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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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宿命の船出 7

「彼は……どうして、あそこまで……」


 ソフィアは、まだきょとんとした表情で、通信ウィンドウ越しの直人とアムネリアを見つめている。


「……同じ、インナーノーツの仲間として……お前には話しておいた方がいいだろう」


 ソフィアは二人から視線を外し、アランを見る。


「……ナオは……あの世界震災の被災者……いや……ナオとアムネリアは……」アランは、二ヶ月前のミッションで知った、直人の過去を語り始めた——


 とある事件の調査協力にあたった<アマテラス>クルーらは、その調査の糸口に、直人の父親の残した、記録データをインナースペースに展開し、そこにアクセスすることとなった。


 直人の父、直哉は、PSIクラフトの基本設計をした科学技術者であり、<アマテラス>の前身であるPSIクラフト・プロトタイプ<セオリツ>の開発者の一人である。


 彼の残した記録データから、直人が二十年前、世界同時多発地震の折、急性PSIシンドロームを発症していたことが判明。直哉は、完成したばかりの<セオリツ>を駆り、直人の魂にアクセスし、彼を救ったことが紐解かれた。奇しくも直人は、対人インナーミッションの初の対象者となったのだ。


 直人と<アマテラス>の一同は、ミッションを通して、幼い直人の魂にアクセスした<セオリツ>に何があったのか、そして世界同時多発地震の発端とされる、日本『水織川大震災』と直人、そしてアムネリアと呼ばれる存在の関わりに秘められた、衝撃的な真実を目の当たりにする。


 直人とアムネリアの魂の、偶然かつ運命的な邂逅。その解放エネルギーが、『水織川大震災』、ひいては世界同時多発地震の引き金となっていたのだ——


「……あの世界震災の震源に……まさか……」ソフィアは驚きを隠せない。


「二人が、いや……二つの魂がそこで出会ったことは確かだ。それが震災と結びついたのは、事故としか言いようがない……それが、あの二人の『宿命』……」


「宿命……」「ソフィア……お前は、あの二人を恨むか? 憎むか?」


 にわかには信じられない話だ。確かにインナースペースには無尽蔵のエネルギーがあるとされ、実際、PSIテクノロジーによって、その利用が可能となっている。とはいえ、この、たった二人の人間が、それだけのエネルギーを?


「……そんなこと……言われても、ピンとこないなぁ。二十年も前の事だし……」顎に人差し指を当て、ソフィアはぼんやりと答えた。


「ものごとは、悪い面ばっかり見れば、それしか見えないけどぉ……案外、それがいい事の始まりだったりもするしぃ〜〜」


『貴女のドジが、良い事だったためしは、殆どないけどね』振り返って、静かにソフィアを見つめるスクルドの眼は、いつもと変わらない。


「うっ……まぁ、そうなんだけど……もぅ。なんでそう、いつも辛辣なのぉ、スクルドォ! 全く、誰に似たのかしら……」


『生みの親は、貴女よ』「うう……で、でもぉ」


 ソフィアは笑顔を取り繕い、改めて口を開く。


「ワタシのドジも、時々いい事あるんだよ。大学のゼミの希望、ホントは、ワタシ、PSI知能開発学科に出すつもりだったんだけどぉ」「間違えて『人工知能開発』学科に出したんだよな」アランが空かさず突っ込んだ。


『そ、そうだったのですか……』ベルザンディは、絶妙な呆れと苦笑いを顔に表現している。


 ……全く……最悪だった……


 ……どれだけ軌道修正にかかったことか……


「ん? ……」


 誰が発した声であろうか? ソフィアは、首を傾げたが、気のせいかと、また口を開く。


「ま、それがきっかけで、こうしてアランと会えたしぃ〜。そ・れ・に」


 ソフィアは、少し身を乗り出して、微笑んでベルザンディ、ウルズ、スクルドを見回す。


「貴女たちにも、ね」


『ソフィア……』ベルザンディは、微笑んで応える。ウルズ、スクルドは、表情こそ変えないが、振り返って一時、ソフィアを見つめ、また前を向く。


「ふふっ。ソフィアらしいな。だが、アイツには……」アランは、通信ウインドウ向こうの直人を見つめて言う。アムネリアの『手当て』で、だいぶ回復してきているようだ。


「なかなか、そう思えはしないだろう……ナオには……」苦々しくアランは声を濁す。


「そんなこと……ないよ。きっと」


 ソフィアは通信ウインドウに向かって、声を張る。


『ねぇ! ナオト君‼︎』呼びかけられた直人は、前方上方のモニターを見上げる。<ノルン>との通信ウインドウが拡大し、映像は自動でソフィアにフォーカスしていく。


『さっきの凄かったね。聞いたよ、アランから。そのコ、えっと……亜夢? ……じゃない……アムネリアのことも……』


「‼︎」直人は、目を見開き、顔を強張らせてソフィアを見つめる。


『おい、ソフィア! すまん、ナオ。一応、こいつにも事情を話しておくべきかと……』


 アランの弁明に、直人は小さく首を振って俯く。だがソフィアは、お構いなしに優しげな微笑みを湛えたまま、話しを続ける。


『震災のこと……知ったら恨む人、そりゃきっといるよ』


 恨む——ソフィアから出たその言葉に、真世はぴくりと身体を動かし、身を固くしている。


『でも、ワタシは恨んだりしない。ううんん……とても良かった、なんていえないけど、ワタシはこの、今の人生が好き。被災して、苦労してきた時間もひっくるめて』


 明るく歌うようなソフィアの声に、直人は思わず顔を上げる。<ノルン>ブリッジの照明を光背のように纏い微笑むソフィアは、まるで宗教画の聖母のように見えた。


『人生なんて、思い方一つよ』


 直人は息を呑み、思わず隣に立つアムネリアへ視線を向ける。彼女は直人の視線を大きく開いた瞳で受け止め、僅かに微笑む。ハッとなって、バツが悪そうに直人は、ソフィアの方へと向き直った。


『宿命は変えられないけど、運命は変えられる! この『ディスティニー・ナビゲーター』のワタシが保証するわ!』腰を浮かせ、満面の笑みを浮かべているソフィア。


「あ、ああ。ありがとう、ソフィアさん……」ソフィアに気圧され、直人の口角が否応なく持ち上げられる。それに気を良くしたソフィアは、勢いよくシートに座り直した。


「なおと……」


 直人が、頷いて小さく返したのを見て、アムネリアはそっと引き下がり、再び亜夢のフォログラムの傍を通り抜けようとする。


 一つの身体を共有するアムネリアと亜夢。フォログラムの亜夢は、今、自分の肉体に覚醒しているアムネリアから目を背け、俯く。


『二人』の間に、何も言葉は生まれない……

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