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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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Full Moon Cup, Again 6

「<アマテラス>が⁉︎」

 

 前方へと抜け出た<アマテラス>は、<リーベルタース>を置き去りにして、漆黒の宇宙空間へと高度を上げてゆく。

 

「ちっ! お前はいつもそうやって、一人で勝手に‼︎ サラ! 追うぞ‼︎」「ええ!」

 

 <リーベルタース>は、鋭く舵を切り、<アマテラス>の飛び出した方へと向かう。<リーベルタース>のスラスターが、サーキットの路面を蹴り、機体は宙空へと浮き上がる。

 

「じ……じ、次元パラメーターが⁉︎」ホセが、船体監視モニターを見つめながら、焦り声を上げた。PSIバリアが、激しく変動している。それに伴い、モニターに映り込む映像も月面から大きく離れていく。

 

「こ、ここ、今度はなんだヨゥ⁉︎」後方のパネルへと流れてゆく月の映像を追いかけながら、ダミアンは身を震わせる。

 

「レニーのヤツ……いい、このまま、翔び続ける! <アマテラス>に続け‼︎」

 

 

 ****

 

「えっ! ちょっと⁉︎」ダミアンと同じように、後方へと流れゆく月の映像を見守りながら、サニは声を上げた。

 

「このままだと、月の軌道を離れるぞ!」アランは、周辺解析のデータを、メインモニターに示しながら言った。<アマテラス>と<リーベルタース>は、ちょうど月の地球周回軌道に沿って飛んでいる。両船とも、この時代の最速宇宙船を遥かに凌ぐスピードだ。

 

『大丈夫、ここは『インナースペース』……だろ?』レニーは、小さな笑いを立てている。そう、ここは確かに、レニーの心象世界であった。<アマテラス>レニーの言葉に、はたとそのことを思い出す。

 

「見て、地球が……」サニは、左舷側のモニターに映る地球を指さす。皆の視線が、そちらに注がれる。

 

「どんどん遠ざかっていく……」直人は、ここがレニーの心象世界を描くインナースペースとはいえ、不安と心細さを感じずにはいられない。直人の瞳の中で、遠ざかる母なる星の姿に、アムネリアの姿が重なっていた。

 

『<アマテラス>、<リーベルタース>! どうした⁉︎ 状況は⁉︎』東が呼びかけている。

 

「<アマテラス>よりIMC! 現在……」『何? ……どうした? <アマテ……』「チーフ‼︎」カミラの返答が届く前に、<リーベルタース>を除く、各拠点との通信が途絶える。アランを見やれば、ただ静かに首を振るだけだ。

 

「ちっ……レニー……いったい、オレ達をどこに連れて行くつもりだ?」振り返って、ティムはフォログラムのレニーに訊ねる。

 

『ふふ……これは僕の魂と一つになったヘカテイアンの記憶……』そう呟き、レニーは瞑目する。すると今度は、次第に月の公転速度が段々と遅くなり、ついには反対方向へと動き出す。

 

 月の公転だけではない。月、それに地球の自転方向も逆になっていく。

 

「船外の時間パラメーターが逆進し始めている……これは……ヘカテイアンの記憶を遡っているのか?」

 

 アランは、自席のコンソールのキーボードに、怒涛の如くコマンドを打ち込みながら、船への影響パターンのシミュレーションを実行していく。

 

「……PSIバリアが抗力となって、船内時間はかろうじてキープしているが、この逆進だ! バリアの消耗が速い!」

 

「どの程度保つ⁉︎」カミラはすぐに聞き返した。

 

「このペースだと、あと一時間程度! <リーベルタース>も同じだろう」

 

『一時間か……いいだろう、その間に勝負を決めてやる!』通信モニターから、マイケルの声が割って入る。

 

『待って、マイケル……あっ?』通信モニターの向こうで、マイケルの方へ振り向いたサラが、何かに気づく。

 

『どうした、サラ!』『後ろ! あれ!』

 

 

 <リーベルタース>の一同は、一斉に後方パネルを向く。<アマテラス>の方も同じように、皆、後ろを振り返った。

 

 いつのまにか、地球を遥か彼方に、まるで天体モデルのように見える位置から俯瞰している。だが、その太陽系は、よく見慣れた、地球を始めとする惑星が並ぶ世界ではない。岩石とガスの渦巻く星雲のような渦の中に、産まれたての惑星らしき球体が浮かんでいる。

