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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第二章 月と夢と精霊と
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月へ! 2

「IMCより<リーベルタース>。海中エントリーポート注水完了! [トランジッションカタパルト]、オールグリーン」

 

「第一PSI バリア展開! 現時空座標パラメーター入力!」「突入次元パラメーターLV1セット!」

 

 <リーベルタース>クルーは、慣れた様子で発進手順を進める。彼らにとって、今回が初のミッションではあるが、多くの訓練、ワープテストを繰り返してきた、練度の高さを窺わせる。

 

『<リーベルタース>、それから<アマテラス>。最終確認だ。これから<リーベルタース>は、一度、インナースペース最浅領域、『現象境界』次元へ出る。そこで、月の相対座標を取得、ワープで一気に月のインナースペース領域に向かう』

 

 <リーベルタース>、<アマテラス>両ブリッジにマークの張りのある声が響く。

 

『ワープ明け後、現象界、ルナ・フィリア上空、約三千メートル地点へ浮上。<イワクラ>へ座標を送ってくれ。<アマテラス>は、座標を追って、直ちに時空間転移だ』

 

「了解!」マイケル、カミラの返事が重なる。

 

『出発にあたり、一言、君たちに贈りたい』

 

『このミッションは、小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍となろう!』

 

『かつて、月に最初に降り立った宇宙飛行士の言葉を借りた。ミッションの成功を祈る!』

 

「では、参ります」『うむ』

 

 マイケルは、姿勢を正し、呼吸を整えて声を張る。

 

「<リーベルタース>、Take Off‼︎」「スロットル全開! 行くゼェ〜!」マイケルの命を待ち侘びていたダミアンは、一気にスロットルレバーを弾き倒す。放たれた矢の如く<リーベルタース>は、トランジッションカタパルトを滑り降りてゆく。

 

 その先に余剰次元のゲート、エントリーポートが眩い光球となって待ち構えている。

 

 激しい雷光を放ちながら、<リーベルタース>は、エントリーポートに形成された次元結節力場へと飲み込まれていった。

 

 一分にも満たない、そのわずかな時間、エントリーポートの突入観測カメラが映し出す光景を、NUSA支部IMCの一同は、固唾を飲んで見守っていた。

 

 同じ映像は、ミッションに携わる各拠点に共有されている。


『<リーベルタース>、サンタカタリナ島沖合の余剰次元に突入を確認』本部IMCの藤川、東は、緊張を保ったまま、NUSAから逐一届く報告に耳を傾けている。

 

「いよいよ、月へ向けてのワープですね」「うむ……」東に硬く頷く藤川。

 

「所長?」東は、眉を寄せる。

 

「現象界からの観測支援を必要としない、単独時空間転移。しかも、月という長大な空間距離だ。現象界への観測と目標座標を絶えず連続演算する処理能力。また、それだけの時空間パラメータ処理を可能とする、高出力機関。<アマテラス>の基本設計の応用とはいえ、これだけの能力を備えた船をNUSA支部は、作り上げた……」

 

 藤川は声を低くしていう。田中も振り返り、藤川の言葉に聞き耳を立てている。

 

「まさか……<リーベルタース>は、最初から、月を目的として建造された……とでも……」そう言う東に、答える事なく、藤川はしばし瞑目する。

 

「……マーク」

 

 再び目を開くと、モニター越しの彼と目が合ったような気がした。マークは、知らぬ顔で隣に立つナターリアの、何かしらの報告を受け、頷いて同意していた。

 

『<リーベルタース>より各所へ。これより本船は、月へ向けワープを行う! ワープ中は、通信が遮断される。通信回復は五分後を予定!』

 

 マイケルの低く落ち着きのある声が、拠点各所で響き渡る。

 

『こちら、NUSA支部、IMC。了解しました。ワープ前の各部点検を入念に。無事なフライトを』『ありがとう。では、通信を遮断する』

 

 ナターリアとマイケルのやり取りが終わると、各拠点の通信モニターから<リーベルタース>ブリッジの映像が途切れる。時空間計測への、通信PSIパルスの混入を避ける為の処置だ。

 

「月の座標演算、ファイナルチェック!」「航路演算、並びに追跡演算、全て問題無し!」マイケルに観測手、ケイトが答える。

 

「ワープ機関!」「PSIパルス反応率九十六パーセント。出力……安定しています……Oh……Jesus」続いて、ホセが不安気な表情を浮かべながら答えた。

 

「ワープ準備完了! カウント、入ります!」サラは、自身のモニターで機体の準備が整った事を確認し、声を張り上げる。

 

「Five! ……Four! ……three!」

 

 

 <リーベルタース>との通信が遮断され、暗転したモニターをマークは黙して見詰める。彼の手に、冷んやりとした手がそっと重なる。

 

「……そう、硬くならないで……大丈夫」

 

 マークの隣に寄り添うように傍らに立つナターリアが、耳元で囁く。

 

「う、うむ……」マークは、硬い表情のまま、頷いた。

 

 

「two! ……One! スタート!」掛け声と同時に、サラはワープ起動スイッチとなっているダイヤルをONに回し込む。

 

 モニターに映り込む、海中の映像が歪み始める。<リーベルタース>を包み込むPSIバリアが大きく畝り、その中に<リーベルタース>を巻き込んでゆく。

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