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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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愛の死 7

「<ノルン>の時空間転移で、アナザーアースを⁉︎」カミラは、目を丸めて声を上げた。


『ああ、あの星の情報量は見かけほど大きくはない。アトランティスを受け入れる容量を確保していたのだろう。空の記録媒体(メモリー)のようなものだ。<ノルン>の、この機関暴走を利用すれば、時空間転移に巻き込んで、飛ばせるはず』自席に戻ったアランの声は、いつも通りの冷静さを保っている。


「けど、どこに飛ばすってんだ?」ティムは、手振をつけて問う。


『それは……』『ワタシが見つけます。ユグドラシルを使って』言葉を詰まらせるアランに重ねて、ソフィアが答える。


 <アマテラス>の一同、そして、通信を見守る者達は皆、一様に息を飲む。


「そ、それじゃ、貴方たちは⁉︎」カミラは顔を青ざめさせて問いかける。


 ソフィアは、静かな笑みだけで答えた。


『オレもここで、ソフィアとベルザンディをサポートする。お前達は、この加速時空間からすぐに退避を!』アランは、曇りない瞳でカミラを真っ直ぐ見つめていた。


「だめ……だめよ‼︎ そんな……どこかもわからない別の時空に飛んだら! …………帰ってこれなくなるわ‼︎」眉を八の字にし、美しいブロンドを掻き乱してカミラは叫ぶ。


『だが、他に方法はない! ……迷ってる暇はないんだ!』『準備できたわ! 始めるよ、アラン!』


 アランが頷いて答えると、ソフィアは、すぐにPSI-Linkシステムにダイレクト接続し、変性意識へと入っていく。それを確かめ、アランは、もう一度カミラを真っ直ぐ見つめた。


『オレたちも諦めない……きっと、戻る』


「アラン!」カミラの声を掻き消すかのように、<アマテラス>のブリッジモニターに、無数の警報が立ち上がる。


「下方、全周囲に、波動収束反応多数‼︎ アトランティスからの攻撃よ‼︎」咄嗟に対応したサニが叫ぶ。


 飛翔する何かが<ノルン>に迫る。ビジュアル構成されたその飛翔体は、トマホークによく似たミサイル状の形状をしているようだ。


 スクルドは咄嗟にユグドラシルから弾道を計算。即座にカウンターデコイと結界弾で対応する。


『させぬ……ニンゲン! ……滅びよ‼︎』


 ミサイルの数は、増え続ける。トマホークだけではない。国家、時代を超え、多種多様なミサイルや砲弾が、<ノルン>を包み込むように飽和攻撃を仕掛けてくる。


 ユグドラシルの予測とスクルドの演算能力をもってしても、全てに対処しきれない。シールドとバリア、回避行動で致命傷は免れるものの、<ノルン>は、船体各所から火を吹き始める。


『カミラ! 早く離脱しろ! お前たちを巻き添えには…………』<ノルン>との通信が、突如、遮断される。通信機能が、故障したようだ。


「くっ……最大船速‼︎ シールド全開! <ノルン>の盾となる‼︎」兎にも角にも、<ノルン>を守ることが最優先だ。カミラは、<アマテラス>を<ノルン>下方へと転進させ、迫り来る攻撃に備える。


「<ノルン>は、やらせない!」


 アムネリアの観測能力の支援を受けながら、直人は、PSI-Linkシステムを通して、一斉に標的を定めると、速射モードPSIブラスターと、トランサーデコイを射掛けた。


 <アマテラス>の一斉射が、ミサイルと砲弾の一群を薙ぎ払う。


「ベル、どうだ⁉︎」シールドとバリアでダメージコントロールに徹しながら、アランは問う。


『……いくつかパスは絞り込めてきています。ですが……ソフィアは迷っている……』


『機関の昇圧抑制コントロールも、これ以上は効かない!』ウルズは、機関に溜め込まれる余剰エネルギーをPSIバリアとシールド、回避運動に発散させ、暴発ギリギリで持ち堪えさせていた。


『それより、アトランティスの同期率だわ! もう十パーセントをきった。この分だと四分程度で完了する! 急いで‼︎』スクルドは、ユグドラシルからの攻撃予測と対処に全リソースを割いている。


 二体のAIの処理による完璧な運用がなければ、<ノルン>はすでにインナースペースの藻屑となっていたであろう。


「……はぁ……はぁ……」不意にソフィアは、呼吸を荒げ、変性意識を解き、システムから離れる。急なダイレクト接続は、心身への負荷が大きいようだ。


「大丈夫か⁉︎」アランは席を立ち、ソフィアの前に立つ。


「え……ええ……でも、わからない……どれが正解なの……」髪をかきあげ、そのままぐしゃりと握り、顔を顰めるソフィア。


「ソフィア……お前が一番良いと思う方にいけばいい……お前は天性の……!」不意にキャプテンシートを飛び降りたソフィアは、その勢いのまま、アランの胸に飛び込む。アランは、しっかりとソフィアを受け止め、抱き寄せる。ソフィアの身体は、小刻みに震えていた。


「……お前は天性の……『ディスティニー・ナビゲーター』なんだ……大丈夫……オレも一緒だ」


「うん……ごめん、アラン。貴方だけでも助けたかった……」「……オレはあの時……お前を……もう、一人にはしない」


「ありがとう……アラン」


 アランの腕に包まれ、ソフィアは落ち着きを取り戻していく。


「………あっ!」何かに気づいて、ソフィアは身体を離し、ベルザンディに向かって叫ぶ。


「ベルちゃん! そういえば、頼んでた計算(アレ)、できた⁉︎」『頼んでた? ……あ、ええ。先程、ちょうど……』「ナイス! それ、使えるわ! 共感回路全開で、ユグドラシルに流し込んで‼︎」


『わかりました』


 ベルザンディが瞳を閉じ、PSI-Linkシステムへ働きかけると、ユグドラシルのフォログラムが、黄金の輝きを纏い始め、幹の一部が隆起して、小さな枝が伸び始める。ソフィアは、ベルザンディに駆け寄り、ベルザンディの右手をとって、呼吸を整えていく。ウルズは時空間転移の準備にかかる。スクルドは、船の防衛に加え、アランに変わって、ダメコンも同時処理でこなし始めた。


「待て! どうする気だ⁉︎」


「お願い! ワタシ達に任せて!」


「ソフィア!」


「ユグドラシルの中で、微かな希望の可能性を見た時……アラン……貴方はそこにいた……」


「何を……」


「貴方は、生き残るべき人……カミラさんと一緒に……この宇宙に……」


「何を言っている、ソフィア⁉︎」


「ワタシが……必ず……」「ソフィア!」


 ソフィアは静かに瞑想に入る。彼女と手を繋いだ、ベルザンディの全身が、仄かに輝き出す。

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