 

「原始の太陽系……なのか?」マイケルは、呟く。

 

「……なら、あれが、地球……?」現在の太陽系から比定して、サラは原始の地球らしき塊を指差す。それは灼熱の海、マグマオーシャンに覆われた、まさに火の球である。

 

「時間パラメーター、推定、およそ四十四億年前……ヘリオポーズを抜けるわ」ようやくレーダー盤が、周辺時空情報を算出し始めたのを確認し、ケイトが報告を挙げ、後方の映像をメインのモニターに移した。

 

「これが、ヘカテイアンの記憶だとすると……彼らはそんな大昔から……」天井のメインモニターを眺めながら、サラは感慨深げに呟く。

 

「そういう事になりますねぇ……彼の言うことが本当なら」ホセは、モニター向こうのレニーを一瞥して、その呟きに答える。

 

 

「……この宇宙の誕生は、一三七億年前、いや、最近の研究ではさらに遡る可能性もある。宇宙からすれば太陽系はまだ若い。太陽系誕生の遥か以前に、何らかの知的存在が居たとしても」「おかしい事ではない……か……」そう言うと、アランとカミラは、しばらく原始の太陽系を映し出すモニターを眺め、口を閉ざす。二人を見やる直人には、彼らが少し前に口にした『仮説』という言葉が、妙に気にかかる。

 

「……で、私達はどこに向かっているのかしら?」カミラは、サニに向かって問う。

 

 サニは、サポートAIに<アマテラス>のデータベースから、使えそうなデータのピックアップと解析を要求した。数秒ほどでアンサーが、レーダー盤に反映される。

 

「無理矢理、現在の天文データを重ねてみたわ! 方角的には現在の蟹座方向……プレセぺ散開星団方向だけど……こうも時代が古いんじゃ……」サニは言いながら、左舷側のインフォメーションモニターに図を共有した。

 

「星団なんてまだ、存在していない……か」モニターが示す、何もないその領域を見つめ、サニの言葉を繋ぐティム。

 

「プレセぺ散開星団……冥界への入り口、

 積尸気……」直人は、その星雲にまつわる言い伝えを思い出していた。レニーの記憶、いや、ヘカテイアンの記憶が向かおうとしている先との一致は、果たして偶然なのだろうか……

 

『そう……』直人の疑問に答えるかのように、レニーは語り出す。

 

『……僕らは……ヘカテイアンは、気の遠くなる長い時間をかけて、別次元の宇宙から、あの宙域を通過し、太陽系方面へと向かった……ごらん、あの遊星を……』

 

 ブリッジ後方を振り返り、レニーは後方パネルに向かって手を翳す。

 

「後方……太陽系の方から巨大な収束反応⁉︎ これは……星⁉︎」サニが言うのと同時に、後方パネルに見えていた原始太陽系から、巨大な球体が浮かび上がり、ぐんぐんとこちらへ迫ってくる。

 

「時間が逆転しているんだ。つまり、あの星は、四十四億年前に、プレセぺ散開星団方面から、太陽系に飛来した星……」アランは言いながら、その意味にハッと気づく。

 

『そうさ……キミたちの言葉を借りるなら、あの星こそ『テイア』……なのさ』

 

 <アマテラス>、そして<リーベルタース>の一同は、その意味をすぐに理解し、瞳を見開いて迫り来る巨大天体に見入る。

 

『テイア』——それは、月の女神セレーネを産んだ母の名であり、また、原始地球に衝突、ジャイアントインパクトを引き起こし、月を誕生させたという仮説上の惑星に与えられた名。原始太陽系内で生まれた天体と考えられるが、太陽系外から飛来した可能性も示唆されている。

 

 ヘカテイアンの記憶が確かであるなら、<アマテラス>、<リーベルタース>の皆は、この時代においてもまだ確かめられていない、テイアの由来を、今まさに目撃しているのだ。

 

 皆が言葉を失い、その天体に見入っていると、突然、テイアから何かが蠢く影が分かれ、覆い被さるように襲いくる。

 

 <アマテラス>のクルーがそれに気づくのと、船体に、鈍い大きな揺れが走るのは同時だった。

 

「うっ‼︎ な、何⁉︎」身体を揺らされながら、カミラは声を上げた。

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