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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
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天仙娘娘 3

「嗚呼⁉︎ 左舷、収束反応! 急速接近‼︎」

 

 きつね顔の美貌を引きつらせ、<天仙娘娘>の副長、楊が叫ぶ。

 

「全周的同位相拡散仙術波!」全周モニター左舷側に、波打ちから急速に姿をみせる、妖魔の一群を睨め付けながら、劉は命じた。

 

「波動解析……間に合わない! 接触まで、あと三○秒!」緑髪の仙技士は、焦りを露わに発する。

 

「正面、右舷からも来る‼︎」先ほどまで、<天仙娘娘>が撃退しつつあった、物の怪共も勢いを盛り返し、逆襲に出てくる。

 

「仙術防壁‼︎ 最大展開! 衝撃に備え!」

 

 命じて劉は唇を噛む。波動収束フィールドは、多重次元に及ぶインナースペース情報の、ほんの一部を見せているに過ぎない。初期の収束だけで、処理対象の総力を見誤った事を悟っていた。

 

 無数の醜悪な顔のようなものが、<天仙娘娘>へと覆い被さろうとしたその時。

 

 一条の螺旋を描く光の束が、左舷側に湧いた新手の一軍を薙ぎ払う。

 

「左舷側反応消失!」「こ……これは?」

 

 間を置かず、第二射、第三射と、<天仙娘娘>を取り囲む物の怪の群れへと、光の矢が射かけられる。

 

 物の怪が残した閃光の渦から、一対の衝角状の構造物が抜け出てくる。

 

「左舷後方、<アマテラス>!」

 

 <アマテラス>の両舷上部に備えられた、主装備『PSIブラスター』の六つの球形状放射器が青緑に光り輝く度、機関砲の如く光の矢を放ち、的確に妖怪達を貫いていく。

 

 捕捉された妖怪の群れは、ほぼ消え去り、残った反応も波動収束フィールドの領域から逃げ去っていった。

 

「マジ……」「たった六門のブラスターだけで……瞬殺じゃん……」

 

 <天仙娘娘>のクルーらは、ただ呆然となって見守る他なかった。

 

「さっすが、ナオ!」<アマテラス>のブリッジで舵を取るティムが、嬉々として声を上げる。

 

「いや、アムネリアのサポートのおかげさ」振り向いて一瞥する直人に、アムネリアの顔も綻んでいた。

 

「姫様々だな。やっぱ、連れてきてよかったろ、ナオ?」

 

「え……う……ま、まあ……」

 

 白い歯を見せて笑いかけるティムに、直人は目を合わせる事なく俯いた。

 

 

 ——三時間ほど前 IN-PSID本部——

 

「やぁだぁ〜〜〜〜‼︎ 絶対、やだぁあああああ‼︎ 亜夢も一緒に行くのぉ‼︎」

 

 日本に本部を置く国際PSI災害研究機関(通称IN−PSID:Institute of PSI Disaster)内、IMC (Inner Mission Control Center)に幼げな少女の喚く声が響き渡っていた。IMCへ入室するなり、インナーノーツ五名は、思わず耳を塞ぐ。

 

「亜夢⁉︎」「あ、なおとぉ‼︎」

 

 直人の姿を認めるや、喚き声の主、亜夢は彼の元へと駆け出す。その後ろからIMCオペレーター、藤川真世も小走りで駆け寄ってきた。

 

「その……風間くんたちがまた出かけるって、勘付いたみたいで……」真世は、申し訳なさげに伏せ目のまま状況を説明する。困惑顔の直人に、既にインナーノーツのユニフォームを身に付けた亜夢は、満面の笑みを浮かべていた。

 

「そりゃそうでしょ。二人は『ソ・ウ・ル・メ・イ・ト』」「サ、サニ!」サニの言葉の端々に、直人はチクチクと背中を刺される思いだった。

 

「神取先生にも不審がられそうだったから、とにかく連れてきちゃったんだけど……あっ!」

 

 亜夢は、直人の手を握りしめ、両の眼で直人をしっかりと見詰めて迫り寄る。真世は、眉を顰めていた。

 

「なおと! 行こう! あの、『ホントの世界』に!」距離を詰めた亜夢の体温は、真夏の日のようだと、直人は感じる。

 

「ホ……ホントの……世界?」

 

「うん! だって、ここ、夢の中でしょ? 亜夢はあっち側から来たんだもん!」

 

「こっちが、夢って……おいおい……」ティムは、困惑した笑みを浮かべている。

 

「五年も眠り続けていたんだ。夢の世界、いやインナースペースの方が、亜夢には馴染みがあるのかもしれないな」アランが、亜夢の言葉を生真面目に考察する。カミラは、アランに頷くと、付け加えた。

 

「……こちらが夢幻ゆめまぼろしで、インナースペースが実在の世界……とは、よく言われるけど。こちらに慣れきった私達には、なかなか掴み難い感覚ね」

 

「ややこし〜コ」サニは眉を寄せて呟く。

 

 直人は、周りの仲間達を伺いながら、幼い少女の笑みを浮かべた亜夢に言い聞かせる。

 

「だ、ダメだよ、亜夢。この間は、咲磨くんのこともあったし、『アムネリア』の力も借りないと、とてもじゃなかったけど……今回は……」

 

「『あの人』も一緒に行きたいって!」直人の腕にしがみつき、駄々をこね始めた亜夢だったが、不意に大きく身を仰け反らせた。

 

 

「亜夢⁉︎」よろける亜夢を、直人が咄嗟に支えようとするも束の間、ゆっくりと身体が戻ってくる。亜夢の表情は、先ほどまでとは真逆の静けさを帯びていた。

 

「……すまぬ……なおと……」「えっ……ア、アムネリア?」

 

 亜夢の体に同居する、『アムネリア』と呼ばれた人格が、亜夢の体に現れている。アムネリアは、静かに直人に微笑んでみせた。

 

「……貴方がたの邪魔をする気はない……されど……あ! ………」アムネリアは、胸のあたりに突き上げる痛みに、思わず身体を丸める。

 

「もう! なんで⁉︎ 一緒に行きたいくせにぃ‼︎ じゃ亜夢だけいく!」火の粉のような幻影を撒き散らし、亜夢の身体が起きあがってくる。『亜夢』の人格が、また肉体に顕在化していた。

 

「ねぇいいで……」直人に縋り付こうとする亜夢。「ダメ……ダメよ……亜夢」それをアムネリアが引き止める。

 

「……うるっさい! いいよね! なお……」「いい加減になさ……」「どうして⁉︎ なんで⁉︎」「なおと達のお仕事……求められない限りは……」「行きたいったら行きたい‼︎」

 

 亜夢の身体を共有する二つの人格『亜夢』と『アムネリア』が、忙しなく入れ替わりを繰り返す。"二人"が、一つの身体で言い合う"ひとり芝居"には皆、呆れる他ない。

 

「……ナオ、何とかしてやれよ」ティムは見かねて直人の肩を叩いて、"二人"の前へと押しやった。

 

「え……で、でも……」直人の入っていける余地もない。

 

「同行を許可する」

 

 その時、入り口の方からかけられた声に、皆が振り返った。小柄で白髪、豊かな白い口髭を蓄えた老博士に、皆の視線が注がれる。

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