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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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愛の死 3

『PSI波動砲で…………』カミラは顔を青ざめさせ、唇を戦慄かせる。


『ま、待って! それなら、貴方達の救助が先よ! すぐに救命ポッドで脱出を』


 <アマテラス>、及び<ノルン>の搭乗ドームは、脱出ポッドになっている。船体から分離後、独立でPSIバリアを展開し、インナースペースに留まり、数時間程度、他のPSIクラフトによる救助を待つことができた。


「それができるなら……」アランは、ブリッジ出入り口を見やる。ブリッジの扉上に『Locked』サイン、緊急脱出ハッチの方は、スクルドが睨みを効かせていた。少しでも動けば、オーラキャンセラーの餌食だろう。


「時間もない! 構わない! 俺を……俺たちごと撃て‼︎」


 ウルズとスクルドが睨めつけているのを構わず、アランは渾身の力を込めて叫ぶ。



「ば、馬鹿なこと言わないで! 最後まで諦めないで!」返答するカミラの声は震えている。


「そうだ! あの星をやっちまえばいい! PSI波動砲が狙うのは、あの星だ、ナオ、急げ!」せき立てるティムに、直人は首を小く振る。


「いや、ダメだ……ユグドラシルがあの星を導いているなら、結局、波動共振で<ノルン>も巻き込む……」


 アランは頷く。


『そういうことだ。それに、<ノルン(この船)>を沈める方が、確実性も高い』


「くそ! こんな時に! 何、冷静に言ってんだよ、アンタは! 副長!」ティムは、拳をアームレストに打ち付ける。


『カミラさん……こんな事になってしまってごめんなさい。でも……私も……世界を守りたい。大好きな皆が生きる世界を……』


 ソフィアは、少し震えながら、アランにそっと肩を寄せる。アランはその震える肩をそっと抱き寄せていた。


 カミラは、呆然と瞬きを失った瞳でアランとソフィアを見つめている。


「残り、十五分……迷っている暇はない……頼む、カミラ……」アランは祈るように懇願した。



『……カミラくん。ウォーロックだ』


 会話に入ってきたウォーロックの声に、カミラはハッとなり、彼の方へ視線を向ける。


『……アトランティスは、文明の……いや、人類の叡智の結晶だ。それを奪われる事は、人類の滅亡と同じこと……キミたちに全人類の命運がかかっている。辛い決断だが……わかってくれ! ドクター藤川、ハンナ……何も、言わんでくれ。全て、私が責任を負う』


 ウォーロックに、カミラは何も言い返す言葉が出ない。


「ダメだ、隊長! こんな事は!」「そ、そうよ。副長とソフィアを犠牲になんて、あんまりだわ!」立ち上がって叫ぶ直人に、サニが続く。


『やるんだ! カミラ!』迷いをみせるカミラに、アランはたたみ掛けた。


『……約束したはずだ……どんな事になっても……キミを守ると……約束を、果たさせてくれ』


 通信ウインドウ向こうのカミラは、目をキツく瞑って項垂れている。ソフィアがアランの横顔をそっと仰ぎ見れば、カミラを真っ直ぐ見つめていた。その眼差しは、暖かい。ソフィアは、アランの胸に寄せていた肩を静かに離す。



「アラン……くっ!」カミラは意を決して、顔を上げた。


「PSI波動砲! 発射準備‼︎ 目標……<ノルン>‼︎」


「隊長‼︎」「命令よ! ナオ!」悲痛な直人の声に、カミラは張り詰めた声を被せる。


「……他に……何か他に……あるはずだ……皆が助かる方法が……」直人は、助けを求めるように、アムネリアの方へと視線を向けるが、アムネリアは口を閉ざし俯く。それを見ていたフォログラムの亜夢は、直人に何か声をかけようとしたが、直人は亜夢の方を向くことなく、考えを巡らせていた。


「いい! 私がやる!」PSI波動砲発射の作業に取り掛かろうとしない直人に、カミラは業を煮やし、自席からのコントロールに切り替える。


「隊長!」声を上げる直人に構わず、カミラは、座席下から迫り上がる拳銃型の波動砲発射装置に手をかけた。



『PSI波動砲だと……アレを防ぐ手立ては、この船にはない。今、この場から動く事もできぬ。どうする?』一部始終を静観していたスクルドは、ウルズに問う。


『心配は無用だ。ニンゲンには撃てまい……あの(・・)、カミラには、な……』


「あの……?」アランは、ウルズの言い回しに、引っ掛かりを覚える。


『生命ゆえにニンゲンが抱くようになった共感……慈しみ……そして愛……。そんな思考のバグが正常な判断を狂わせる』


 ウルズは、振り返り、冷たい瞳でアランを見据えた。


『アラン……あの日(・・・)、生と死を共に預け合った貴様を……カミラは撃てない』


「あの日⁉︎ うっ……」ウルズの眼光に、胸の奥底を射抜かれたような痛みを覚えながら、アランはウルズを睨み返した。


「……なぜ、それを……ソフィアにすら話してもいない事を……お前たちは、知っている?」


『……言ったであろう。我らは天使だ……と』


「天使……」



 ****


「ターゲットスコープ、オープン‼︎ 目標相対距離、3000! 照準固定! 目標PSIパルスデータ入力確認! PSI-Link接続!」


 何もかもかなぐり捨てたかのように、カミラは覇気を込めて声を上げる。PSI波動砲発射装置に組み込まれたPSI-Linkモジュールを握りしめれば、波動収束フィールドが感知する、あらゆる時空間情報が、カミラの意識を駆け巡る。


「うっ!」圧倒的な情報の海に投げ出されるかのような渾沌の渦が、カミラの心身を弄ぶ。


「無茶だ! 隊長! オレに合わせたセッティングのままになってる! 調整を……」直人の声に、カミラは何とか意識を保ち、気概だけで叫ぶ。


「そんな暇ない! このまま……このまま撃つ! 総員、対ショック準備!」

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