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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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叛逆 8

「アラン‼︎」「ソフィア‼︎」


 <ノルン>のブリッジで、意識を取り戻すやいなや、ソフィアとアランはシートから飛び出し、互いを求め合い、二人は熱情に駆られたように強く抱擁を交わす。


『……ソフィア……よかった……』キャプテンシートへもたれかかっていたベルザンディも身体を起こしていた。


 二人が見つめ合うのも束の間。不意にソフィアの頭がぐいとのけぞり、アランから引き離された。


「きゃあ‼︎」「ソフィア!」


 スクルドに、髪を無造作に掴まれたソフィアは、キャプテンシートへ引き摺られる。


 一方、ユグドラシルが消えた事で、アナザーアースが揺らぎを見せ始めていた。ウルズは、即座にPSI-Linkシステムをコントロールし、対処にあたる。



「ユグドラシルが消えたというのに……なぜ?」カミラは、奥歯を噛み締める。


「<ノルン>の波動収束フィールド局所収束効率が通常の三倍近い……こんな観測、アタシ達には……」すぐさま、観測結果を報告するサニ。


 <ノルン>はまだ、『彼ら』の支配から脱していない。その事をアマテラスの皆は、すぐに理解する。


「A Iの成せる技か」<ノルン>を睨め付けながら、カミラは、瞬時に考えを巡らせた。


「……なら!」



 ****


『おのれ……もう少しのところを! 最後の仕上げだ。もう一度、ユグドラシルを立てよ‼︎』


 スクルドは、ソフィアの髪を掴んだまま、強引に彼女をキャプテンシートに押し込む。


「い、嫌よ! 離して‼︎」「やめろ! スクルド‼︎」


 飛びかかろうとするアランに、スクルドは機敏に反応し、オーラキャンセラーの銃口を向ける。


 その瞬間。<ノルン>の船体が大きく揺さぶられ、スクルドはソフィアを放し、体勢を崩す。アランは、咄嗟に彼女の腕を押さえ込み、キャンセラーを奪い取った。


『なんだ⁉︎』


 ウルズは、レーダー盤の反応に気付く。


『誘導パルス⁉︎』



「こっちは力づくよ‼︎」カミラの気勢が、<アマテラス>の皆を鼓舞する。



『おのれ<アマテラス>‼︎』


 <ノルン>の船体が、<アマテラス>に引かれ、ジリジリと動き始めた。


 アトランティスとアナザーアースの架け橋として、高次元において時間と空間を位置づけ、厳密なバランスを保つ<ノルン>。その時空間情報のズレは、両者の同期に揺らぎをもたらす。カミラの目論みは、正鵠を得ていた。


『同じ手を。PSIバリア偏………何?』『させませんわ、お姉様!』


『くっ……』ウルズは、PSIバリアの偏向によって、牽引波を経とうとするも、PSI-Linkシステムのコントロール奪還を始めたベルザンディによって、阻まれた。


「でかした! ベル‼︎ 通信の方は⁉︎」奪い取ったオーラキャンセラーをスクルドのコメカミにつきつけながらアランが問う。


『いけそうです!』



「<ノルン>さえ、あの場から引っ張り出せれば! 亜夢‼︎」


『よぉし‼︎ いっくよぉ! ティム‼︎』「お、おうよ‼︎」シールドに鳳凰の翼を伸ばした亜夢は、俄然張り切り、直人は亜夢の熱を感じながら、誘導波へ全意識を込める。


『カミラ!』


 信号が途絶えていた、<ノルン>の通信ウインドウにアランが出て、呼びかけてきた。ソフィアも意識を取り戻し、健在のようだ。通信を結ぶ各拠点で、二人の無事を喜ぶ声が聞こえてくる。


「アラン! 無事なのね⁉︎」『すまない! まだ、船のコントロールは取り返しきれていないが……』


「何とか<ノルン>を動かして!」『ああ、やってみる! ベルザンディ!』『はい!』


「機関最大‼︎ 全速前進‼︎」


 鳳凰の推進力を得た<アマテラス>は、<ノルン>を引く力を一層強める。だが、その度にウルズは、<ノルン>の位置を修正し抵抗した。一方、スクルドは、無駄な足掻きと見下したように、様子を窺っている。


「どうだ、ソフィア⁉︎」


「だ、ダメ! 航行システムのロックがまだ! ベルちゃん‼︎」『待って……もう少し……』


 リミッターを解除した<アマテラス>の機関が、悲鳴を上げ始める。だが、<ノルン>は、その都度、位置を修正し、アトランティスとアナザーアースの同期を何とか保ち続けていた。


「ティム! 亜夢! まだなの⁉︎」完全同期予測の刻限が迫る。カミラは、<ノルン>とタイマーを睨みながら叫ぶ。


「ちっ! しっかり居座ってやがる! ケツの重い<ノルン(めがみ)>様だぜ!」『こぉのおぉお‼︎』


「『アナザーアース』、波動収束場、依然健在!」

 サニが叫んだ時、タイマーは残り一分を示していた。


「時間がない‼︎ アラン‼︎」


『くっ! まだか! ベル⁉︎ ソフィア⁉︎』『動け! 動いてよぉ‼︎』


『姉様!』ベルザンディは、ウルズに向け、自身のオーラキャンセラー抜いて向けるも、ウルズの方が速い。


 ウルズの精密なオーラキャンセラーの射撃は、ベルザンディのオーラキャンセラーと、それを握る彼女の腕の機能を奪う。止むを得ずベルザンディは、ウルズに駆け寄って、体当たりを敢行。


『愚か者!』実力行使による操船コンソール奪取を試みた。


『勝ったな』スクルドは、動じる事も、アランの拘束に抵抗も無く、静かに事の成り行きを見守っていた。


 最期の刻を告げる、時計の針の音が、無慈悲に鳴り響く。その音は通信を通して、ミッションを見守るもの達、垣間見る者達、そして<アマテラス>と<ノルン>のインナーノーツ皆の時を止めた。


 ベルザンディと押し合いを繰り広げていたウルズは、動きを止めた彼女を押しのけ、通信モニターの前へと進み出、高らかに宣言する。


『時は満ちた! 新たな大地に、甦れ! アトランティス!』


 アトランティスとアナザーアースは、呼応するように、不気味な明滅を繰り返していた。

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