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第76話 "鹿間菜月"の顔


「リア、お待たせ。」



その後も雑談を楽しく雑談をしていると、エバンさんが玄関からひょっこり頭を覗かせた。私はそれを合図に椅子から立ち上がって、「じゃあ」とポルレさんに言った。



「本日は本当にありがとうございました。」

「ほほほっ。いいんですよ~~。僕も楽しかったです~~。」



エバンさんが来たことですっかりポルレさんモードに切り替わった彼は、癖のある笑い方としゃべり方で言った。私もエバンさんも「はい」と大きくうなずいて、玄関の方へと向かった。



「あの…。」



扉を出る前に、私は振り返ってポルレさんの方を見た。するとすっかり田中さんの片りんを見せなくなった彼は、「はぁい」と気の抜けた返事をした。



「また、来ます。」



今日初めて会った人だけど、きっと今後も彼に話をしたくなる時が来るんじゃないかって思った。改めて言う事でもないかと思ったけど、伝えておきたかった。するとポルレさんはにっこり笑って、「お待ちしてます」と言ってくれた。






「聞いてたんでしょ?」



しばらくして、黙ってウマを走らせているエバンさんに言った。すると彼は少し驚いた顔をした後、「バレてた?」と言った。



「ふふ、もちろん。」



ウマが落ち着かないから歩かせるなんて、そんな話聞いたことがない。きっと会話が聞こえていたエバンさんが気を遣ってくれたんだってことくらい、容易に想像がついた。



「じゃあ、おじい様のことも…?」

「うん。」



勝手に人のことをバラしてはいけないかなと思って、あえておじい様も転生者だってことは言ってなかった。でもエバンさんは私の質問に素直にうなずいた後、「薄々気が付いてたけどね」と付け足した。



「どうだった?ポルレさんとのお話は。」

「楽しかった。」



続けて聞いたエバンさんの言葉に、私は素直に返事をした。するとエバンさんは「そっか」と少し楽しそうな声で言った。



「リアが見たことのない顔をしてて、僕は複雑だった。」



さっきまで楽しそうな声をしていたエバンさんが急にそう言いだしたのを聞いて、私は思わず振り返った。するとエバンさんは言葉通りに、複雑そうな顔をしていた。



「もしかしてあれが、"ナッチャン"の顔なのかな?」

「ふふっ。」



正直自分の中で、鹿間菜月の顔とアリアの顔を使い分けたことはない。でももしかしてどこかで区別はしていたのかもしれないと、エバンさんの言葉を聞いて思った。



「大丈夫よ。私はエバンさんのことが大好きだし。」



多分そういうことではないと思うんだけど、なんとなく言っておきたくなった。するとエバンさんは複雑な顔をしたまま、頭をかいた。



「困ったな。やっぱりリアにはかなわない。」

「でしょ。」



その言葉を聞いて満足した私は、もう一度前を向き返した。

いつの間にか森を抜けて、辺りには広々とした草原が広がっていた。吹き抜ける風がすごく心地よくて、かすかに大好きな海の香りもした。



「そういえば。」



清々しい気持ちで大自然を肌で感じていると、エバンさんが唐突に言った。

何かあったのかと思って少し振り返って彼の方をみると、彼は少し困った顔をしていた。



「そう言えば僕、ずっと聞きたいことがあったんだ。」

「なに?」



そんな改まって聞きたい事ってなんだろう。

思ったまま素直に聞くと、エバンさんは今度はずっと遠くの方を見て、「いや」と言った。



「やっぱやめとこう。」

「なに?気になるじゃない。」



聞きたいことがあるなんて言ったのに、そんなところでやめられたら気になる。

それなのにエバンさんは珍しく少しいたずらそうな顔をして、首を横に振った。



「秘密。また聞きたくなったら言うから。」

「なにそれ~?いじわるっ!」

「今回ばかりはリアに負けられないな。」



何度しつこく聞いても、エバンさんは頑なにその質問を口にしようとしなかった。もちろん内容は気になったけど、そこまでモヤモヤしなかったのは、気持ちがほっこりしていたおかげだろうか。



「さ、帰ろ。」

「も~話そらさないでよ~っ!」

「今日のご飯はなんだろうね?」



付き合いたてのカップルみたいにじゃれ合っている私たちを、誰かが見ている気がした。今までは不思議な視線を感じた時じぃじかもって思っていたけど、もしかしたら今私たちを見ているのは、ポルレさんの愛する"虫たち"なのかもしれないと、訳が分からないことを考えた。


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