君に言わないといけないことがある~今日挙式あげたばかりですが?まさか~
「エリザベート、今夜僕は君を抱かない。」
披露宴が終わり各々貴族が帰った直後、今日、目出度く挙式を挙げた相手である旦那様は口を開いた。
「は?」
思わず淑女らしかぬ声が出たが許して欲しい。
「君に言わないといけないことはある。先に寝室で待っていてくれ」
そう言って旦那様は遠目からでもわかるサラサラな銀色の髪を揺らしながら黒い目を淀ませてどこかへ行ってしまった。
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私、エリザベート・メルティナは公爵家の長女である。旦那様との出会いという出会いはなかった。
ただ、15歳の誕生日に旦那様…オリヴァー・ランドルソン辺境伯との婚約が決まった。当時のオリヴァー様は辺境伯ということもあり侯爵家同等の地位があり、尚且つまだ若い青年らしく、なかなかの美丈夫だと噂されていた。
私はお茶会や夜会がすきではなく、滅多に家を出ないため誰だかわかっていなかった。だが、婚約者のことを知らないのはまずいと婚約が決まった後に彼の噂を集めた。するとどうだろう。誰しも彼を褒める。
美しい見た目、華麗な剣さばき、低くも痺れるような甘い声、物憂げな表情、無駄な筋肉のついてない鍛え上げられた肉体美。皆を引っ張る統率力。我が家の騎士たちも主君に迎えたい方だと言っていたわ。
他にも色々な噂があったわ。
でも、なぜ私が彼の婚約者になったにかはわからなかった。そもそも私は、幼馴染のジョセフ・ビロードという侯爵家の次男と結婚すると噂されるほど仲が良い。
てっきりジョセフが婚約者を迎えたのかと思ったけれど聞いてみたら違うようだし、寧ろ彼と私の婚約を知らなかったみたいだった。
だって聞いた直後、いきなり部屋をとび出てお父様の執務室へ向かわれたんだもの。
まあそんなこんなで結局婚約期間中は一度も彼と会うことは出来ず、噂しか知らなかった。
そして結婚できる16歳になった誕生日に彼と結婚式を挙げた。
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そして現在は、彼の言った通り寝室のベットに腰かけ待っている。
きっと彼は執事長たちにも聞かれたくない内緒の話をするのだろう。
よく聞くアレだ。〝他の女性を愛している〟とかそういう話だろう。
婚約期間中に集めた噂話に想い人がいると聞いた。それも何年も前からずっとと。きっとそういうことだろう。
覚悟はしてた。想い人高貴な方では無いらしくて、貴族との結婚は難しいらしい。だから私みたいな平凡な容姿だが従順そうな地位の高い娘選んだのだろう。…彼はきっと地位が欲しかったのかもしれない。確固たる己の地位が。そして想い人迎えあげるつもりのはず。よし、目の前に目の保養がある。それだけで大丈夫。
ーーーコンコンッ
「どうぞ」
「…エリザベート…はぁ」
ノックをして入ってきたオリヴァー様は深い息を吐き横へ視線をずらす。そうよね…使用人たちは何も知らないで初夜の準備をしたのだもの。普通の服にしてなんて明らかに不自然すぎて言えなかったわ…。想い人以外の裸では無いとはいえ、際どい服で見たくないわよね…。
「ごめんなさい…私、着替えてきますわ」
「いい、そのままで」
「え、はい」
立ちあがろうとすると彼がやんわり断り隣に座った。
「聞いて欲しいことがある」
「え、ええ!わかってますわ!想い人がいらっしゃるのよね!?」
「えっ?いや、そ、なんだが…いや多分なにか思い違いしてそうだな……「心配せずとも私、上辺の妻を演じますわ!」
「違う!!!想い人はいるが!君を上辺だけの妻にするわけがないだろう!!!!」
「は?」
「あのな、俺が好きなのは、エリザベートなんだよ」
「え?」
「エリザベートが侯爵子息と良い仲なのは知っている。彼が君を大事にするなら考えたんだ。でも、でも、彼では君を幸せに出来ないと思って……引き裂いてしまって済まない…」
「はぇ?」
「謝って済むとは思わない!だが君が嫌がることはしないと誓う!」
「あの、旦那様」
「なんだ」
「私、ジョセフとは付き合っていませんわ」
「……?」
「ジョセフと結婚する…?そんなことは絶対ありえないことですし、特別な気持ちなど彼に抱いていませんわ」
「いや、しかし、彼は、夜会の度に君とどこかへ出かけたなどと…」
「ああ……ジョセフは気付いていないようですけど私には妹がいますの」
「は?」
「まあ公にはされてない秘匿している庶子ですので知らないと思いますわ」
「いやでも」
「顔はそっくりですのよ。私も彼女も母譲りの顔で、歳も私のひとつつ下ですが背丈も同じなのでパッと見双子みたいに見えるんです。ただ彼女は両親どちらとも違う色を持っていまして、母の浮気がすぐバレましたわ。このご時世に遺伝子が調べられて良かったですわ。危うく私も庶子扱いされるところでしたから。」
「え?」
「まあそんなわけで彼女は私とそっくりな分、色を変えてしまえば見分けがつかないのよ。魔法で変えたか、お忍びだから変装してると誤魔化したかだと思いますわ。」
「つまり彼は」
「ええ、ジョセフは彼女と私を見分けられない時点で結婚の話はなく婚約もしていない状態でしたの。性格はかなり違うと思いますのに何故かしら。」
「そういう事か…じゃあ俺を好きになってくれる…?」
「ええ、美丈夫な旦那様が出来て嬉しい限りですわ。」
「エリザベート…!エリー!俺だけのエリー。愛してる」
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そんなこんなで無事に旦那様と初夜を過ごした私は順風満帆にこの生活を謳歌しております。
想い人がいる、という噂は、彼の虫除け用の嘘だったそうで、会いに来ないのもお父様が邪魔していただけでずっと一途に思い続けて居てくれたらしく、幸せの絶頂です。
そうだわ。ジョセフ…彼は私の妹、“エリシア”と結婚したらしいのよ。ただ、結婚式当日の神父様が神の御言を代弁するところで初めて名前が“エリザベート”ではなく“エリシア”で違和感を持ったそうなの。阿呆すぎないかしら。
まあそれでも私がオリヴァー様に嫁入りしたから家督を告げると信じて、エリシアと結婚したようだけど。メルティナ公爵家はお父様の血筋なのよね。だからお父様の血が流れてないエリシアはお母様の方のお家に引き取られるか平民行きだと言うのに。
まあそんなことは知らないわ。
お父様は養子を引き取ったと言っていたし、もうそろそろ現実が見えてくるのではないかしら。
さよなら、ジョセフ。ありがとう、エリシア。
私はあなた達のおかげで素敵なオリヴァー様という旦那様と出会えたからあなた達の幸せを願っているわね。もう会うことは無いだろうけど。




