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貿易事務OLが流通の整っていない異世界に転生したので、経験生かして頑張ります!  作者: きど みい
第四章 トラブルに対応する制度を整える
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第17話 あれ、寂しい…


「おはようございます。」

「おはよう。」



久しぶりに一人で寝る夜は寂しいのかと思っていたけど、なんだか疲れていたらしくてベッドに入るや否やすぐに寝てしまった。

今日からしばらくエバンさんのいない日々を過ごすわけだけど、いつも日中は仕事でいないわけだから、私の怠惰な生活スタイルにそこまで大きな変化はなかった。



「さあ、今日も本を読むぞ。」

「はい。かしこまりました。」



謎の意気込みを言う私に、ティーナはしっかりと返事を返してくれた。私はその意気込み通り今日も書斎に向かって、片っ端から手を付けて本を読み進めて行った。






そんな生活を続けて1週間がたったころ、リオレッドから通関制度の了承が得られたという報告が入った。どうやって話が進んだかはよくわからないけど、第一段階は突破したみたいだってことに、ひとまず安心した。



「ってことは…。」



今承認が得られたってことは、今からルミエラスに行ってそこから交渉して帰ってくるわけだから、下手したら1か月エバンさんは帰らないなと思った。エバンさんが帰って来るまで、退屈しのぎに自分が読んだ本の数でも数えておこうと一人で計画をして、本をどんどん読み進めた。



「はあ…。」



毎日本を読んでいるせいか、最近目がすごく疲れているし、そのせいか分からないけど頭が痛い気がする。そして目が疲れると同時に眠気にも襲われて、満腹になるとすぐに眠くなってしまう。子どもか。



「お疲れのようですが、大丈夫ですか?」

「お昼寝しよっかな。」

「はい、そうしてください。」



怠惰だ。怠惰すぎる。

何もしてない上に昼寝なんて怠惰にもほどがある。でもやっぱり眠気に勝てなくなった私は、そこからすぐに眠りに入ってしまった。



「うわ、もうこんな時間…。」



目を覚ますと辺りは真っ暗だった。

それに家の中もすごく静かなところを見ると、もう時間は深夜になっているなという事が分かった。



「やばい、寝すぎた。」



たくさん寝たおかげで、眠気も頭痛も目の疲れも随分マシになっていた。その代わり変な時間に目覚めたせいで寝れそうになくて、「はあ」と大げさにため息をつきながら小さく丸まってみた。



「エバンさんの、におい。」



するとエバンさんの枕から、ふわっと彼の香りがした。私はエバンさんの枕を自分の方に引き寄せて、ギュッと抱きしめた。



「さみ、しいな…。」



毎日本が読めて楽しい。でも目が疲れるくらい本に集中しているのは、寂しさを紛らわすためだってこと、自分でも何となくわかっていた。


レイラさんはすごく優しい。それにディミトロフ家の使用人方たちも、私やティーナに本当によくしてくれる。だから嫌なことは何もない、不安に思う事も何もない。



それでもやっぱり、慣れない国に一人残されるのは本当に寂しい。

仕事だからしょうがないし自分でも気が付かないふりをしていたけど、やっぱりどこか不安で孤独だ。



「なんかこれ…。」



この感情はこの世界に来た時に感じていたものに、すごく良く似ていた。

愛してくれる人がいて心は満たされているはずなのに、なぜだか勝手に一人な気がしていた、あの時に。




「早く…。」



早く会いたい。会って抱きしめてほしい。

エバンさんの存在を少しでも感じるために枕を抱きしめたのに、抱きしめているうちに寂しい気持ちがもっと膨れ上がっていく気がした。これ以上気持ちを沈ませないために、今度は枕を手放して大の字になって天井を眺めてみた。



「天井…ね。」



前の世界のことを思い出しながら天井を見ていると、あの頃好きだった"天井交換"という歌のタイトルが頭に浮かんだ。こういう悲しい時は歌を歌うのが一番だと思った私は、声に出して歌ってみることにした。




「あ、れ…?」



どんな内容の歌だったかは覚えている。

それなのにどれだけ歌いだそうとしても、メロディが全く浮かばなかった。あっちの世界にいた頃は何百回も聞いて、何百回だってカラオケで歌ったはずなのに、知らないうちに全く思い出せなくなっていた。



「そりゃ20年もたてば…。」



20年もたてば、忘れてしまうこともあるか。

最初はなれなかったアリアという名前も、今や菜月よりもしっくりくるようになった。そのくらいどっぷりこの世界につかったんだから、歌くらい思い出せなくても…。



「当然、なんだけどさ…。」



知らないうちに大切なものを失ってしまったような気持ちになった。そのせいでさっきまで感じていた孤独がどんどん増していく感じがして、まるでこの世界に一人っきりになったような感覚がした。



「もうっ。」



悲しんでいたってエバンさんが帰るわけではない。それにエバンさん以外の人たちも、私をすごく大切にしてくれている。



何度も何度も自分にそう言い聞かせたけど、その夜はそのまま一睡もできないうちに、空がどんどん明るくなっていった。

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