第11話 パッパ、後はよろしく頼むからね
「パパァ~~~~!!!!」
私はポチもママも大人たちも置いて、声の主の方に走り出した。大人たちがみんなで外に出ていることにパパは一瞬不安そうな顔をしたけど、両手を広げて走ってくる私をひょいっと抱き上げて「ただいま」と言ってくれた。
「ね、パパ!私、新しい友達が出来たの!見て!」
私はまた出来るだけ無邪気に言って、ポチたちの方を指さした。するとパパは一瞬固まって、「友達…?」と言った。
「そうだよ!見てて!」
私はパパの手から降りて、ポチママの方に向かった。そしてまた背中に乗せてもらったあと、「あっちにいける?」と指をさしながらポチママに言った。
ポチママは言ったとおりに、パパの元に向かってくれた。パパは終始驚いた顔をしていたけど、他の大人たちみたいに、「危ない」と叫んだりはしなかった。
「ねぇ、パパ?」
「ど、どうしたの?」
明らかにパパは動揺していたけど、それを娘に察せられるわけにはいかないらしく、出来る限りの笑顔を作って言った。それが間抜けで少し面白かったけど、吹きだしてしまうのをおさえて「あのね!」と言った。
「あのね、ウマはね、怖い動物じゃないんだよ!メイサが絵本で怖い動物だって教えてくれたけど、違ったの!」
「そ、そうか…。」
パパは厳しい顔をしてポチママを見た。ポチママはまるでその人が私のパパだって分かってるみたいに、頭を下げてその光景を見つめていた。
「それにね、背中に乗るとね、すごく速く走れるの!風になれるんだよ!」
私は一旦ポチママから降りて、今度は顔の前に立った。そして顔をギュっと抱きしめて「パパも乗せてくれる?」と聞いた。
ポチママは「わかった」って言ったみたいに、パパの横に立った。そして私にしたみたいに、上手に顔でパパを背中に乗せた。
「うわっ!!」
そしてそのまま、ポチママはあたりを走り出した。パパは最初は驚いた声をだしたけど、次第に風を切る感覚が楽しくなったみたいで、いい顔になって背中に乗っていた。
「ね?ね?すごいでしょ?」
「すごいな、リア!」
ポチママの背中を降りて、パパは私に高い高いをした。それを見た大人たちがやっとウマが怖い動物じゃないって認め始めてくれているような気がして、私は心の中でガッツポーズを作った。
「パパね、いつも歩いて街まで行って、疲れてるのに大変でしょ?私ね、お友達だから、お願いしてあげる!」
私はそう言って、またポチママの顔の前に立った。そしてしっかりと目を合わせて、「今度はパパを街まで連れていってほしいの」とお願いした。
ポチママは返事の代わりに遠吠えをして、私の顔をペロッと舐めた。「くすぐったいっていってるじゃん」と笑っても、それをやめてくれなかった。
「もしかしたら…。」
そんな光景を見て、パパはポツリとつぶやいた。私は3歳児らしくウマたちとじゃれ合いながら、パパが何を言うかに耳をすませた。
「もしかしたら、暮らしが変わるかもしれないぞ。」
はい、パッパ。ナイス気付きです!
パパはここら辺でも大きな会社をしている社長だから、少しは力を持っている人物であることには違いない。そんなパパがウマは獰猛じゃないと言ってくれれば、きっとみんな受け入れてくれるようになる。
「でもゴードン、本当に…。」
「大丈夫かは、しばらく俺が試す。」
不安そうな声をあげる近所のおじさんに、パパはそう言った。頼もしい人がパパで良かったな~と、生まれて初めてそう思った。
「もしかしたらウマは、俺たちの暮らしを変えてくれるかもしれない。明日王都の大臣を連れてきて、それを説明してみる。」
「やった~!じゃあ、お友達のままでいいの?」
3歳児の声で無邪気に言うと、パパは私をギュっと抱きしめて「もちろん」と言った。本当にきっと、暮らしが変えられるよと、心の中で宣言をしておいた。
「あなた…。」
「アシュリー。アリアは本当にすごい子だ。世界を変える発見をしたかもしれない。」
パパは私を高い高いした後、ぐるぐると回した。それが楽しくてキャッキャと笑いながら、ここまでは私がしたんだから後は頼むよと、心の中でパパに伝えておいた。