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第28話 これこれ、やっぱこれですよ


「この方は…。」



少し落ち着いたらしいエバンさんは、レイヤさんの方を見て言った。

私も少し平常心を取り戻して、「えっとね」と言ってレイヤさんの前に立った。



「こちら、レイヤさん。海賊さんだよ。」

「海賊?!?」



「ち~すっ」と言うテンションで、レイヤさんは挨拶をした。

私は驚いているエバンさんを無視して、「こちら騎士王のエバン・ディミトロフです」とレイヤさんに勝手にエバンさんの紹介をした。



「またお仕事の話をしにくるので、その時はお願いしますね。」

「はい!待ってるっす!」



レイヤさんはすごく軽いテンションで言った。

エバンさんが呆れてため息をついていたのは、私がこの期に及んで仕事の話をしているからだろうか。



「クラド。」



するとエバンさんは、今度はクラドさんの名前を呼んだ。



「お前のことはまだ許していない。多分一生許すことも出来ない。」



何を言うんだろうと思ってみていると、エバンさんは厳しい顔で言った。エバンさんに私の口から言ったことはないけど、私がキスされたこと、知ってるんだろうか。



ってか私、この人とキスしたんだった。

忘れてた。私ってまじで…。

自分でも呆れるくらいやばいやつだ。



私がまた余計なことを考えていると、エバンさんは今度はクラドさんにふんわりとした優しい笑顔で笑いかけた。急に笑顔になったことに、私はもちろんクラドさんも少し驚いていた。



「でも、ありがとう。リアを、守ってくれて。」



クラドさんがいなければ、私はカルカロフ家のところまでたどり着くことは出来なかった。私もエバンさんの言葉に合わせて頭を下げると、クラドさんは一言「仕事だから」とだけ言った。




「でも今度リアが一人で来た時には依頼を受けないでほしい。金を積まれても絶対に。」



エバンさんは強い口調に戻ってそう言った。するとクラドさんはその言葉を聞いて、「フッ」と悪い顔をして笑った。



「それは保証できない。」



この人はどこまでも、お金と仕事に忠実な人だ。

それでもきっと少しずつ信頼関係は築かれているはずだと信じて、「お願いしますね」と言った。



「じゃあな。」

「ええ。ありがとう。」



そしてクラドさんは、待っていた仲間のウマに乗って颯爽と去って行った。私は改めてエバンさんの目を、遠慮がちに見つめた。



「ごめんなさい。」

「もういいから。帰るよ。」



呆れた顔で笑ったエバンさんは、本当に呆れていると思う。

とんでもないことをしでかしてしまったんだなと事の重大さをやっと実感し始めながら、エバンさんの手を取って馬に乗った。



「行くよ。」

「うん。」



エバンさんはそう言って、静かにウマを走らせ始めた。手綱を握っている彼の手が、たくましくてかっこよかった。



彼の胸に、コツンと頭を降ろしてみた。

いつもの胸板、いつもの暖かさ。そしてエバンさんの、匂い。



「これだ。」

「え?」



これがないと私は、全く安心できない。

愛おしくなってエバンさんの腕をギュっと握ると、彼は手綱から片手を離して、私の頭にポンと手を置いた。



「もう絶対に許さないって思ったのに、もう僕はリアを許してる気がする。」



エバンさんは困ったように笑って言った。

私も同じように笑って「エバンさん」と彼を呼んだ。



「ほんとに、ごめんね。私ひどいことした。」



改めて思う。私は彼に本当にひどいことをしてしまった。

もう一度謝りたくなって言うと、エバンさんは「ふふ」と声に出して笑った。



「そうだよ、本当に。」



本当に本当に、その通りだ。

どんな償いをしても返しきれない。こうやって許してもらえている事が、奇跡だ。心の底から反省していると、エバンさんは続けて「でも」と言った。



「よかった。」



生きて帰ってこれて、と言う意味だろうか。

確かにもう一生帰れない危険性もあったわけだから、それは本当に良かったと思う。そう考えてエバンさんを見上げると、彼は本当に安心した顔で笑っていた。



「リアがどこにも行かないでくれて、よかった。」



私はリオレッドに行って帰ってきたのに、エバンさんは言った。

多分彼の"よかった"は私がおかしくならなくて"よかった"って意味なんだって、そこで分かった。


テムライムから飛び出した時からじゃなくて、リオレッドで内戦が起こるかもと知ったあの時から、エバンさんにとったら私はどこか遠くに行ってしまってたんだと思う。


自分が思っているより長く《《出かけて》》しまったこと、やっぱり反省しなおさなければって思った。



「子どもたちは?寂しがってる?」



そして子どもたちにも、すごく申し訳ないことをした。

早く会って抱きしめて謝りたいって思って聞くと、エバンさんは「そうだね」と言った。


「毎日ママはまだ?って聞いてる。」

「母親失格だよね、本当に。」



誰がなんといおうと、本当に母親失格だと思う。

私が母親失格じゃなかった時なんて一度もなかったかもしれないけど、私は自分が親であることも忘れて、自分がしたいように動いてしまった。


嫌いと言われてしまっても、しょうがないくらいだ。



「でも、カイは楽しみにしてたよ。」



エバンさんはまた私の頭に手を置きなおして言った。

エバンさんの暖かい手を感じて、改めて「これだ」って思った。



「ママの羽が見られるかもって。」

「そっか。」



カイには今日は、私の羽を見てもらえるだろうか。

みえなくても見えてもどちらでもいいけど、とりあえず帰ったら思いっきりハグしてごめんを言おう。


私はこれから自分がやるべきことも全部忘れて、ワクワクしながらまだ見えない家に思いをはせた。

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