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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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叛逆 1

 鳳凰の翼をはためかせ、地下深くより昇り来る太陽の船(アマテラス)——塔の内壁に沿って旋回しながら、再びトランサーデコイを放つ。


 <アマテラス>に対し、背を向けた形となっている<ノルン>の後方から、トランサーデコイの一群が、渦巻く軌道を描いて襲いくる。直ちに放たれた<ノルン>のカウンターデコイは、それらを余すことなく撃ち落としていった。


『<アマテラス>……この程度で<ノルン>もユグドラシルも揺らぐ事はない。いつまで、無駄な事を』


 スクルドは、三本のユグドラシルの幹の一つ、『未来幹』から得られる無数の確率を量子計算し、最適解を瞬時に割り出して<アマテラス>の行動を先回りして阻止する。


『……何が目的だ』何度、攻撃を封じられようとも<アマテラス>は挑んでくる。愚かしいニンゲン。諦めを知らぬニンゲンの蛮行。スクルドの機械仕掛けの心(プログラム)は、理解することを無駄と切り捨てた。


『構わぬ。見よ。もうじき実は熟す。ベルザンディ。新ノードナンバー2122から2146へノードフィックス。座標、フィードバック』ウルズは、<ノルン>ブリッジを覆い尽くすユグドラシルを見上げたまま指示する。


 一つの枝が消え、そこに新たに形成された枝が、鉛色の球状の果実を実らせる。その実は、急速に膨らみ始めた。


 <ノルン>にあるベルザンディの、機械の身体は、未だ硬直したまま動かない——



 上昇する<アマテラス>は、<ノルン>の傍を掠め、そのまま『バベルの塔』を抜け、上方へと伸びるユグドラシルを軸に旋回しながら、再び<ノルン>に向かおうと船首を傾け始めた。


「ユグドラシル上空‼︎ アンノウンPSIパルス輻射確認‼︎」サニは突如、レーダー盤に現れた強反応をすぐに報告する。


「解析するわ!」不在のアランに変わって、カミラは自席端末で解析アルゴリズムを走らせる。


「このパターン⁉︎ まさか…………地球⁉︎ ……いや、違う? 近似率四十七パーセント……これは」


 カミラは言いながら、波動収束フィールドに収束する何かを、メインモニターにビジュアル構成して表示させた。


 鉛色、あるいは燻銀とでも言うのか。不可思議な色をした地球のような惑星が、ユグドラシル上空に、三日月型に浮かび上がってくる。


「なんだ、この星……」ゾッとする気配を感じながら、直人は、次第にはっきりと姿を見せる、その惑星の輝きに目を奪われる——



 その惑星は、<ノルン>の全周モニターにも、同じように浮かび上がっている。


『次元の狭間に眠りし星……我らの星よ……』


『今、アトランティスの祝福をもたらさん……』


 ウルズとスクルドは、ユグドラシルが導いたその惑星を崇め称えるかのように、諸手を高く掲げ、迎えていた。


 事態を知るはずもないアラン、そしてソフィアは、穏やかな表情のまま深い眠りについたままだ——



「……類似パターン……データベース検索ヒット」カミラは、惑星の映像に重ねて、解析アルゴリズムが弾き出した解析結果をテキストで出力する。


「……反地球……アンチクトン……」次々と下から上へと流れていく単語をサニは読み上げていく。


「ヤハウェ……ニビル……なんじゃ、こりゃ?」重ねて読み上げるティムは、思いきり眉を捻じ曲げる。


「どれも空想や、仮説の域を出ないまま、インナースペースに概念として創造された、もう一つの地球、あるいはその類似の惑星……その集合情報場……」そんな惑星に直人は、幼い頃、関心を持っていた。現世の宇宙において、とうとうそんな惑星が発見されることはなかった。アトランティスと同じく……


