向日葵の約束
暑さが和らぐ夏の夕暮れ
向日葵畑のあるバスの待合室で楽しげに話す少年と少女が見える。
少年は少しうつむき、爪先を見ながら時間を気にしている。
少女はそんな少年を横目にバスが来ないかと、時々左右をキョロキョロしてる。
すると、少年は背負っていたリュックから1枚のしおりを出した。
しおりには少年が描いた向日葵と太陽の絵。
お世辞にも上手ではないが丁寧に描かれたのが一目見てわかる。
「これ、あげる!」少年は少女に差し出す。
いきなりのプレゼントに少女は驚きながらも
にっこりと笑い受け取った。
「ありがとう。大切にするね」と答えると
持っていた絵本に大切に挟んだ。
「僕、遠くの学校に行っても忘れないからね?」
少年は少女に小指を差し出し
「約束。大きくなったら、ここの向日葵の畑で会おうね!」
少女は目に涙を浮かべながらも一生懸命に笑顔を作り
「うん。約束だよ?絶対大きくなったら会おうね!」と指切りをした。
そんな微笑ましい光景が霧の向こうに霞んでいく。
僕は必死に二人に手を伸ばす。
そして、手が届く寸前で目が覚めるのだ。
あの夢は一体誰の?
どちらも顔が霞んでいて、声だけははっきり聞こえてる。でも僕が手を伸ばしても、伸ばしても二人には届かない。
いくら考えても記憶を辿ろうとしてもわからない。
幼い記憶に差し掛かると頭に靄がかかり思考が阻まれる。
考えが纏まらないまま、今日も風景を写真に収める。
僕は売れない写真家だ。
たまに依頼が来てつまらない風景を収める日々。
そんなある日、本棚からしおりが出てきた。
夢に何度も見たしおり。少年が少女に送ったしおり。
何故、僕の本棚に?考える間もなく、しおりが光り出す。
眩しさに目を瞑っていると「おにいちゃん、遠くの町に行っちゃうの?」夢に見た少女がいた。
瞬間思い出す。この子は僕が好きだった近所の子で、僕は東京に親の転勤で行くことになり、最後にバス亭でこの子に手書きのしおりを送り、再会を約束したんだ。
でも叶わなかった。彼女は高校の時に事故に遭い亡くなった。鞄には僕のあげたあのしおりが入っていて。親御さんに渡されたんだ。
僕はもう会えない幻の彼女にシャッターを切った。
バス亭の裏には向日葵の畑。優しく微笑む彼女がいた。
皮肉にもその写真は大賞を取った。でも誰にも作品は売らず自室に飾り、叶わなかった願いを胸に今日も生きている。