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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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愛の死 6

「アムネリア‼︎」ダイレクト接続で掴み取ったイメージをそのままに、直人は声を張り上げる。


「はい!」と頷いて、アムネリアは、機関にチャージされたPSI波動砲のエネルギーをPSIブラスターへバイパスする。同時に、直人の掴み取っている時空間情報を、サニのレーダー盤に転写した。


 サニは、振り返ってアムネリアを見る。アムネリアの小さな頷きに、サムアップのサインを返し、サニはすぐにレーダー盤に向き直った。PSI-Linkモジュールに手を翳し、ダイレクト接続に入ると、再び<ノルン>に潜り込もうとする二体の存在をレーダーに補足する。


「逃がさないよ‼︎」サニは、波動収束をフォーカスさせ、翼を持つ二体の存在を浮かび上がらせた。前方モニターにも、はっきりと映り込むその存在らは、優美な翼をもつ、その姿は正に天使の姿そのもの。どちらも、手に長い棒状のものを持っているのが見て取れる。一方は、長柄の笏、もう一方は剣であろう。


 カミラが放心して、波動砲のトリガーから手を落とした瞬間、直人は全ての集中をPSI-Linkシステムに乗せ、天使らを心象に開いたターゲットスコープに捉える。


「天使だろうと……」


 直人の左手が置かれたPSI-Linkモジュールが、白色に光り輝き、連動して、<アマテラス>両舷のPSIブラスターが、稲光を伴うエネルギーストリームを形成する。


「<ノルン>を、副長を返せ‼︎」


 直人の渾身の念が、<アマテラス>の両舷に蓄積されたエネルギーの塊を弾き出す。その直撃を受け、天使たちは声もなく<ノルン>から押し出され、アトランティスへと堕ちてゆく。 


「副長! アラン副長‼︎」直人は、即座に呼びかけた。


『ナオか! よくやった‼︎』<ノルン>のコントロールが次第に回復し出したのを確認しながら、アランは返答する。


 しかし、通信状況は、未だ乱れたまま。時空間の加速は止まらない。


「ウルズ! スクルド!」ソフィアとベルザンディは、倒れた彼女達の元へ駆け寄り、ソフィアはウルズを、ベルザンディはスクルドを抱き起こす。すぐにベルザンディは、相互診断機能を用いて、彼女らの機能チェックを開始する。


「ベルちゃん、どう?」心配気に窺い見るソフィアに、ベルザンディは小さく微笑むと、両眼を閉じて頭部コミュニケーションギアをスクルドに押し当てる。


『……システムチェック……再起動……』


 スクルドの奇妙に折れ曲がった関節が徐々に戻り、ゆっくりとしたイニシャライズ動作を始めたのをみて、ベルザンディは、ウルズにも同様の処置を施す。一分程度で、二体は再起動処理を終え、立ち上がった。


『いったい……どうしたのだ……私達は……』『メモリーが……錯綜してる……何なの……』


 二体は、不思議そうにボディの動作を確認しながら、ベルザンディ、アラン、そしてソフィアの顔を見回していた。


「戻ったんだね! ウルズ! スクルド!」ソフィアは、ウルズとスクルドに飛びつき、二人を抱きしめる。


『な、なな何なの? ソフィア?』ソフィアにしっかりと抱きしめられたスクルドは、つっけんどんに言いながら、照れたような表情を作る。ウルズは、静かに微笑み、ソフィアの背に腕を回していた。


 殺伐としていたブリッジの空気に温かみが戻ってくるのをアランは感じていた。だが、和んでいる余裕はない。


「まだ、何とかなるか⁉︎」アランは、暴走する機関のコントロールを試みようと、ウルズの受けもつ操船席に走った。



 ****


「隊長……隊長!」呆然としたまま、<ノルン>の通信映像を眺めていたカミラは、直人の呼び声で我に帰る。


「隊長、PSI波動砲は……もう」「え、ええ……そうね……」


 カミラは、キャプテンシートのPSI波動砲発射態勢を解き、元に戻す。


「そ、総員! 第一種警戒態勢のまま、<ノルン>乗員の救出を敢行する!」各拠点の通信ウィンドウの中で、皆が頷いて、カミラの判断を支持する。目が合ったウォーロックもまた、大きく頷いていた。


「……ごめんなさい、皆。取り乱してしまって……」「取り乱さない方が、どうかしてるよ」レーダー盤に向かったまま、カミラに返すサニの声は弾んでいる。すぐにサニは、<ノルン>を取り巻く加速時空間中に侵入経路を策定し、マップを展開した。