 しかし、インナースペースには確かに存在する。ここには、人が想像し得るものは、すべて存在するのだと、直人は改めて確信する——



『まさに……我らが天の国に相応しき星……』


 その惑星を仰ぎ、迎える二体の機会人形(ガイノイド)は、まるで一心に祈りを捧げる信徒のような気配すら漂わせていた。感情という不合理な煩悩を一切排した、澱みなき祈り。それは、信仰者の理想の姿なのかもしれない——



「アトランティスといい、架空の地球といい……実態のないものだけで世界を作ろうってか⁉︎」忌々しくティムは舌打ちする。


「けど……それがインナースペース……そして、PSIテクノロジーは、それを現世に現象化させる事を可能にした。オレたちが、ここで観ているものは、全て現実になりかねない」


 直人の言葉に、皆深く頷いていた。<アマテラス>のインナーノーツは、これまでのミッションで、そうした事例を何度か体験してきたのだから。


「そうよ。ここで止めないと、私たちの文明が、あの偽地球に根こそぎ持ってかれる……」


 カミラは、三日月型から半月近くまで姿を露わにした燻銀の惑星、『アナザーアース』を睨みつける。


 ……アムネリア……急いで……



 ****


 ……ベルザンディ……目覚めなさい……ベルザンディ……


 …………私はベルザンディ……認識番号NPS-GND002。共感フレームに干渉あり。意識サーキット異常……排他制御処理開始……


 ……うっ! ……


 泉の中央に佇む、少女の形をしたモノが揺らぎ、一体化しつつあったアムネリアの意識体が浮き上がる。アムネリアは、集中を深め、少女へと戻る。


 <ノルン>にある、ベルザンディの機械の身体が反応する。指先が動き、瞼が、少しずつ持ち上がってくる。


 PSI-Linkシステムの異常を知らせる、黄色のアラームが、警告音と共に<ノルン>のブリッジモニターに立ち上がる。ウルズとスクルドは、直ちに警報への対応を始めた。


『ベルザンディ? ……ベルザンディの意識量子波に異常?』『なんだと? ……これは干渉パターン?』


 ……我を拒むか? ……それは、貴女の意志か⁉︎ ……


 アムネリアはベルザンディの人格プログラムへ再度アクセスを試みる。


 ……私は人に作られし意識……意志……は持たない……定められたプログラムを実行する者……


 ……‼︎ ……


 ……そんな事はない! たとえ、人に作られた命であっても! …………我は感じる……其方のうちにさざめく波を……(あるじ)の心を解そうとする……願いを……


 ……他を思いやる心……それは、もはや魂……


 ……(あるじ)……私の……


 ……そう……思い出して……貴女の主の名を……


 ……私の……主……ソ……フィ……ア……


 ……ソフィア‼︎ ……



『干渉だと⁉︎ そんな兆候は? ……まさか、ウルザルブルンにアクセスしたのか⁉︎』


 ウルズの赤く灯る瞳が上下に忙しなく往復し、瞳孔が縮小する。連動して<ノルン>中央、ユグドラシルのフォログラム映像が縮小しながら、表示部位が下の方へと降り、バベルの塔と一体となっている根元部が映り始める。瞳孔が開き、高速で異常元をスキャンしてゆくウルズ。ユグドラシルの根、バベルの塔の最下層域の遥か深くまで伸びる根が、フォーカスされた。


『……過去根か? やられた!』


『そんなことが、できるわけなかろう! あの船如きに!』ユグドラシルの予測によって、<アマテラス>に対処していたスクルドの注意がウルズに逸れた瞬間、鳳凰の羽ばたきが、<ノルン>を直撃する。シールド越しとはいえ、衝撃がブリッジを激しく揺さぶる。


 全周モニターが一面、焔に包まれていく。


『まさか……これは……この炎は……『熾天使』だとでも⁉︎』


 スクルドに重なる声音に、動揺の色が浮かぶ。


『……いや……むしろ……』


 ウルズは、しばらくモニターを凝視したまま、口を閉ざした。

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