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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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ディスティニー・ナビゲーター 8

「こちらで……おっと……」ベルザンディと入れ替わりで、EU支部の職員が、恰幅の良い男性を案内してくる。ハンナは彼の姿を認めると、休憩ブースから出て出迎えた。<アマテラス>の一同も、ハンナに続く。


「今のは……ベルザンディか? 遅くなったかと思ったが、ミッションはまだだったかな?」


「ウォーロック顧問。えぇ……」


 男はブレナン・ウォーロック。国連PSI利用安全保障会議に属するIN-PSID顧問団団長である。IN-PSID本部長、藤川やハンナらと同世代ではあるが、巨躯と深く鳴り響く声は、圧倒的な存在感を示す。


 <アマテラス>チームも、直接会う機会は少ないが、知らない顔ではない。ウォーロックは、ミッションの遅れの経緯を聞いて、豪快な笑い声を立てた。


「相変わらずだな、ソフィアは。構わん、ゆっくりやってくれたまえ」ウォーロックは、時折、EU支部に訪れ、<ノルン>開発を視察し、ソフィアとも面識があることをハンナが説明した。


「君たちとも、久しいな。これまでのミッションの成果は、私も聞き及んでいる」そう言いながら、ウォーロックは<アマテラス>チームの全員と握手で挨拶を交わす。


「今回のミッションは、私も特に注目していてね。ハンナ君に立ち合いを許可してもらった」


 ウォーロックの和かな微笑みに、ハンナは小さく頷いた。


「オブザーバーはもう一人……通信は繋がったかしら?」「オッケーです」


 EU支部IMCのメインモニターに、浅黒い肌の男が現れる。中東系の顔立ちだと、皆すぐにわかる。


『バビロニア支部代表、ムサーイドです。よろしくお願いします』モニター向こうの男は、目を少し伏せ丁寧な物言いで挨拶した。


「うちの次は、すぐに彼のところ。ミッションに備えて、見学したいそうよ。いいわね、コウゾウ?」ハンナの声に応じて、ムサーイドの映る通信ウインドウの隣に、日本のIN-PSID本部IMCと繋がる通信ウインドウが拡大され、白髪の眼鏡をかけた小柄な老人が現れた。IN-PSID本部長、藤川弘蔵である。


 IN-PSID本部IMCの通信ウインドウには、藤川の他、<アマテラス>ミッションチーフ、東茂、運航管理管制、田中聡、そして、今しがた入室した<アマテラス>メンバーのヘルス管理を担当する、藤川真世の姿が見える。


『もちろんだ』藤川は、真っ白の口髭を少し持ち上げて答えた。


「さて、諸君」場の中央へ進み出たウォーロックが、まるで演説でもするかのように朗々と皆に語り出す。


「インナースペースの解明が進むに連れ、多元宇宙、パラレルワールドは、現実のものとなりつつある。このEU支部が開発した<ノルン>は、この宇宙の最大の謎の一つの解明に、大いに貢献してくれるに違いない」


 EU支部IMCに集う皆、そして通信で繋がれた各所の皆は、ウォーロックの言葉に自然と聞き入る。


「もし、このパラレルワールドの中から、人類にとっての『クリティカル・パス』を見極める事ができたなら、未来に起こりうる決定的な災厄、運命にも、人は正しい選択をする事ができるはず……来るべき『ガイアソウル』の大変動にも……そうであったな、ドクター藤川?」


 ウォーロックは、通信ウインドウ向こうの藤川を見つめた。


『おっしゃるとおりです。ウォーロック顧問』藤川は、深く頷いて答える。


「うむ。<ノルン>とソフィアの能力は、インナースペースから、そのクリティカル・パスとなる事象分岐点を探り出す可能性を十分に秘めている。今回は、<ノルン>のファーストミッションとはいえ、重大な発見も期待できるのだ」


 ウォーロックは、言葉を一度区切ると、<アマテラス>チームへと向き直り、一人一人をしっかりと見据えた。


「<ノルン>の護衛にあたる君たちも、心して臨んでくれたまえ」「はい!」


「<ノルン>か。なんか、すげぇ船を作ったもんだなぁ。この船だけで運命を変えちまうのかよ?」「いいえ、それは少し違うわ」ティムが何気なく発した言葉に、ハンナは言う。


「インナースペースで、事象分岐点に作用を加える事は、この現象界を含む多元宇宙に渡って、影響を及ぼしかねない。それも、時も空間も超えて……あまりにリスクが大きすぎる。<ノルン>は観測するだけ。もちろん、観測による波動収束効果の懸念はあるけど、それを最小限に抑えながら……」


 ウォーロックは、頷いてハンナの言葉に続ける。


「そう、我々はその観測結果から、最も最適な選択をとり、この世で具現化させる。無論、正しい選択を選んだとしても、その行動がまた、別の事象分岐を生み出す可能性はあるが、観測と行動修正によって、厄災に備えていこうという事だ」


「この世は、選択の結果の積み重ね。運命は『この世』での選択によってこそ、変えていくものなのよ」


「『この世』での、選択……」ハンナの言葉は、何故か直人の胸の内に強く響いていた。


「故に<ノルン>は、最低限の防御装備以外、クリティカル・パスに影響を与えかねないミッション装備を何一つ持たない。PSIブラスターすら積んでいないからな」腕を組み、アランは厳しい表情を浮かべ、ハンナを一瞥する。


 言葉を返そうとするハンナに変わって、ウォーロックが口を開いた。


「アラン君のいうとおり……アレは、丸腰に近い船だ。だが、<アマテラス(きみたち)>のミッションを通して、インナースペースにおける、『エレメンタル』や『ヘカテイアン』のような、未知の存在との接触の危険も重々承知している。今回も何に出くわすか、わからん。もしもの時は、<ノルン>をしっかりと守ってほしい」


 アランは、無言のまま瞑目する。


「ええ、心得ています……それで、今回、<ノルン>のファーストミッション。ミッションターゲットは……」カミラが問う。


「えぇ。まだ詳しく話していなかったわね」ハンナは図示化したミッションの概要を卓状モニターに示す。皆はその図を囲み、覗き込む。


「我々が今回、目指す目標は……無論、『ガイアソウル』そのものよ」

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