番外編 パパのリア観察日記
娘は昔から、娘と思えないくらい活発な子だった。
それに小さい頃からすごく賢くて、大人が思いつかないようなことを言ったり実行したりして、何度だってリアに助けられてきた。
アシュリーはそれをあまりよく思っていなかったようで、小さい頃から許嫁を探す話をよくしていた。でもある時から一切そんな話をしなくなったところを見ると、もうリアはそういう子だと諦めたのかもしれない。
「はあ。」
そんなリアが、最近よくため息をついている。その原因は明白で、王様にテムライム王との接見を打診されたからだった。
王はリアのことをとても高く評価してくれていて、リアも王によくなついている。リアはこちらがヒヤヒヤするくらい王様にフランクに接するし、王様もそれを嬉しそうに受け入れているほど二人は仲良しなんだけど、それだけ仲が良くても正式な依頼をされたら、さすがに断れないらしい。
「リア。大丈夫だから。」
「うん…。」
何度もそう言って励ましてはいるけど、俺の励ましなんて耳に入っているようでいないようなもんなんだと思う。的確なことは言うくせに緊張しいなところもある娘を何とか励ますために、それから毎日リアがため息をつく度に元気づける言葉をかけた。
☆
リアの心配をよそに、会議は滞りなく終わった。滞りがなかったどころか、リアはその場で聞かれた質問にも的確な答えを返していて、さすが自慢の娘だと誇らしく思った。
テムライム王はよっぽど感銘を受けたのか、俺だけじゃなくてリアまで自国に呼んでくださると言った。自分のテムライム行きはある程度覚悟していたことなんだけど、リアまで連れて行くといったら、アシュリーに怒られてしまいそうだ。
「それじゃあ、また晩さん会でな。」
「はいっ!」
会議の後、王とテムライム行きについて軽く相談をして、リアを迎えに行くためにカルカロフ家の方に向かった。すると向こう側から、リアとアル君が腕を組んで歩いてくる姿が見えた。
「ふふ…っ。」
何とも微笑ましい姿だった。
二人は昔から幼馴染みたいに育ってきて、アル君のことも小さい頃から知っているせいか、二人ともいつまでも子供だと思っていた。でもリオレッド王国の騎士団としてなのか、はたまたリアのことを好いてくれているからかは分からないけど、リアをしっかりと連れてきてくれている姿に、成長を感じてしまった。
「ありがとう。」
リアがアル君のことをどう思っているかは知らないけど、心が許せる人の一人であることは確かだ。賢いからと言っていつも我慢をさせて仕事まで手伝わせている身としては、そういう存在がいてくれるだけでありがたい。
お礼を言われて少し不思議そうな顔をしながらも、「とんでもないです」と丁寧に返してくれた。本当は自分がエスコートしようと思っていたんだけど、邪魔をしてはいけないと思って、アル君にエスコートを任せたまま会場の方へと向かった。
「はぁ。」
「もうちょっとだから。」
晩さん会が始まってからも、リアは緊張しっぱなしみたいだった。ため息をつかせる場所に連れてきたことを申し訳なく思いつつそう言うと、リアは全て察した様子で凛々しい顔を作ってくれた。
「アリア・サンチェス様。」
テムライム王への挨拶が終わってやっとリアの緊張を解いてあげると思ったその時、後ろからリアのことを呼ぶ声がした。
二人で声のした方を振り返ってみると、そこには昔テムライムで会った時より1回りも2回りも大きくなったエバン君が立っていた。
「久しぶりだな、エバン君。団長になったのか。」
エバン君はリアに対して自分を団長だと自己紹介したのに、立派になったことに驚いて思わず言った。すると彼はとても爽やかな笑顔で、やっと任命してもらったんだと教えてくれた。前会った時から身長は大きかったけど、こんなにたくましくはなかった。
5年でここまでも成長するものかと感心しながら話をしていると、エバン君は少し赤い顔で、「ご令嬢ともお話しさせていただきたく」と言った。
なんだ、リアがお目当てか。
そう言えば最初俺じゃなくてリアを呼んだのも、そういう意図があったからか。エバン君の気持ちを察することも出来ず、会話の間を割ってしまった空気が読めない自分を反省した。
「リオレッドに聡明な女性がいらっしゃると、噂は聞いておりました。ですが先ほどの会議では、自分の耳であなたのお言葉を聞いて驚きました。自分より年下には、全く見えません。」
「とんでもございません。」
エバン君はやっぱり照れた顔をしながら、リアと話を続けた。親の俺がいう事でもないが、リアは本当に天使みたいに可愛い。今まで何度だって縁談の話が来ていたし、どこに連れて行ったって周りの人の注目を集めてしまう。
だからエバン君が顔を赤らめるのも無理はないなと思いながら、微笑ましい気持ちで話を聞くことにした。
「あの、よろしければ…。」
するとエバン君はそう言って、床に膝をついて右手をリアの方に差し出した。いい大人の俺がそれにびっくりしていると、エバン君は照れた顔のままリアの瞳をまっすぐ見た。
「よろしければ私と、踊っていただけませんか?」
まっすぐなお誘いに、周りがざわつくのが分かった。俺も内心ドキッとしながらリアの顔をみると、リアは顔を真っ赤にして体をこわばらせていた。
ついに、こういう時がきてしまったか。
今までの縁談は、リア本人の希望で断ってきた。
どうしてもという時は会ってもらうこともあったけど、それでもリアの心は全くなびいていないように見えた。
リアにはいつか、幸せになってもらいたい。
愛する人を見つけて、その人にリアのことを守ってほしい。
エバン君ならその相手として全く不足はないんだけど、なんだかすごく複雑な気持ちになり始めた。
「リア。」
かと言って何もしないのは、あまりに大人げがない。お返事をしなさいとという意味でリアの背中を押すと、リアはハッとした顔をした後、「私で、よろしければ…」とちいさい声で言った。
腕を絡めて歩いていくリアの後姿が、すごく遠くなっていく気がした。背中を押したのは自分のはずなのに、遠くなっていくたび痛いほど胸が締め付けられた。
あんなに小さかったリアは、見た目だけじゃなくて心まで美しい女性へと成長してくれた。そんなリアが、いつまでも自分の近くにいると思っていたら大間違いだ。
だから近くにいるうちはアシュリーに怒られてももっと甘やかしてあげようと、二人の背中を見て心に決めた。
私もパパと同じ視点で見てます。




