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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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叛逆 2

『このままでは、ベルザンディが』スクルドは、<ノルン>の立て直しにかかり切りだ。


 ウルズは、ガイノイドポートから離れると、ベルザンディのそばに寄り、顎をそっと持ち上げる。微かに開きかけたその瞳を、ウルズはまじまじと覗き込む。


『やむを得まい。侵入者は私が相手する。どの道、門は開いた。其方は、アトランティスを』


『承知した』<アマテラス>の攻撃で乱れたPSI-Link同調を再調整しつつ、スクルドは答えた。


 ウルズは、ほぼ全形を露わにした、遥か天空の、銀に輝く星を見上げる。


『運命が刻む律動……我らの星の鼓動……互いの同期が成った時、アトランティスは時空を超え、転送される。全ての時に、狂いは許されぬ。よいな、しかと時を測れ!』『心得ておる』


 ウルズは頭部のヘッドギア状の機材『コミュニケーション・ギア』中央の感応モジュールをベルザンディのそれに押し当て、そっと瞳を閉じた——



 周辺一体は何もかも、霞に覆われた世界。ベルザンディの知覚プログラムは、そう認識していた。


 ……ソフィア……ソフィア……どこに? ……


 辺りへ問いかけるも、ソフィアからの返事はない。


 ……貴女のすぐそばに……


 代わりに、先ほどから語りかけてくる何者かが答える。


 ……其方の主を救えるのは……


 ……そこまでだ! ……


 突然、霞に覆われていた一帯が、徐々に開けてきた。晴れ渡る空の下、草花の生い茂る草原、大木と若木が並び立つ園。そこには、二人の人影が朧げに見える。


 ……ソフィア⁉︎ ……アラン⁉︎ ……


 駆け出そうとしたその時、ウルズが不意に現れ、立ちはだかる。こちらをじっと見つめたまま、ゆっくりと腕を横に伸ばす。


 ……あっ‼︎ ……


 何もない中空の、ウルズが握った手のあたりに、何かが浮かび上がっている。


 ……高次を自在に渡り、ユグドラシルの過去根より、この楽園へ侵入したか……上出来だ……姿を見せよ! ……


 ウルズの腕が波打つ。あらゆる次元へとアクセスを試みているようだ。


 ……我がわかるのか……其方……一体……うぐっ‼︎ ……


 ウルズの瞳が見開かれ、腕の波打ちが止まる。空間中に何かを掴み、勢いよく腕を引き戻す。すると、手に握られた何かが、空間から引き摺り出されてくる。水の流れの様なものが見え、次第にそれは形を作る。それは、蛇の尾の様にも見えた。


 ……なるほど……そういうことか……お前だな……あの目障りな『記憶を持つもの』らが、『神子』と呼ぶ存在は……


 ……あぁ‼︎ ……


 ウルズが、握りしめた手を強引に引き戻すと、尾に引き摺られた何者かが、姿を見せ始めた。

 

次第にはっきりと、人の形として認識できてくる。インナーノーツのユニフォームを纏い、長い髪を両肩に束ね下ろしている女性。確か、亜夢……いや、<アマテラス>のブリッジでは、アムネリアと呼ばれていたと、ベルザンディは認識する。


 ウルズは、アムネリアをベルザンディの目の前に、乱暴に放り投げた。ベルザンディが、横たわるアムネリアに声をかけるより先にウルズが話し始めた。


 …………やはり……高次においてなお、個の意志を失わぬ存在……我らと同族か……


 ……同族……


 ……そう……ニンゲンの言葉を借りるなら……


 ……我らは、天使なり……


 ……てん……し? ……


 ウルズの周囲に、ぼんやりと浮かび出る白いオーラの様なものが広がる。オーラ状のものは、ウルズの背に薄っすらと翼の様なものを描いていた。


 ……アトランティスよりはるか昔……まだ天と地が渾然一体であった時代……


 ……すでに文明イデアは、完成されていた……


 ……だが……


 翼をゆっくりとはためかせ、ウルズは浮き上がる。アムネリア、そしてベルザンディを見下ろしながら。


 文明イデアは、ガイアに飲まれ、一部の記憶を残し、崩壊した……


 ……我らが作りしニンゲンと……ニンゲンに与した、裏切り者によって……


 冷徹さを保つウルズの言葉に、僅かばかりの揺らぎをベルザンディは感知する。


 ……裏切り者? ……


 ……ふん……再び、ニンゲンの肉体を得て、記憶を失ったか……


 ウルズの赤く灯る瞳が大きく見開くと、アムネリアの周囲の空間が激しく捻じ曲げられ、彼女を巻き込み始めた。


 ……うぅ……あぁあああ‼︎ ……


「きゃぁ‼︎」副長席の亜夢(・・)は、急に身体に電撃が走ったかの様に、身体をびくつかせる。同時に、<アマテラス>のシールドが形作る鳳凰と、<ノルン>を包む炎は、一瞬にして消え失せた。


「亜夢⁉︎」直人は、アムネリアの身に何かあった事を察知し、誘導パルス放射器を起動して、PSI-Linkモジュールに念を込める。


 ……アムネリア‼︎ ……


 動きかけたベルザンディを、ウルズが阻む。


 ……ベ……ベル……あ、ああ‼︎ ……あの人を……目覚させるのは貴女……くっ‼︎ ……っう‼︎ ……


 空間の歪みは、アムネリアの魂を引き裂かんばかりだ。


「ア……アムネリア‼︎ もういい、戻って‼︎」直人は集中を深め、アムネリアを少しでも感じ取れる方へと誘導パルスを送り込む。


 ……ニンゲンと深く交わり、ガイアの厄災を招き、破壊をもたらす存在……裏切り者とは、お前のことだ‼︎ ……神子‼︎ ……堕落した堕天使よ‼︎ ……


 ……ぅうう‼︎ ぐっ! ……


 アムネリアはたまらず、人の形を解き、歪みの坩堝から水の流れとなって逃れる。


 ……この創世の楽園に、お前の居場所はない‼︎ 滅せよ‼︎ ……


 ウルズは、次々と空間を歪ませ、逃げるアムネリアを執拗に追撃を繰り返す。


「こっちだ‼︎」


 直人の声を頼りに、アムネリアは次元を跳ぶ。


 <アマテラス>のブリッジ中央フォログラムが、湧き上がる泉の様な映像を描く。そこに吹き出した水柱は、次第に人の形を結んでいった。


「アムネリア⁉︎」


 フォログラムのアムネリアは、肩で大きく息をしている。彼女の身体である副長席の亜夢も、同期して同じ様に肩を上下させていた。


「ソフィアは……アランは⁉︎」カミラは、アムネリアが落ち着くのも待たず、乗り出して問いかける。


 フォログラムのアムネリアは、静かに首を横に振る。カミラは、肩を落として、シートに身を落とす。


『……ですが……望みはあります……』


 呼吸を整えたアムネリアは、正面の<ノルン>を見据えた。

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