「だな。ナオがせっかく作ったチャンス。さっさと副長達を助け出そうぜ」ティムは、サニの導き出したマップを確認しながら、すでに発進準備を整えている。


「アラン……」再び、カミラは、ジャケットの胸元を握り、呼吸を整えると、凛として顔をあげた。


 <アマテラス>は、再び亜夢の鳳凰を纏い、時空間嵐の中へと飛び込んでいく。



 ****


「アラン、どう?」スクルド、ベルザンディと肩を寄せ合ったまま、ソフィアは不安気に問う。


「……くっ、オーバーロード⁉︎ だめだ、停止信号を受け付けない! ……ん?」


『ここは私が……』いつの間にか、アランの隣に立ったウルズが、PSI-Linkモジュールに手を翳して、アランに席を譲らせる。


『アラン! ソフィア!』乱れる通信の中から、鮮明な声が呼びかけてきた。


「カミラ⁉︎」


 モニターを見上げれば、<アマテラス>が、時空間乱流を乗り越え、<ノルン>の正面近くまで何とか辿り着いていた。


 ロックされていた<ノルン>ブリッジの出入り口が開く。


『アラン、貴方はソフィアを連れて脱出を』


『私達が、少しでも時間を稼ぐわ。その間に早く!』スクルドもまた、自分のガイノイドポートに立ち、アランに向かって微笑んだ。


「ウルズ……スクルド……お前達……」


『わ、私も! ソフィア、急いで!』「ベルちゃん!」


『ベル! 貴女は、ソフィアと行きなさい』『そうよ! 脱出ポッドは、姉さんに任せる! ソフィアを守る。それは貴女の仕事よ!』


『姉様、スクルド…………わかりました。ソフィア、アラン!』「ま、待って‼︎ 二人を置き去りなんて!」ソフィアは、ウルズとスクルドの元へ駆け寄ろうとするが、身体をがっちりと捕まえられて振り向いた。


『わかって……ください』「ベルちゃん……」


 苦渋を浮かべるベルザンディの表情は、人間と変わりはない。


『ア……アトランティスとアナザーアースのパルス周期が‼︎』通信から聞こえたサニの声に、<ノルン>の一同は、ブリッジ中央のフォログラムへと視線を向ける。


 アトランティスのバベルの塔、そして天空のアナザーアース。その両者の回転速度がほぼ等しくなっている。次第にバベルの塔の頂上の方から、次々と光り輝くPSI情報粒子に変換されて舞い上がり、粒子は両者を繋ぐユグドラシルの幹の周りを螺旋を描きながら転送されていく。


『……ニンゲン……』あのウルズを支配していた声音が、<ノルン>と<アマテラス>のブリッジに、音声変換されて流れ出す。


『ここまでは、よくやったと褒めてやろう……だが、もう手遅れだ』


 皆、息を殺して、その声に聞き耳を立てる。


『同期を始めた以上、たとえ<ノルン>を沈めようと、アトランティスの……文明の叡智の遷移は止められぬ……運命は変わらぬ』


『心静かに、文明と、人類の最期を受け入れよ』


 バベルの塔は、まるで毛糸玉が解かれていくように、上層からどんどん姿を消してゆく。同時に、アナザーアースの方は、次第に色味を帯び、バベルの塔の先端をそのまま映し取ったような影を浮かび上がらせ始めた。


「くっ……これまでなのか」アランは、握りしめた拳を震わせていた。


「……いいえ……」


 ソフィアは、ベルザンディに微笑みかける。その笑みにベルザンディは、彼女を抱え留めていた腕を思わず緩めてしまった。


「運命は変えられる……いつだって」


 ベルザンディを見つめる慈愛に満ちたソフィアの美しいブルーグレー両眼。その奥に潜む、強い意志に、共感回路が震えているのを感じた時、ソフィアはすでにキャプテンシートに戻っていた。


『ソフィア⁉︎』ベルザンディは、ハッとして振り返り、迫り上がるキャプテンシートを仰ぎ見る。


「どうする気だ⁉︎」アランが駆け寄って叫ぶ。


「あの星ごと……<ノルン>を次元跳躍させる」ソフィアは、自席のコンソールに指を走らせながら答えた。


「これだけのエネルギーが機関に溜め込まれてるのよ。きっといける!」


 ソフィアはにっこりと笑ってみせた。


「見つけたわ……これが……ワタシの成すべきこと……」

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