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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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世界樹の下で 2

「今、周辺のデータを、アムネリアにビジュアルに変換してもらっているわ。データをリンクするから、モニターに出してみて」『わかった』


「アムネリア、いい?」「ええ、できました……お見せします」


 <アマテラス>ブリッジのモニターに、次第に何かの形が浮かび上がってくる。その映像は、同時に<ノルン>と、<ノルン>から通信を届けられる各所の各モニターに共有される。


「これは⁉︎」直人は、映像が定まるより先に声を上げていた。


 船への影響がでないよう、波動収束フィールドの収束率は落としたまま、アムネリアが感じ取れるイメージを念写投影したものだ。解像度は低いが、映像のフォーカスが次第に整ってくると、何を意味するのか、皆も気づいてくる。


 荒波の荒れ狂う、海面——また、あの震災の光景か? 皆がそう思った矢先、変換された音声が、何かが破裂する轟音を響かせる。後方にその気配を感じた<アマテラス>、<ノルン>の一同が振り返れば、後方のモニターには、海底火山か何かの大噴火だ。上空は、暗雲に覆われ、吹き出した噴出物の弾丸が、島の上の街らしき場所へと襲いかかる。


『な、何なのぉ⁉︎』ソフィアは、ブリッジを揺らす轟音に、耳を抑えて身を丸めた。


「さっきとは違う……別の天変地異みたいね」サニは目を見開いて言う。


「ええ……アランどう思う?」


『この解像度で特定は難しいが……待ってくれ……このパルス、時間、位置パラメータ-は異なるが、同一波形となんらかの周期性があるな』アランは、自席モニターに<ノルン>が収集したPSIパルスデータを拡げ、腕組みして眺める。


『……待てよ……この座標……アムネリア、<アマテラス>のデータベースで照合し、モニターに重ねてみてくれ』


「かしこまりました……」


 アムネリアが、アランの指定した座標に意識を集中していくと、モニターの映像が、波打ちながら別の像を浮かび上がらせる。


 <アマテラス>の一同は、映像に目を見張った。高い土塁の壁、その周りは暴風に荒れ狂う、湖のような光景。


「おい、これって……この間のミッションの……」真っ先にティムが口を開いた。


「ああ。良渚古城……(アイ)の……あの都……」直人もまた、先月のチャイナ支部とのミッションで見た、長江の水の記憶に刻まれた、あの良渚文化の終焉の様子と気づく。


「娃……」アムネリアの口を突いて出た呟きと共に、映像の中でその都は、押し流されてきた大量の土砂に飲み込まれていった。


「やはり、そうか。ベルザンディ」アランは手を動かしながら、指示を出す。


「PSIパルス、パラメーターのピーク値をとって、本船の観測演算にインプット。それで解像度を補正できるはず」『了解ですわ』


 ベルザンディは、<ノルン>のシステムに働きかけ、演算処理を開始する。すぐに出力されてきた解析画像を各拠点に共有した。


「……どこかの文明……メソポタミア……こっちは……インダス?」ソフィアは、全周モニターのあちこちに現れる映像を見回す。


「……うっ……あれって……生贄……アステカかしら」突然現れた血生臭い祭りの様相にサニは、口を抑えていた。


 照りつける太陽、大干魃、一方では、寒冷化、洪水、火山など、天変地異のイメージと共に、数々の文明の衰退と滅亡の様子が、入り混じり、モニターに、無作為に現れては消えていく。


「あらゆる文明が……終わりを迎えている……アラン、これは⁉︎」


『……見てのとおりさ。ガイアソウル輻射に含まれる……『文明』というアーキタイプ……その時系成分の顕著なスペクトルにフォーカスしたものだ……つまりは……」


「みて、こっちは……」サニが左舷側モニターに現れた映像を指さしていった。一同の視線がそちらを向く。見慣れた建造物が、立ち並ぶのが見える。


「……アタシたちの時代……」


 この時代を象徴する建物、PSIプラントや、インナースペースの知見から生まれた時空制御技術によるスカイハイウェイが見える。


「この時代のPSIテクノロジー……ってことは……」直人は唇を震わせていた。


『ああ……俺たちの追う『ガイアソウル』変動は……俺たちの生きる、この時代の文明を、崩壊させる可能性が極めて高い……』


「なんてこと……」「まさか……そんなことって……」


 一同は口を閉ざすと、次第にこの時代を映し出す映像は暗く閉ざされモニターから消えていった。通信を繋ぐ各拠点からも、何一つ声は聞こえてこない。


『もう、皆! まだ、滅亡が決まったわけじゃないんだから!』ソフィアのカラッとした、陽気な声に、皆は顔を上げる。


『ワタシたちは生き残る! その可能性を見つけるための、この<ノルン>でしょ⁉︎』ソフィアは、各拠点の通信ウインドウの中で、にっこりと微笑む。何の根拠も無いが、ソフィアには、皆に希望を抱かせる何かがある。キャプテンシートの彼女を見上げるアランは、やはり、彼女は天性の『ディスティニー・ナビゲーター』なのだろうと思う。


「……そうだな、お前のいうとおりだ。とにかく進もう、カミラ!」アランは、カミラに呼びかけた。


『えぇ。そうとわかれば、このミッション、なんとしても成果を持ち帰らないとね。間もなく、目標座標よ! 皆、気を引き締めて!』


 希望と覚悟を確かめ合い、インナーノーツの皆は、気持ちを新たに、船を進める——



 ****


「PSIバリア、次元反応LV5へ到達! 目標座標を捕捉‼︎」「よし、ここで停船よ!」


 <アマテラス>は、船体制御を司る、第三PSIバリアを巧みにコントロールして制動をかけ、次元量子アンカーを投錨し、完全停止する。


『エスコート、ありがとう! 皆!』通信に出たソフィアが、軽く手振りをつけて言うのと同時に、傍を<ノルン>が止まることなく前進していくのをモニターが映し出す。


『これから<ノルン>は、調査行動に入る。<アマテラス>はそこに留まり、周辺警戒にあたってくれ』EU支部IMCのケンの指示に、カミラは頷いて答えた。


「ナオ! 誘導パルスを<ノルン>に」


「はい。投射します!」直人の操作で、再び<アマテラス>の誘導パルス放射器が開放される。波動収束フィールドの中でも不可視のパルスが、<ノルン>の固有PSIパルスと同調していく。


「ん、何?」ソフィアは、船にかかる後方からの引力を感じ取り、振り返る。


『命綱代わりよ。万一の時は、全力で引き上げる」「なるほどぉ〜! 心強いわ、カミラさん!」


『ソフィア、アラン。気をつけて』


「はい! これより、調査目標領域へ突入します!」


 正面モニターに映る<ノルン>のPSIバリアが、マーブル模様を描き始める。それが次第に周辺と同化し、<ノルン>は溶け込むように、ゆっくりと消えて行った。


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