第43話 さて、どうしましょう
パパは自分でも分かってないと思うけど、正解をすんなり導き出していた。
そう、一旦レルディアの港を経由することが手間になるなら、船をその街につければいい。
つまり、港を増やせばいいんだ。
自分でも今までどうして気が付かなかったのか不思議だった。
日本に住んでいた時だって、日本各地に港はあったじゃないか。そもそも今までレルディアにしか港がなくて、一度レルディアにものを到着させていたから、輸送に時間やコストがかかって国内各地にとどけられなかったんだ。
――――なーんだ、簡単じゃん。
今度は港、作ろっと。
それは久々に私が見つけた目標だった。
最近毎日つまらない勉強をするのにも少し飽き始めた私は、わくわくすらしている気持ちをおさえながら、パパの地図を眺めてこれからどうしようかという作戦を練った。
☆
結局眠気に襲われるまで真剣に方法を考えたけど、いい案は全く浮かばなかった。
前みたいに大臣にパパが港を作りたいと言いに行けば簡単なんだろうけど、今のパパや国の忙しさを考えたら、すぐに実現しそうにないし、そもそもパパみたいな1企業主がそんなことを言いに行けるのかも不明だった。
一番いいのは私が王様じぃじに会って伝える事なんだけどな~。
子どもの特権を使って、今度はパパではなく王様を動かすのが一番手っ取り早い方法だ。それは分かっているんだけど、もちろん王様になんてそんな簡単に会えるわけではない。
「リア様?どうかされました?」
「あ、ううん!大丈夫!」
ボーっと頭を巡らせていたせいで、メイサの話を一切聞いてなかった。これではメイサを心配させてしまうから気をつけないとなと反省していると、メイサは案の定「休憩にしましょうか」と言って持っていた教科書を閉じた。
「私、お庭に行きたい!」
「しょうがねぇな、行っていいぞ!」
外で息抜きをしたいと思って言うと、アルが嬉しそうな顔をして賛同した。そんなこといいつつ自分が行きたかったんでしょと思ったけど、大人げないセリフは心の中にしまっておいた。
「はははっ!!」
庭に出たとたん、アルは意味もなく走り回ったり虫を追いかけたりしていた。いつも騎士としての訓練をしているとはいえ、彼もまだ11歳の男の子だ。楽しそうに走り回っている姿をみると訓練をしなければいけない家系に生まれたことを少しかわいそうにすら思うけど、彼がそんなに苦に思っていなさそうだから深く考えるのをやめた。
「メイサ、これはなんてお花?」
「それはミリンバというお花です。」
私はというと、季節が移ろう度に変わっていくカルカロフ家の庭の風景を心から楽しんでいた。昔は花なんて全く興味がなかったけど、今こんなに好きだと思えるのは、その他の娯楽がないからだろうか。いや、それとも年齢を重ねたからだろうか。
まだ6歳だけどな。
今日も目に付いた花の名前をメイサに聞きまわって、カルカロフ家にある小さな自然を堪能した。
「ねぇ、メイサ。ここのお花は摘んでいいんだよね?」
「そうですね。許可いただいてます。」
この間たまたま私のそんな姿を目撃したゾルドおじさんは、一部の花を摘む許可を私にくれた。なんでも、奥さんは生前お花が好きな人だったらしい。
その名残で今もカルカロフ家にはこんな立派な庭があるんだけど、男だらけで花を欲しがる人なんていないから、おじさんも嬉しかったんだろう。
「メイサ、これは?」
「それはレイムというお花です。」
メイサは本当に何でも知っている。おじさんが許可をくれたゾーンに咲いていたのは真っ白で可憐な小さな花で、名前をレイムというらしい。
「かわいい。ママみたいなお花。」
「ふふ、そうですね。」
何となくその花の白さとか可憐さをみていると、ママのことを思い出した。
いくつになっても透けるような白い肌をしていて、それに映える金色の髪が美しいママ。
「ママにプレゼントしよっと。」
いつも家で待っていてくれるママにも見てもらおうと花を摘み始めると、メイサはとても優しく笑って「喜ばれます」と言ってくれた。
私たちがそんな穏やかな会話をしている間もアルはアホみたいに走り回っていて、男の子って気楽でいいなと思った。
「なあ、リア!見ろよ!」
花を丁寧に摘み終わると、後ろからやってきたアルに話しかけられた。
名前を呼ばれて反射的に振り返ると、アルは気持ち悪い色をした大きな虫を持っていた。
「きゃああっっ!!!」
キモい、きもすぎてもはやウケる。
前世でも虫が嫌いだった私は、虫を持ったアルから全力で逃げた。すると面白がったアルは、虫を持ったまま私を追いかけてきた。
「おい、リア待てよ~!かっこいいぞ!」
「いやだぁ!やめてっ、気持ち悪いっっ!!!」
その大きな虫は、どことなくカブトムシっぽい見た目をしていた。だからこの世界では男の子に人気があるんだろうけど、私からしたらカブトムシだってゴキブリだって大した差はない。
メイサが「そんなに走ったら危ないです!」と叫んでいたけど、私の本能は「逃げたい」ともっと叫んでいた。必死で逃げたかった私はロクに前も見ることなく、全力で庭を駆け抜けた。
「いたっ!」
しばらくすると、私は何か固いものにぶつかった。
その反動で倒れてしまって私がおでこをおさえながら上をみると、そこには見たこともない装備を身につけた騎士の人と、見るからに偉い人っぽい見た目をしたおじさんが、仁王立ちでこちらを見下げていた。
次話、盛り上がります!