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第32話 スライディング土下座すべき私

「す、す…っ」

「ははははっ。」



今にも私がスライディング土下座を披露しようとしたその瞬間、王様が大声で笑い始めた。ついに呆れて笑いしか出てこないって意味かと思った私もラルフさんもエバンさんも、体をこわばらせてまるで銅像みたいにその場で固まった。



「すまん。おもしろくて思わず。」



そもそも王様がこんな風に大声を出して笑っているのを見るのは初めてかもしれない。また状況が把握できていないのは私だけじゃないらしく、全員固まったままだった。だるまさんが転んだみたいだった。



「リア。君がリオレッドまで行ったことは把握している。もう隠すことはない。」

「す、すみません…。あの…っ。」



もう観念した私は、だるまさんにころんだで一番に負けた子どものように動き始めて、そして言い訳をした。すると王様は穏やかに笑って、「いや」と言った。



「リオレッドが今どうなっているか、俺も知りたかったんだ。でも情報が得られるところがなくてな…。きっと君が動くと考えたんだ。まさかリアがカワフルに行くとは…。それにまさかリオレッドまで行ってしまうとは、予想もしていなかったがな。」



王様はそう言って、小さく頭を下げた。私は彼のその行動に感動すら覚えて、同時に自分が勝手に動いたことへの罪悪感も深まった感じがした。やっぱりスライディング土下座をした方がいいのでは?と、またバカな考えが浮かんできた。



「勝手に監視を付けた上、リオレッドに行けば君が危険にさらされると分かっていたのに止めることもしなかった。探るような真似をして、こちらもすまなかった。」



余すことなく、私の行動は全て知られているみたいだった。そして私がしでかしたいかれたことを言葉にして伝えられて、やっと恥ずかしくなり始めた自分がいた。



「すみま、せんでした。」



王様の態度を見れば、私がしたことも許してくれていることが分かる。それでも私が悪いことをしたことは事実だし、どんな信念があったってやるべきではないことだ。さすがに土下座はしなかったけど、気休めに頭を下げた。



「見てきたことを、話してくれないか。守りたいんだ。リオレッドを。」



すると王様は頭を下げた私の肩を持って、はっきりと言った。驚いて顔を上げると、彼はとてもとてもまっすぐな目をしていた。



そんな彼の提案を断るなんて、出来るはずがなかった。私が許可を取るべくラルフさんの方を見ると、私の代わりに穏やかな顔をして「もちろんです」と返事をしてくれた。





「以上が、私がリオレッドで見てきたことです。」



それから私は王様にも、見てきたことの全てを報告した。その間中ずっと、彼は眉間にしわを寄せながら話を聞いていた。



「俺は…。」


そして聞き終わった後、絞り出すようにして言った。

その声がとても苦しそうだったから、本当にリオレッドのことを想ってくれていることが伝わってきて、嬉しくなってしまった。



「国として、マージニア様を支持することを表明しようと思っている。」



そして次に出てきた言葉を聞いて、私はまた固まった。

今回のことは絶対にバレないでやらなければいけないと思っていた私にとって、青天の霹靂みたいな言葉だった。



「君たちがやろうとしている食糧支援を、国としても手伝おう。それと一緒に難民を受け入れる体制を整えることも、表明する。」



そして続けて彼は、信じられないことを言った。

驚きすぎて目が今にも飛び出そうになっている私の顔を見て、王様は小さく「ふふ」っと笑った。



「ですが、王様…っ!」



誰がどう見たって、あのクソがトップに立てばどうなるかは想像がつくことだと思う。でも今はあくまでも、反逆者はマージニア様の方だ。その反逆者の支持を表明し難民を受け入れるという事がどんな意味なのか、想像できないくらい頭が悪い人ではないとは分かっていても、ちゃちゃを入れざるを得ない自分がいた。



「これが今、国のために出来る事だと思う。」



それなのに王様は、私の言葉を遮るように言った。

その目がとてもまっすぐで、これ以上口をはさめなくなった。



「未来のために、俺が出来る事はこれなんだと思う。」



続けて言ったそのセリフは、まぎれもなくじぃじの言葉だ。そしていつか私が彼に言った言葉でもあった。


まっすぐ過ぎる彼の言葉を聞いていたら、やっぱり私は土下座すべきな気がしてきた。むしろ土下座くらいで済むならましかもしれないって思うくらいに、その目はまっすぐで曇りのない目だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リアは平和的手段で身内を助けたいんだろうけれどここまで行ったら同盟国としては動かないと。 何せテムライムが同盟を結んだ相手はじぃじであって現王のクソでは無いし、親の遺言すら守る気のない傍若…
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