メスガキ粉砕機、月一稼働中
少女は服を脱がされ、天井から鎖で吊るされていた。
「や、やめろ……! やめて……!!」
拘束されている少女は懇願する。
「ごめん、君がどんなに命乞いをしても俺の選択は変わらない」
俺は淡々と感情の籠らない声で宣告した。
「せ、せめて、あと一日だけ待ってよ!?」
少女の最後の頼みに対し、俺は首を横に振った。
「駄目だ。今日やる。今日やらないと駄目だ。これは君の為なんだよ? 俺だってこんなこと、本当はしたくないんだ。中身はともかく見た目が少女の君を粉砕機に落とすなんてこと、本当はしたくないんだ」
少女の下では大口を開けた粉砕機が轟音を立てていた。
「や、やめて……あたし、何でもするよ……!」
少女は涙ながらに懇願する。
「そうか、何でもするんだね」
俺は笑顔になった。
なんでもする、なんて嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
願いを聞き入れられたと思った少女はつられて笑った。
「なんでも、ってことは粉砕機にかけられてもいいんだな?」
「…………え?」
「じゃあ、とっと粉砕機にかけられてくれ」
「いや、待っ…………」
俺は無慈悲に少女を吊るしていた鎖の錠を外す。
直後、少女は落下し、粉砕機に飲み込まれた。
「あああああ!」と少女は叫んだが、すぐに聞こえなくなった。
代わりに粉砕機の轟音が増す。
しばらくすると粉砕機にかけられ、バラバラになった少女の肉や骨、そして、大量の血が落ちて来た。
そして、少女の血や肉や骨に混ざって、キラキラと光る物質も落ちて来る。
俺はそのキラキラと光る物質だけを回収し、水でよく洗った。
「ふぅ、今回は結構多いな。まぁ、一週間も余分に逃げられたから無理もないか……」
キラキラ光るものの正体は魔石だ。
魔石は様々なものを動かす燃料として重宝されている。
普通は鉱山から採掘するのだが、例外として〝魔石病〟に侵された人や亜人からも採取が可能なのだ。
「さてとこれを売ってくるか」
俺は魔石をバックに詰めた。
「おい、待て!」
振り返ると血肉、骨の破片が無くなっていた。
代わりに先ほど粉砕機にかけられた少女が立っている。
「なんだ、アンジェラ、今回は復活が早いな」
「君に対する怒りでいつもの三倍の速度で復活してやったよ!」
何も身に着けない裸の少女、アンジェラは俺に迫って来た。
「おいおい、俺はお前を救ったんだよ」
俺とアンジェラの出会いは半年ほど前、魔石病に侵されて倒れていた彼女を偶然拾った。
以後、医者である俺がアンジェラの治療をしている。
「何が救った、だよ! 笑顔であたしを粉砕機に放り込んで…………」
「何度も粉砕機にかけていると慣れてくるもんだな。それに普段、生意気なお前が粉砕機にかけられて、断末魔が聞こえてくるとストレス解消になる」
「黙れ、ヤブ医者! 君は一歩間違えば、猟奇殺人者になっていたんじゃないか!?」
復活したアンジェラはずっと興奮していた。
「殺人者だって? おいおい、俺は医者だよ?」
「患者を月一で粉砕機にかける医者がどこにいるんだよ!」
「ここにいるじゃないか……って、何をするんだ!」
アンジェラは後ろから俺に飛び掛かり、首を絞める。
「おいおい、ロリババア、あまり裸でくっつくな。俺に少女趣味があったら、襲っているぞ?」
「猟奇殺人者より、ロリコンの方がまだ健全だよ! それに君如きじゃ、あたしを襲えないよ。何しろ、あたしゃ…………」
「何度も聞いたよ。アンジェラ・ヴァー……なんだっけ?」
「そろそろ覚えてよ! あたしは真祖様より直々に血を与えられし、選ばれた吸血鬼! アンジェラ・ヴァース・オリテミス・セロンレード! 君の目の前にいるあたしは伝説そのものだよ!」
「月一で肉塊になっている奴が何を言っているんだかな……」
「好きで肉塊になっているわけじゃない!」
俺がアンジェラを月一で肉塊にしているのは別に猟奇的な快楽を満たす為ではない。
アンジェラは〝魔石病〟に侵されている。
魔石病は骨格に魔石が出来る病だ。
魔石は徐々に成長する。
