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第79話 算数は前世でも苦手でしたけど、、、


「お言葉ですが…。」


すると今度はロッタさんが、静寂を破って発言をした。

あまりにも恐る恐る言葉を発するもんだから、自然と穏やかな口調で「はい」と返事をした。



「リオレッド王がすんなり買うというか…。」

「きっと、言わないと思います。」



自分で技術を売ると言い出したくせに、私はロッタさんの心配に即答でそう言った。

ただこちらから"売りたい"と言えば、リオレッドが損をするなんて言い始めてもおかしくない。アイツはそういう男なんだ。



「ですのでその技術をリオレッドに売った後は、リオレッドから作った糸を買うという約束をしましょう。そしてその買った糸で今度は布を作り、それをリオレッドに売ります。そしてそれが実際ドレスになったら、またリオレッドからドレスを購入します。」



こっちから売るだけじゃなく、出来たものを買う契約を同時に結ぶことで、自分の利益だけを考えているあのクソ王のことも納得させやすいのではないかと思う。するとロッタさんも納得したように、「なるほど」と言ってくれた。



「例えば、そうですね…。最初はリオレッドに、50万円で技術を売りましょう。」

「ご、ごじゅうまん…?!?」

「ええ。」



50万円とはすなわち、1億円くらいの値段だ。

あまり聞き覚えのない値段だからびっくりした大臣が大きく反応したけど、今のリオレッドの経済状態を考えればもっと高値で売ってもいいくらいだと思う。



「リオレッドに売る技術は、"糸を作る技術"だけに限定します。そしてリオレッド産の糸が出来上がったら、最低でも30万円分の糸を買う約束をするんです。」



技術さえ売ってしまえば、コガネムシの絶対数の多いリオレッドの方がきっと糸がたくさん作れる。テムライムでは不足している資材を仕入れる約束を、技術を売ると同時にすることでこちらとしてもドレスをもっと作れるようになる。それはただ王様を納得させるためだけのものじゃない、"お互いのため"の契約と言える。



「そしてその糸で作った布は、今度は50万円分を買う約束をしてもらいます。その時点で、リオレッドからすると70万円分多くテムライムにお金を払っていることになりますよね。」



きっと算数が苦手なんだろう数名の大臣たちは、しばらく考えている格好をしていた。私だって数字はそんなに得意な分野ではない。でもこんな計算くらい頭の中で出来ないこの国の教育ってどうなっているんだと、壮大なことを考えている自分がいた。



「リオレッドはもともと、縫製技術の優れた国です。そこで最終的にこのドレスを、逆にリオレッドから70万円分輸入しましょう。」



つまりテムライムが売るのが、"糸を作る技術"とその糸で作られた"布"の合計100万円。そしてリオレッドが売るのが、"糸"と"ドレス"の合計100万円。つまり契約上の最低購入金額は、そこで同等になる計算だ。



「技術を売るだけの交渉では、多く支払うことに対してためらわれるかもしれませんが、最終的にお互い同じ金額を払うことになるならば、承認を得やすいと思うんです。」

「なるほど…。」



話が通じない相手にも、数字を使って説得をすることで話を聞いてもらいやすいのではないかと考えて、この案にたどり着いた。もしかすると賢い人が考えたら、もっといい案が浮かんだのかもしれない。でもただの"元貿易事務OL"の私には、この案を考えるのが精いっぱいだった。



「それではテムライムの状況がよくならないのでは…。」



すると今度は銀行を管轄している大臣のエストさんが言った。そもそも貿易赤字が増えているから、今の状況が引き起こされている。つまりプラスマイナスゼロになってしまえば、テムライムのそこまで大きく変わらないってのは、その通りだ。

だから私はその言葉にもにっこり笑って「その通りです」と答えた。



「ここからが今回の交渉の、本当のポイントになります。」



ここからが今日の本題ともいえる。私はそこで初めて少し緊張して、背筋を伸ばした。するとその空気を感じ取ったのか、エバンさんが椅子の下で手をギュっと握ってくれた。



私は一度だけエバンさんの方を見て、大きく一つうなずいた。そしてさっきまでと同じように、まっすぐ前を見て、大きく息を吸って次の言葉を発する準備をした。

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