓶を取り出しテーブルに置いた。

下戸である長男が何故と思ったが、彼なりの心遣いなのだろう。

俺はそれを有難く頂戴し、2本ある内1本を早速飲んでみる事にする。


季節柄という事も有り先程まで玄関に置かれていた日本酒は適度に冷えており口当たりもまるでフルーツジュースの様に飲みやすい。

加えてこの日本酒が持つ芳醇な香りとの相乗効果も相まって実に心地良い気分にさせてくれた。


「お父さん、飲み過ぎないでよ・・・。」

そんな俺の様子を見兼ねてか妻が心配そうに俺に忠告する。


「分かってるよ。」

何時もの事だが妻の小言に対し俺はあしらう様に返答する。

すると自分の顔を人差し指で差す仕草をしながら次男が飲ませて欲しいと求めた。


「父さん、良かったら俺にも・・・。」

「ははは。『子供』にはまだ早いよ。」


それに対し冗談交じりに次男の要求を断ると妻は呆れた様子で俺を見ながら一言呟いた。


「お父さん。『子供』って言うけど、もうみんな、30超えてるわよ・・・。」


その瞬間、俺の中で無意識に昔の記憶が蘇った。

高校卒業後、東北の大学に進学した俺は当時、看護学校に通っていた妻と出会い、交際に発展。

大学卒業後は地元に帰省し町の職員として働きながらも遠距離恋愛として交際を続けた末、無事に結婚。

3人の子供にも恵まれ、仕事と家庭を両立させ順風満帆とは言えないが何とか此処までやって来たが、そんな俺も気が付いたら70歳。

2か月後の3月1日には妻も同じく70歳になり、まだ20代前半だと思っていた長女も既に42歳の管理職。

中学生と小学生だと思っていた長男と次男はそれぞれ36歳と33歳となり皆いい歳になっていた。

俺は自分だけ過去に取り残されている感覚になりながらも時が経つのは早い物だと月並みな事を思う。


「へへ。俺にとっては、お前らは何時までも『子供』なんだよ。」

我に返った俺は今の心境を悟られまいとあえて冗談半分に憎まれ口を叩くと、嘗ての様に『しょうがねぇ、オヤジだな』と言いたそうにしながら苦笑する妻と子供達。

その様子に対し、どういう反応をして良いか分からないでいた義理の息子と義理の娘は取り敢えずその場の空気を壊さない様、愛想笑いをしていた。


結局、皆に飲んでもらう事にした俺は長男に指示する形で食器棚からお猪口を取り出す様に言うと彼は妻、長女、次男の順番にそれぞれ渡す。

(義理の息子と義理の娘は長男と同じく酒が飲めないらしい。)

それに続ける様に、先程蓋を開けた日本酒を瓶ごと渡しお猪口に注がせると、彼らはまず香りを楽しんだ後、味わう様に口にする。


「美味しい。」

「飲みやすい。」

「爽やかな味わいだ。」


だいたいこちらが予想していた通りの感想が飛び交い俺は微笑を浮かべた。


だが、こうして家族が久々に集まった食卓で妻を含め大人になった子供達(長男は飲んでないが)と70歳の誕生日に一緒に酒を酌み交わす日が来るとは。


感慨に耽る俺は心までほろ酔い気分になった様な温かい気持ちを覚えるのであった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

ご意見ご感想等が有ればお気軽にお寄せ下さい。

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