第21話 社長を任命します!
そのあとパパとイーサンおじさんはしばらく、ノールの街へ出張に行った。ノールだけじゃなくて遠い街にもトマトを売り込みに行って、そのほとんどの場所で、高い値段でも受け入れられたらしい。
「ただいま。」
「おかえり。どうだった?」
「ああ、見つかったよ。働き手が。」
そして高い値段で受け入れてもらえるという事が分かってから、パパは配達先の遠さに応じて円をあげる給料形態を作ったみたい。そうするとどんどん応募者が現れたらしくて、パパは嬉しそうにママにそう報告した。
「全部リアのおかげだ。」
「ふふ、大げさじゃないですか?」
「そんなことないんだよ、アシュリー。いつもこの子がヒントをくれるんだ。」
お察しがいいですね、パパ。その通りです。
ママは仕事のことに一切かかわらないから分からないだろうけど、パパの言う通りなんだよ?
私は得意げな顔をして、パパに抱き着いた。
「パパ、これからは…。」
「さあ、これからもっと忙しくなりそうだ。」
え…?
これからはもっと一緒に居られるねと言おうとした私に、パパは嬉しそうに言った。パパはどう考えても、すべてを自分でやるつもりでいるみたいだった。もちろんこれからだってイーサンおじさんの手はかりるんだろうけど、でも自分も関わるつもりなんだろうってことが分かる言い方だった。
そもそも私がこんなこと始めたのは、パパと一緒に居たかったからなのに。
元も子もないことが起こりそうで焦った私は、いきなり大声で「いやだ!!」と叫んだ。
「リア、どうしたの。」
両手でこぶしを作って震えながらそういう私を心配そうに見て、ママは言った。パパはしゃがんで私に目線を合わせて、「リア」と優しく名前を呼んでくれた。
「いやだよ…!パパ!リアもっとパパといたい!」
「わがまま言わないの。」
ママもしゃがんで私に目線を合わせて、困った顔をしてそう言った。
ママ、困らせてごめんね。でも不思議だけど、もう感情が止まらない。
例え精神年齢がおばさんでも、知らないうちに私はしっかり4歳に、そしてゴードンの娘になってしまっていたのかもしれない。大人として人を困らせてはいけないと思いう気持ちはしっかりと持っていたけど、それでもわがままを言う口を止められなかった。
「なんでもっと忙しいの?リア、パパのお手伝いしたのに!もっと帰ってきてほしいのに…っ!」
感情が高ぶった私は、ついに泣きながら言った。パパはすごく悲しそうな顔をして、私をギュっと抱き締めた。
「ごめんよ、リア。でもしょうがないんだ。リアのおかげでパパのお仕事がとてもうまくいって、だから忙しくなったんだよ。」
「イヤだもん…っ。もっと一緒にいるんだもんっ、また街にも一緒に…っ。」
いつだってパパは何でもかんでも自分だけでやろうとしてしまう。
きっと仕事が好きなんだろうし、今色々なことがうまく行って楽しいからやりたいって思ってる気持ちだって分からなくもないけど、私のそもそもの目的は"忙しいパパを家に帰らせる"ことだ。
だからパパが楽しんでいるってことを知っていたって、私もここで引き下がるわけにはいかなかった。
「リア、ごめん。出来るだけ帰ってくるから…。」
「出来るだけなんて絶対いや!!!!!」
"出来るだけ"って言葉に全く意味がない事を、私は知っている。これは確実に帰ってこない人のセリフだ。私はついにそう言いながら、泣きわめいた。
「イーサンおじさんがやったらいいじゃん!」
「イーサンも精一杯…。」
「パパの代わりに、円をあげるひとになったらいいじゃん!!!」
「リア、それは…。」
「なるほど。」
ママが私の言葉を止めようとしたとき、パパは納得した顔で言った。ママはぽかんとした顔でパパをみていたけど、私はすっかり泣き止んで、パパの胸の中でニヤリと笑顔を作った。
「イーサンに、運び屋を任せよう。」
パパがグループ会社の社長を、任命した瞬間だった。
私はパパの大きな胸の中でニヤケながら、自分だけに聞こえている文明開化の心地いい音を聞き続けていた。




