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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
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運命の岐路 5

 八卦羅針盤の針が俄かに数回、回転し再び方向を定めると、土の穴蔵のような場所に出た。

 

 縄で縛られた、脚と手首が見える。

 

「さっきの時間点から、さほど経ってないみたいネ。場所は……」すぐに座標を確認した楊が、報告する。

 

「牢獄。だろ?」「……でしょうね」劉らは、静かに様子を伺う。朧げな人影が、モニターに現れてくる。

 

『目覚められたか、鯀殿』

 

 あの見目麗しき青年が、丸太の格子向こうから声を掛けてくる。

 

『相柳……くくく……我が命運……ここに尽き……か』鯀は、自嘲して言う。

 

『処刑人は其方か? 儂は石頭じゃ。其方の細腕で、割れるかな? ふ、ふははははは!』

 

 乾いた笑い声が響き渡る。気にする素振りもなく、相柳は、従者に命じて、牢の出入り口を閉ざすかんぬきを外させる。

 

『どういうことだ?』『恩赦にございます。出られよ』

 

 訝しむ鯀をよそに、相柳は、宮殿、謁見の広間へと彼を案内する。

 

 すでに帝は、玉座に腰掛け、二人を待っていた。相柳に続いて、鯀も、恭しく頭を下げる。

 

『鯀、いや蘇尤よ。本来であれば、死罪は免れぬところである……が、其方の治水の才、殺すには惜しい。その才、朕のため、今一度、振るう気はあるか?』『勿体なきお言葉……何なりとお申し付けを』

 

『うむ……。相柳』『は……』

 

 相柳は、鯀の正面に進み出る。鯀は、軽く頭を垂れ、かしこまったまま、相柳の言葉を待つ。

 

『鯀殿。貴方様には、南江の都へ向かって頂きます』『南江⁉︎』

 

 南江——今で言う長江流域も、度重なる水害と冷害で困窮し、中原近くまで避難してくるものも少なくないという。かつて、天下を二分し争った炎帝の末裔が開いたという大都市、南都も、かつての繁栄は衰え、飢餓が絶えず、風前の灯……

 

 この南都周辺の水害を克服し、再び実りある地とした後、黄帝の威光を示して、その地を献上させるよう働きかけよ——これが、鯀に課された南都調略の計である。

 

 

 ****

 

 兵士らに引っ立てられた鯀は、牛の背に乗せられ、そこに固定される形で、再び拘束される。護送の兵士らが、彼を取り囲む。

 

 遠巻きに、宮中の役人、武官らが冷ややかに見守り、治水の失敗を罵る声や、嘲笑が巻き起こる。

 

 にわかに兵らが道を開ける。細身の男が、その間を通り抜け、鯀のすぐそばまで近づいた。

 

『其方の策か、相柳。帝の赦しを引き出すとは、大したものだ。ともあれ、礼を申す』鯀は視線を向けず、小声で話しかける。

 

『礼には及びませぬ……貴方様には、まだ、死なれるわけには、ゆかぬ故……』

 

『ん?』その言葉は、鯀の表層意識には、さほど意識されなかったようだ。

 

『いえ……。世間の目もあります。説明しましたとおり、名目上、貴方様方は流人の身。一旦は、東の流刑地、羽山へと送ります。そこで、南江へと導く行商を手配しましょう。それと、この浮遊をお連れください。南方の言葉にも、幾らか通じておりますゆえ』

 

 相柳の腰のあたりから、浅黒い肌の、小鬼のような顔が覗く。貫頭衣さえ、身につけているが、中身は全くの異民族だ。蓑をまとったその姿は、まさに蓑虫のようである。

 

 <天仙娘娘>チームは、先程まで交戦していた、妖怪変化らのイメージをその小男に重ねずにはいられない。

 

『ふん、見張り役……というわけか』『……いかようにも』『ははは、南方の言葉がわかるとは心強い。頼りにいたすぞ』

 

 小男は、ニタリと口を緩めると、鯀を縛り付けた牛の背に、後ろ向きに相乗りする。その行動に動揺し、引き下ろそうとする護送の兵らを相柳が宥め、さらに配下の者に命じて、縄で数珠繋ぎにされた、三十名ほどの男達をこの場へと引き連れさせた。

 

『親方あぁああ!』『お前ら!』

 

 鯀の最も信頼する部下達だ。古くから彼に付き従い、今回の工事の失敗により、鯀と共に罪に問われるところであった。

 

 さらに、見慣れない人足らも混じっている。彼らは、人柱にされかけたところを鯀に助けられた者達だと口にする。

 

『旦那に頂いた命じゃ。ワシらもお連れくだせぇ』

 

 鯀は目を丸めて、相柳を見遣る。

 

『良いのか?』『人手がいるでしょう。ご存分に』

 

『相柳……何から何まで、かたじけない』

 

 牛に固く縛り付けられたままの不自由な身体で、鯀は、何とか相柳に一礼する。

 

『いえ……期待しておりますよ、鯀殿』

 

『うむ。十年の後、南都で会おうぞ、相柳!』

 

 相柳は、静かに微笑むと、約五〇ほどになった一団の先頭に向かって、声を張る。

 

『……では! 出立せよ!』

 

 一団は、東の地へ向け、ゆっくりと歩み出した。

 

「八卦盤が⁉︎」

 

 楊の監視する八卦盤モニターの中で、(こう)(卦を構成する基本となる図象)が、何度も組み替えられ、新たな卦の相を作り出そうとしている。

 

 連動して、羅針盤の針も、徐々に回転速度を速め、また何かを探し求める。

 

「この旅立ちが、この男の運命の岐路、というわけですね。なれば、この旅路の先こそ、我らの行くべき所のはず! 総員、PSI-Linkへ再接続! 追跡します!」劉は、凛として顔を上げる。<天仙娘娘>チームの皆の表情にも、希望の色が戻って来た。

 

「時空間転移、パラメーター検出! いけるヨ!」

 

「見極めましょう、この男の運命を!」

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