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第39話 一人の夜


「行ってらっしゃい。」

「頑張って来るね。」



そしてその日の夜。エバンさんは団員を連れてカワフル地方へ行くことになった。大丈夫と言われてもやっぱりすごく心配で、私は思わずエバンさんに抱き着いた。



「リア。大丈夫だから。」



力いっぱい抱きしめる私の背中を、エバンさんは優しく撫でた。それだけで気持ちが少し落ち着く感じがして、体を離して彼の目をしっかりとみた後、大きくうなずいた。



「パパ!頑張ってね!」

「悪いヤツ、やっつけてきて!」

「わかった。」



私よりよっぽどたくましい二人は、元気にそう言った。これ以上私が不安に思っていると子どもたちまで不安が移ってしまうと思って、出来るだけ堂々と見送ることにした。



「すぐ帰るね!」



そしてエバンさんはそう言って、颯爽とカワフルへと向かっていった。ついさっきまで出来るだけ堂々と見送ろうと思っていたはずなのに、やっぱり不安が消えなくて、エバンさんが見えなくなるまでそこに立ち尽くしていた。



「さ、寝ようか。」

「戦いごっこする~!」

「僕、本が読みたい!」



今日は無事を祈ってみんなで一緒に寝よう。

そう思っていたはずだったけど、全く別のことを言う二人の言葉を聞いて、私も私で別の意味での戦いになりそうだと思った。





「やっと寝た…。」



顔には出さなかったけど、子どもたちもパパが夜に出かけたことを不安に思っていたんだろうか。いつもより全然寝てくれなくて、予想通りやっぱり私も戦いになった。



「リア様、ゆっくりお休みください。」

「ごめんね、ティーナも。」




最後まで寝かしつけを手伝ってくれたティーナは、夜遅いという事もあって今日は家に泊まってもらうことになっている。私の戦いに強制的に参戦させてしまったことが申し訳なくて謝ると、ティーナはにっこり笑って「いえ」と言ってくれた。



「リア様。」



部屋を出て行こうとしたティーナが、唐突に振り返って私を呼んだ。何事かと思って首を傾げると、ティーナはなぜか少し楽しそうに笑っていた。



「一緒に、寝ましょうか?」



そしていたずらそうに笑いながらそう言った。なんだかルミエラスで逃亡したあの夜のことを思い出して、私も思わず笑ってしまった。



「ダメだよ。一緒に寝ると、脱走しかねないから。」

「ふふ。そうでしたね。」



きっとティーナは、私が不安に思っているのを察して言ってくれたんだろう。考えないようにしようとしても不安が尽きそうにはなかったけど、こんな夜に笑わせてくれる友人がいてくれるだけでも、とてもありがたいと思った。



「ありがとう。」

「いえ。」



素直に感謝を伝えると、ティーナはにっこりと笑った。そして今度は扉の方にまっすぐ向かって、「失礼します」と言って部屋を去って行った。




「ふぅ。」



子どもたちを寝かせるだけで体力を使ったはずなのに、目はすごく冴えていた。今頃エバンさんは、カワフル地方の近くでキャンプでもしている頃だろうか。



キャンプって、どんな感じなんだろう。前世でも行ってみたいとは思っていたけど、実際それを行動に移すことはなかった。



「キャンプファイヤーとかして、火でマシュマロ焼くのかな…。」



キャンプと言っても仕事をしに行っているわけだから、楽しい宴会が行われているわけがない事は分かっている。それもでやっぱり不安な気持ちが途切れない私の思考回路は、また意味の分からない方向で迷宮入りしていた。




「はぁ…。」



それにあの日以来、エバンさんは私にピッタリくっついて寝てくれていた。

今日だって子どもたちが私と一緒に寝てくれるんだけど、寝ている間にまた何かあるんじゃないかって、心の奥底にいる自分が叫んでいる気がした。



「トラウマ、ってやつかな。」




これがトラウマというやつなのだろうか。

あの時のことを思い出せばとても怖いし、あんなことは二度と起こってほしくないとも思う。でももうエバンさんやみんなが守ってくれるから大丈夫だって、思っているはずだ。



それでもきっと一度植え付けられた恐怖という種は、私のどこかにしっかりと根を張っている。そしてその種がこれ以上育たないように、恐る恐るその部分に触れないようにしているのかもしれない。



「ダッサ。」



こんな風にナヨナヨしている自分は、全然好きになれない。

弱気なことを考えていても何も始まらないと、自分に喝を入れる意味でも両頬を自分の両手で叩いた。



「よし。」



謎の気合を入れて、子どもたちが寝ているベッドに入った。自分のスペースがないくらいみんな自由に寝ていたけど、今日は狭いところで誰かのぬくもりを感じながら寝られることが、とてもありがたく感じられた。

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