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第35話 密輸の始まり


その後すぐに、私はポルレさんに日本語で手紙を書いた。

漢字を書くのはもう30年ぶりくらいで全然書けなかったけど、ひらがなだらけでも意味が理解できればいいかと妥協して、さっさと手紙を書きあげた。



「いってくる。」

「はい、頑張ってね。」



そして次の日には、王様が大臣を集めて会議をすることになった。エバンさんがそれに参加している間に部下の方々がレイヤさんに改めて"お仕事"の話をしに行ってくれるらしく、少しは反省した私はみんなの報告をジッと家で待つことにした。





「ただいま。」



身構えて待っていたというのに、会議はあっという間に終わったみたいで、数時間でエバンさんは帰ってきた。そして私の顔を見たエバンさんはにっこり笑って、「うまく行ったよ」と言った。



「よかった。」



良かったとは言ったけど、それもそうだろうとも思った。

王様はここに来ていた時からもう絶対に思っている通りに動くって目をしていたし、反対意見が出たところで半分無理やり押し通すんだろうなと思っていた。

後からその反動でオルドリッジあたりがなにか行動を起こしてくるかもしれないけど、まあそれはそれでいい。


なにが起こったって私はいつだって正しいと思うことに全力で動いて、正々堂々と戦うまでだ。



「リア。王様が正式な表明を出されたよ。」

「そう。」



善は急げと言わんばかりに、次の日には王様はマージニア派の支持、そして難民の受け入れを表明された。表明を聞いた国民は動揺していたみたいだったし、少なからず反対の声もあるみたいだ。王様はすごく信頼されているし国民からの支持も厚いけど、もしかしてテムライムという国自体が何かの危険にさらされるのではないかという事を、みんなが恐れているように見えた。



一つの争いはまるで静かな水面に落ちた水滴のように、じわりじわりと波紋を広げていた。最初は国内だけだった波紋は今やテムライムにまで広がっていて、もしかしたら今頃ルミエラスでも同じことが起こっているのかもしれない。



また水面が穏やかになったら、あの時はあれでよかったんだって言えるんだろうか。

それとも日本で戦争を経験した人達みたいに、"あんなことは絶対にもう繰り返さないから"と、強く言えるようになるのだろうか。



「とりあえず、まだリオレッド側から反応はないみたい。」

「そう。」



先が何も見えない不安な状況の中でも、私はとにかく今できることをするしかなかった。しばらくリオレッドから表明に対する反応は得られなかったけど、だったとしても物資の密輸は早々に始めなければいけないと、私達は水面下での準備を着々と進めて行った。



「今日早速、第一便が出るからね。」

「うん。」



そして今日、密輸の第一便が裏ルートから出ることになっている。

ちゃんと受け渡しできるのかこの目で確認しに行きたいくらいだったけど、やっぱり反省をしているらしい私は、信頼して全て任せることに決めた。



「大丈夫かな。ちゃんと、届くかな。」



振り返ればこれまで、たくさんの道を作ってきた気がする。

もちろん私の力だけでは何も出来なかったし、私は偉そうにアドバイスみたいなことをしていただけかもしれないけど、それでもここまでいろんなことが上手く進んできた。


でも今回に限っては違う。なんていうか、重さが全然違う。今回運ぼうとしているのは、多くの人の命に係わるものだから。



「大丈夫だよ。」



任せることにしたはずなのに心配なセリフを口にした私の肩を抱きながら、エバンさんは自信満々に言った。



「リアが作った道が今まで通らなかったことなんて、なかったでしょ?」



そして続けて言った。なぜかエバンさんはすごく得意げな顔をしていた。



「ふふっ。」



いつも通り私は道をつなげればいい。道をつなげるためのアドバイスを、偉そうにしていればいい。



何となくそう言われた気がした。そして私のことを言っているのに、なぜか自分が得意げな顔をしている彼を見ていたら、心が和んでいく感じがした。



「そうね、大丈夫ね。道は通るものだから。」

「うん。」



道は通ってこそ、何かが運ばれてこそ、初めて"道"になる。

私は今までそんな道を作ってきたんだから、今回だってきっと大丈夫。



ちょっと意味の分からない理論だけど、そう思い込むようにした。



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