やがて、内臓を圧迫し、肉を割き、患者を死に至らしめる不治の病である。
人間に限らず、エルフやドワーフや獣人族も罹る可能性のある病で治療法は見つかっていない。
アンジェラも例外ではなかった。
いや、彼女の場合はもっと酷い。
その強い不死性によって、身体ほぼ魔石になっても死ねなかった。
「でも、我ながら良い閃きだったよ。吸血鬼は肉塊からでも再生するって聞いたから、試しに粉砕機にかけてみたら、見事に実験は成功して、身体と魔石の分離に成功した」
俺は自分の功績を自慢したつもりだったのに、アンジェラに睨みつけられてしまった。
「今、はっきりと実験って言ったね…………」
「細かいことは気にしないでくれ。だけどまさか、不死の存在、吸血鬼ですら、魔石病にかかるなんてな。不死が、不治、なんて笑えるな」
「何も笑えない! いい加減にしないと血を吸い尽くすよ!」
「まぁまぁ、怒りを鎮めてくれ。ほら、見ろよ。今回はかなりの魔石が手に入ったぞ」
俺が袋を揺らすとジャラッという音がした。
「いや~~、良い収入源だな」
「…………君はまさか、金銭を得る為にあたしを本気で治す気になっていない、ってことはないよね?」
「そんなはずないだろ」
俺は満面の笑みで言った。
「胡散臭い笑顔だ」
アンジェラは疑いの視線を向けてきた。
もう半年もこの調子なのだから、疑われても仕方ないが、本気で治療法を考えている。
初めて、アンジェラの肉体と魔石を粉砕機で分離した時はこれで魔石病が治ったと思ったが、駄目だった。
今でもアンジェラの体内では魔石が生成されている。
そして、今のところ、治療法は見つかっていない。
だから、身体を動かすのに支障が出る前後、『月一』でアンジェラを粉砕機にかけている。
「さすがに肉体を粉砕機にかけて、肉体と魔石を強制的に分離するなんて治療法は肉片からでも復活できる吸血鬼にしか使えない治療法だしな…………」
「完治してないから延命法と言ってね。それにいくら不死の吸血鬼でも痛覚はあるから、ツキイチで肉片にされるのがどれだけの拷問かを理解してほしい」
アンジェラは俺に抗議する。
「でも、なんで少女の姿になるんだ。初めて会った時は豊満な身体の大人の姿だっただろ」
「今更? 少女の姿になるのはあたしが吸血鬼になったのが、この見た目の歳だったからだよ。大きな損傷を受けると見た目の成長が元に戻るの」
「へぇ~~、そうなのか。それにしても見てみろ。お前が一週間も逃げるから、魔石の量が多過ぎで粉砕機の刃が欠けているじゃないか。来月までに新しい刃を買わないと…………」
「来月までにあたしを治す努力をしてよ!」
見た目は少女、中身は百年以上を生きた伝説の種族が涙目で懇願する。
「まぁ、とりあえず、魔石を換金しに行こう。何が食べたい?」
「新鮮な若い男の血。首筋に噛み付きたい」
アンジェラは実に吸血鬼らしい希望を言う。
「駄目だ。そんなことをしたら、大騒ぎになる」
「別に街で男を襲う気はないよ。ほら、目の前に美味しそうな若い男が……あがっ!?」
俺はアンジェラの口に魔石を一つ、突っ込んだ。
「断る。血を直接飲まれるのはごめんだ。それにお前、自分で血は一年くらい飲まなくても大丈夫だと言っていただろ?」
アンジェラの口に突っ込まれた魔石を取り出しながら、
「それは生命維持の話。嗜好品として、若い男の血を首筋から生で飲みたい」
となおも俺の首筋を狙う。
「だから断る。これ以上言うともう一回、粉砕機にかけるぞ。さてとそろそろ出かける。アンジェラ、一緒に出掛けるなら、服を着てくれ。裸の少女を連れて歩いたら、一発で捕まるからな」
「う~~、残念だけど、諦める。もう粉砕機は嫌だ。若い男の血が駄目なら肉を腹一杯に食べたい」
「それならいいぞ。何しろ、これだけの魔石が手に入ったからな。今日は何でも食べていいぞ」
「あたしを粉砕機にかけておいて、調子の良いことを……さてと服を着たぞ」
「じゃあ、街へ出ようか」
俺と伝説の種族の共同生活はもう少し続くようだ。
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