第24話 え、私いらなくない?
それからもロッタさんは、丁寧に街中を案内してくれた。街中だけじゃなくて港や倉庫なんかも色々と見せてくれて、見ている間にあっという間に1日が終了した。
「それではこちらにお願いします。」
「はい。」
そして次の日、私たちは朝から宿舎の中にある会議室的な場所に呼ばれた。そこで昨日見たことをもとに、色々と質問をしたりアドバイスをするってのが今日の仕事だ。
「とりあえず、地図を持ってきていただけますか?」
「はい、こちらに用意してあります。」
ロッタさんはパパに言われた通り、テムライムの地図を持ってきて机に広げた。パパはその地図を見ながらどこに今営業所があるのかとかを詳しく質問して、地図に書き込んで言った。
「まずはですね、拠点がまだ少ないと思います。ここ辺りにも一つ、そしてここ辺りにも…」
そしてパパはとてもスムーズに、話を進めていった。
パパが気が付いたところは私が思ったところとほぼ一致していて、アドバイスも私が付け加える必要なんてなかった。むしろ私が考えるよりもっと的確だと思った。
そしてそこで私は一つ気が付いた。
――――私、いらなくない?
リオレッドに運送方法が確立されてなかったあの頃、私は確かにパパに色んなアシストをした。でも今パパはそのアシストをもとに国内の運送をどんどん発展させていっているし、なんならあの頃の私よりも知識は絶対に豊富になっている。
私の陸路の運送に関する知識はパパにすべて受け継がれて、そして発展している。
ということは、私は、必要ない…。
え、こなきゃよかった?もしかして。
そしたら今頃ママと二人でぬくぬくした生活してた?
じぃじのとこに遊びに行って
ワッフルたらふく食べて、
そのまま昼寝させてもらって…
いつも通りの最高の生活送れてたし、
なんなら結婚相手探しだって始められたかも。
え~、どうして先に気が付かなかった…
「リアは、どうだった?」
パパの話なんか聞かずに全力で後悔していると、パパに急に話を振られた。会議室にいたテムライムの役人さん数名もリオレッドから連れてきたパパの会社の人も私に注目していたから、何か話さなければと思った。
「え、えっと。父の言う通りだと思います。私もそう思いました。」
この世に存在している言葉の中で最も無難なセリフを使って、私は言った。するとみなさん「そうですか」と反応はしてくれたものの、期待はずれって思われているんじゃないかと心配した。
とはいえ、本当に私が口をはさむところはなかった。
パパは的確に明日から何をするのかの計画を立てていたから、私が口を挟めば計画が崩れそうで、そっちの方が心配だった。
――――帰る、か。
本当に自分に出来ることはないと悟り始めた私は、先にリオレッドに帰りますって言えないものなのか、その道を模索し始めようと思い始めていた。
でもせっかく2日もかけてここまで来たのに、明日すぐに帰りますって言うのももったいないと思っている気持ちもあった。
帰るにしても観光をさせてもらってからにしようって心に決めて、それをどう切り出せばいいのか考えることにした。
「では、そろそろお昼にしましょうか。」
「あの…。」
昼からは実際に現場に行って、パパの計画を進める準備をする流れになった。当然みんな私もついていくと思っているだろうけど、これ以上黙ったまま笑っているのも辛い。
私は席を立とうとしているみんなを一旦止めるために、意を決して声を出した。
「私、もう少し街が見たいんです。自分の足で歩いて近くで見てみれば、他に分かってくるものがあるかもしれないので。」
――――よし、決まった。
本当は"観光がしたい"と言っているだけだが、まじめに仕事をしたいと思っていますと暗に伝える言い方。
会社員時代のなごりで、そういう言い回しには自信があった。現に大人たちは発言を聞いて感心したあと、「さすがですね」なんて言い始めてしまった。辛い。
「そんな風に言っていただいて、ありがとうございます。我々としても嬉しいです。しかし、お嬢様を歩かせてしまってもいいものでしょうか?」
「ええ、お気になさらず。昔から動かないと気が済まない子で、妻も私も手を焼いていたくらいですから。」
「パパ。」
心外すぎる。あんなにいい子だったのに。
そう思って頬を膨らませながらパパをにらむと、大人たちはクスクスと笑っていた。大人って言っても私より年下なやつばっかりなのに!と屈辱的な気分にさらされていると、ロッタさんが「本当にありがとうございます」と言ってその流れを断ち切ってくれた。
「それではこちらから、案内役と警護をつけさせていただきます。」
「警護なら私たちが…っ!」
ロッタさんの発言を聞いて、今までずっと黙っていたアルが慌てて言った。存在すら忘れてたと私が失礼なことを思っていると、パパが静かに「アル」と言った。
「テムライムはそんなに危険なところではない。ぞろぞろと警護が付いていけば街の人たちも緊張するだろうから、テムライムの方にお任せしよう。」
アルはすごく不服そうな顔をしていたけど、しょうがないってテンションで「かしこまりました」と言った。
でも冷静に考えてテムライムのよくわからない警護の人と二人で観光とかまじで地獄すぎるから、やっぱりアルにも来てほしいって言おうかなと迷い始めた。