第27話 これがあの、"青春"ってやつですよね
「街にはよく、来られるんですか?」
色々なものを進めようとするリンダさんにお礼を言って、私たちは先に進んだ。少し緊張が解けてきた私が疑問に思ったことを素直にきくと、エバンさんは少し嬉しそうに笑った。
「はい。何も知らないまま人なんて守れるかって、父がよく言うんです。」
素晴らしいお父様ですね。と、心の中で偉そうなことを言った。
どんな人かは会ったことがないけど、これだけエバンさんがイケメンだから、きっとイケおじなんだろうな。
やっぱり燃えるみたいなエバンさんの瞳はすごく暖かくてきれいで、いつまでも見ていたいとすら思った。
「アリア様は…。」
「は、はい。」
思わずイケメンの横顔に見とれていると、エバンさんに名前を呼ばれた。
見てんじゃねぇよとか言われたらどうしようと持って目を反らして身構えていると、エバンさんはその反対に、とても優しい顔で私をみた。
「この半年、いかがお過ごしでしたか。」
お見合いの定型文みたいなことを聞かれたから、少し笑いそうになった。でもここで笑ってしまえばおかしなやつだって思われかねないと思って、グッとそれをこらえた。
「えっと。この半年は、慌ただしく準備をしておりました。父の仕事のことも色々とお勉強出来て、充実していました。」
「そうですか。」
正直に答えると、エバンさんはなぜかそのあと何も言わなくなった。どうしたんだろうと思ってチラッと横顔をみてみると、エバンさんの頬が少し赤くなっている気がした。
「私は…、早くお会いしたかったです。」
するとエバンさんは照れた顔のまま、それでも私の目を見て言った。心臓がドキッと高鳴って、今にも飛び出しそうになった。
「この間…。リオレッドでは、本当にすみませんでした。」
謝られるようなことしたっけとおもって思い返すと、浮かんできたのはあの夜のことだけだった。そう言えばあれからロクに話が出来ていなかったんだ。
そう思ったらあの日のことを一瞬で思い出してしまって、また心臓がうるさくなりはじめた。
「いえっ、こちらこそ…。ご心配おかけしました。」
「すべて私のせいですから、謝らないでください。」
エバンさんはそう言って、とても申し訳なさそうな顔をした。
少しでも申し訳ない気持ちを晴らそうと、何か言葉を探したけど、なかなかうまく出てこなかった。
「あの…。」
すると私が何かを発する前に、エバンさんがまた言葉を紡いだ。どうしたんだろうと思って顔を見ていると、エバンさんはどこかそっぽを向いてこちらを見てくれなかった。
「えっと。アルとは、仲がいいんですか?」
やっと絞り出したエバンさんの言葉は、気の抜けるような質問だった。そんなことならサラッと聞いてくれればいのにって思いながら、「はい」と素直に答えた。
「アルとは小さい頃から一緒に勉強していて…。幼馴染みたいなものです。」
「そう、なんですか。」
エバンさんはそう言って、少し下を向いた。
え、なに?もしかして嫉妬?
可愛すぎんだけど、まじで。
おばちゃんときめいちゃうよ?いい?
「アリア様。」
相変わらずバカなことを考えていると、エバンさんが丁寧に私を呼んだ。そんな風に丁寧に呼ばれると、なんだかくすぐったい。
「僕にもその…。もっとフランクに接してください。」
顔を真っ赤にしてそんな可愛いことを言うエバンさんに、胸がギュっと締め付けられるほど痛くなった。もともと早かった心臓がさらに早くなるのを感じて、これではあの日みたいに息切れを感じてもおかしくないと思った。
「あ、あの…。私は年も下ですし、身分もずっと低いので…。」
「そんなこと、お気になさらないでください。」
確かにそれってアルだって同じことなんだけど、かといって"わかった!ありがと!んなエバンって呼ばせてもらうわ!"なんて言えるほど、私も気が大きくない。でもその申し出自体嬉しいものだったから、私は小さい声で「それでは…」と言った。
「"アリア様"と呼ばれていると、私も身構えてしまいます。みんなのように、"リア"とお呼びいただけませんか…?」
私がフランクになるっていうより、エバンさんがフランクになるのが先だろう。私の言葉でそうしてくれないと私もフランクになりにくいってのを悟ったのか、エバンさんは「なるほど」と言った。
「じゃあ、リアと…。」
「ええ。それに私には敬語はおやめください。その方が私も、気楽です。」
エバンさんは少し難しい顔をして考え込んだ後、「わ、わかった…」と小さい声で言った。
「リ、リア…。」
「はい、エバンさん。」
練習するみたいにして、エバンさんは私を呼んでくれた。今のでグッと距離が縮まった感じがして、すごく嬉しくなってしまった。
「リア。」
「はい。」
「ああ、もう。恥ずかしいな。」
エバンさんはそう言って、照れた顔で頭をかいた。その顔がすごくかわいくて、私は思わず「ふふ」っと笑ってしまった。
「情けないでしょ、ごめんね。」
「いえ。とても素直な方だなと思って。」
私も答えるようにして素直に言うと、エバンさんはまた照れて頭をかいた。
なんだよこれ。"青春"じゃないかよと、私の中にいる小さなおばさんが騒いでいた。