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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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ディスティニー・ナビゲーター 2

「せっかくのアランとの最後の夜なのよぉ〜〜なのに、なんでこんなに仕事ばっか……」『そもそも、ソフィア。貴女がこの二週間ばかり、バカンスを満喫した分の遅れよ』ソフィアの不満気な呟きに、空かさずウルズが、抑揚のない声を重ねた。


『そうよ。休暇入り前に私の提示した未来予測に基づき、完璧にスケジューリングしたのに。<アマテラス>チームの皆さんに、『ブリテンでの急なミッション』が入って、日程が伸びたのをいいことに、貴女は!』ウルズに続いて、スクルドが畳み掛ける。


 モニターには青空に輝く、雄大なマッターホルンの映像が映し出される。下方へと視線を移せば、ロッジのベランダで、友人らとスイーツを堪能するソフィアの姿が見えた。


 ギョッと目を見開くソフィアを横目に、スクルドは、サーバーに置かれたソフィアの個人フォルダの写真データを次々とモニターに展開していく。ドイツ、スイス、そしてフランスの名所を背景に、はち切れんばかりの笑顔を振りまく、ソフィアのスライドショーだ。


「はい……休み、三日延長しました……」


 パリ、エッフェル塔の前で、友人二人に挟まれて、エッフェル塔ポーズを決める自分の写真を見せつけられたソフィアは、シュンとなって、ますます肩を垂れ下げる。


『自業自得だ』ウルズの冷ややかな声が、追い討ちをかける。


「だっだ、だって〜エッフェル塔がワタシを呼んでたんです……」


 展開した写真を片付けると、スクルドは予定しているコントロール・コアのミッション前準備作業メニューを開き直しながら口を開く。


『……とにかく、今夜は徹夜になるわよ。このコントロール・コアはノルンのメインフレームとリンクして、この現象界起点として重要な役割も担っているの。きちんとやらないと、最悪、帰って来れなくなるわ』


「わかってます……うぅ……」


 とぼとぼと、自席に戻ると、ソフィアは眠りにつこうとする黒猫アランを追い立てる。アランは、抗議めいた鳴き声を上げて、新たな安眠の地を求め、ウロウロと歩き出す。


『まぁまぁ。スクルドもウルズ姉さんも。過去も未来も、絶えず揺らぐもの。大切なのは今。ソフィアはそれがわかっているから、その時、その時を楽しんでいるのです。それこそ『ディスティニーナビゲーター』としての大切な資質……』


「あぅう〜ベルちゃん。心の友ヨォ〜〜」ソフィアは両眼を潤ませる。


『もう! ベル姉さんは、なんでそう、ソフィアに甘いの!』スクルドの声が、刺々しい。


『ではシミュレーションNo.67からもう一度。ベルザンディ、スクルド、準備なさい』何事もなかったような口ぶりで、ウルズは指示を出す。


 黒猫アランが、ちょうど室内中央のフォログラム投影器に丸まりかけた時、投影器が作動し始め、光の柱状の映像が立ち上がる。猫は驚いて飛び退くと、自分の新たな寝場所を横取りした光の化け物に威嚇の唸り声をあげるが、化け物は全く動じることなく、枝葉を広げた樹木のような像を形作っていく。


『アラン、あっちにいきなさい。ダメだったら』ベルザンディの注意を他所に、黒猫は、耳を倒しながらも、猫パンチで果敢に化け物に立ち向かう。


『ソフィア、貴女の猫でしょう? なんとかしなさい』「う、うん、ごめんごめん」ウルズに急き立てられながら、ソフィアが追いたてると、黒猫は駆け出し、コンソールの上に跳びのって駆け回る。


『もう! だからなんでコントロール・コアの中にまで猫を!』スクルドはいつになくピリついた声を上げ、猫を追い払う。猫はコンソールから飛び降りると、室内後方へ走り去る。


「だって……ここ、気に入ったんだもんね〜アラン」ソフィアの私物を積み上げた物陰に入り込んだ猫を探しながら、ソフィアは恍けたような声で答えた。


『はぁ、ここの人達、皆、ソフィアを甘やかしすぎ! いいからその猫、繋いどいて!』スクルドは、キツい言葉をソフィア投げつけると、淡々と自身の作業に戻っていく。


 物陰に潜んだアランを抱き上げ、ソフィアはアランを撫でてやる。


「もう……怖い、怖い。誰よ、スクルドの人格モデル組んだのぉ。って……ワタシかぁ……おっかしいなぁ……」


 ソフィアは、黒猫を両手で持ち上げ、まじまじと見つめた。気怠そうなアランは、一つ鳴き声を漏らす。


「はぁ……アラン……ここにいる貴方は、なぜ猫ちゃんなのぉ………あっ!」


 何かを思いついたソフィアは、物陰からウルズとスクルドに見つからないように覗き込みながら、ベルザンディへと合図を送る。


「ベルちゃん、ベルちゃん」


 小声で呼びかける声に、指向性聴覚を向けたベルザンディは、すぐに手招きをするソフィアを見つけ出すと、駆け寄ろうと足を踏み出した。


『ベル、何してる?』「あ、うん、ちょっと……。始めてて」呼び止めたウルズは、怪訝な表情を僅かに浮かべるも、気に留める様子もなく自身の作業を再開した。


「あのね……」近寄ったベルザンディに、ソフィアは耳打ちする。


『えっ……でも……それは……』


「ね、いいでしょ。ちょ〜と、夢見るくらい……」少し困惑した表情を作るも、ベルザンディは、小さく頷いてソフィアの言葉を受け入れた。


『わかりました……演算には時間がかかります。楽しみは、ミッションのあとに……』


「いぃい? ウルズとスクルドには内緒よ」『ふふ……わかってますわ』

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