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第81話 グレッグさんの反撃



「私からも一つ、よろしいでしょうか。」



意見が完全にまとまっているというのに、グレッグさんは相変わらずの胡散臭い笑顔で言った。本当は全然聞きたくなかった。でも私に聞きたくないという権利はないし、それに自分だって発言したんだから、相手の話も聞かなければフェアではない。



――――聞いてやろうじゃないの。



謎の決意をこめて、彼の胡散臭い顔を見つめた。



「アリア様の案は、確かに素晴らしいです。説得力もあり、理にかなっている。さすがとしか言いようがありません。」




うっぜ。

褒められているはずなのに、全く褒められている感じがしなかった。でもその発言を聞いてみんながこちらを向いたから、一応「ありがとうございます」と言って、私も胡散臭い笑顔を向けておいた。




「ですが…、いくら素晴らしい案でも、相手に拒否される可能性だってありますよね?」



悔しいけど、その通りだ。

誰がどう聞いても相手にとっても悪い話でない事は確かだけど、なんせ相手はあのクソみたいな王様だ。意味の分からない理由を付けられて拒否される可能性だって、充分にあり得る。



最も今回は絶対そんな風にさせないと、私は心に決めているけど。




「拒否された場合は、致し方ありません。武力行使するしかないのではないでしょうか?」



拒否された場合のことは、本当は考えたくなかった。でも確実に、決めておかなければいけないことでもあった。


そしてこの人の言う通り、話し合いで解決できないのであれば武力を行使するというのも、選択肢として全くおかしいものではない。



「グレッグ様のいう通りです。いつまでも穏便な方法を模索していれば、なめられてしまいかねません。」



すると"過激派"と言われる派閥の大臣が、それに続くようにして言った。



「そうだな…。その通りだ。」



すると王様も、どれに同意してうなずいた。

王様の口からそんな言葉が出てくると思っていなかった私は、驚いて勢いよく彼の方を見た。



「もし拒否をされた場合、武力行使についても考えることにしよう。」



確かに選択肢の一つだと、私だって思っている。

でも絶対にとってはいけない選択肢だと、王様だって分かってくださっているはずだ。そう思っていた私は、後頭部を何か鈍器みたいなもので殴られたような感覚になった。



「だが。」



でもそんな私の気持ちを知ってか知らずか、王様は言葉を続けた。

彼は今までで見たこともないほどに、勇ましくてたくましい顔をしていた。



「それは最後の最後の手だ。拒否をされた場合も、武力行使を選択肢の一つに、他にいい案がないかまた考えることにしよう。」



さっきまでショックで目の前にモヤがかかっているような感覚になっていたはずなのに、一気に視界がクリアになった気がした。なんだか気持ちがコロコロと変化し過ぎて、この場で倒れてしまいそうになるくらい疲れている自分がいた。



「それは、甘すぎるのではないですか?」

「確かに、甘いな。」



でもグレッグさんも、ここで引き下がるわけにはいかないらしく、王様の言葉に食らいついた。するとやっぱり王は、一度はグレッグさんの言葉を受け入れた。



「グレッグ。武力を行使してリオレッドに攻め入るとなると、円はどのくらい必要になる?」



そして続けて、グレッグさんに質問をした。

それがとても予想外の質問だったのか、グレッグさんは珍しく口ごもったまま何も言わなくなった。



「騎士の給料や食糧、武器の調達…。その他にもいろいろと円が必要になるよな。」

「ええ。」



王様の言う通りだ。

そもそも戦争をするってのは、お金もなくなり人も亡くなってしまう、誰得?な選択肢なんだ。



「リア。そうなると、円はどこに行くんだろう。」



話を振られるなんて全く思っていなかった私は、一瞬ドキッとした。でもここが今日一番ともいえる見せ場だって分かった私は、王様のように勇ましい顔を作ってみせた。



「そうですね…。リオレッドやテムライムに武器を多く売るルミエラスに、流れていくと思います。」



戦争はしている国にとっては、お金を使う出来事だ。

でもそれはつまり食料や武器を売る側の国から見ればお金を使われるという事であり、リオレッドとテムライムテムらが戦争するとなると、ルミエラスが儲かるというのは、誰がどう考えても明白なことだと思う。



「その資金を基に、ルミエラスが何か行動を起こしてもおかしくない。たとえリオレッドとの戦争に勝ったとしても、ただでさえ円を失って弱っているところをルミエラスにせめられたとしたら、元も子もない話だろう。」



はい、全く同意。一言一句同意します。

口には出せなかったけど、その代わりに王様の目をしっかりと見つめて、私の意志を示した。



「確かに意思の疎通が出来ないのであれば武力を行使するというのは、一つの案としてあっておかしくない。でも人が死に、その上国も貧乏になっていく方法なんて、全く意味がないと思わないか。」



もう録音して何度も聞きたいくらい、素晴らしい一言だった。

ぐうの音も出なくなったグレッグさんは、とても小さい声で「はい」と返事をした。



「もし同意が得られなかった時、また考えよう。でもそうならないようにするのが、今回の俺の仕事でもある。」



王様はとても穏やかに、でもはっきりと言った。そんな彼の言葉を遮る人は、誰一人いなかった。



「みんなが優秀なおかげで、王になってから今まで俺は"王"という席にただ座っているだけだった。ずっとそれが歯がゆかったんだ。」



そんなことはないと思う。

今まで何度だって、私は王様に助けられてきた。でもきっとこの人は、私が思っているよりも何倍も自信がなくて、すごく臆病な人なんだと思う。



「だから今回は王としての仕事を果たしてこよう。ただ俺は、本当に頼りない王だ。もしどうしようもなくなった時は、グレッグの力も借りることになるかもしれん。その時はよろしく頼むぞ。」



でもそう断言する彼は、とても"王様"らしかった。

今までだって信頼していたし素晴らしい方だって思っていたけど、その一言でもっと彼のことが好きになった。



そして今回の私の仕事は、彼が王様らしくいるためにサポートすることだ。まだ少し時間のあるリオレッドとの交渉に向けて、私ももう一回気持ちを作り直そうと心に決めた。


好きです、王様

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