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貿易事務OLが流通の整っていない異世界に転生したので、経験生かして頑張ります!  作者: きど みい
第三章 貿易の基礎を作っていきます!
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第79話 いくつになっても人生日々勉強だね


「うむ。アリアの好きにしろ。わしはお前が毎日会いに来てくれればそれでいい。へへへへ。」



次の日早速、私は王に進言をしに行った。王は相変わらずデレデレな様子で話をロクに聞かないまま、すべてにOKを出してくれた。



扱いやすい。この国が全て私の思い通りになる。無双モードだ。



王がキモすぎることとブスがいつも睨んでくることを除けば、本当にルミエラスはいいところだった。1週間を過ぎたころから私もだいぶルミエラスにも慣れてきて、すっかりいつものペースを取り戻していた。



「あら、アリアさん。ごきげんよう。」

「ごきげんよう、デライラ様。」



デライラ様は第二王妃様で、第一王妃のパドマ様に負けず劣らずのぶちゃいくだ。



「今日も王様のお部屋にお呼ばれしたのかしら。いい御身分ね。」

「とんでもございません。お姉さま方に比べれば私なんて…。」



はい。この通り、性格も終わっています。多分デジャブみたいな出来事が起きるから先に言っておくけど、第三王妃のテルツァ様も以下同文です。



「調子に乗らないでね。あんたなんてすぐ飽きられる運命よ。」



王はすごく飽き性らしいから、デライラ様は最近お部屋に呼んでもらえないらしい。アイツとイチャイチャしたいとかみんな正気の沙汰かよ?といつも思うけど、きっと"王様に呼ばれる"っていう事自体、一つのステータスなんだろう。最近入ってきて今一番のお気に入りの私は、もう毎日恒例と言わんばかりにこうやって嫌味を言われ続けている。



本当に、ここは大奥に等しい。大奥に入ったことがないから分からんがな。



いよいよ結婚の儀式的なものが行われる日が、来週にせまってきた。儀式までは夜這いしないって謎のルールのおかげで、私は部屋に行ってもただ触られるだけだった。だからまだあのキモい男とキスすらしていないんだけど、来週が来たらもう多分毎晩相手をしなくてはいけなくなるんだろう。




「はぁ…。」



希望になりたいなんて大きなことは言ってみたけど、その日が近づくにつれて憂鬱な気持ちがどんどん深まっていった。憂鬱な気持ちが育っていくにつれて食欲はどんどんなくなっていって、この2週間くらいで自分でもわかるほどげっそり痩せてしまった。



「リア様、何かお食べにならないと…。」

「食べてる、食べてるんだけどさ…。…はぁ。」



全く食べていないわけじゃないけど、あまり食べられないせいで力も出ない。それでも何かしていないと気が滅入ってしまいそうで、王様に呼ばれていないときは何かを考えるか本を読むか、仕事をすることにしている。



「それならせめて、もう少し休んでください。働きすぎです。」



ヒヨルドさんとはあれから何度か話し合いを続けて、早々に階級外の人たちがコンテナの試作品を作る事になった。それだけでも一旦気持ちが満足していたせいで、余計に気が抜けてしまっていた。



「少し、寝ようかな。」

「はい。おやすみなさい。」



今日はあのブス第一王妃と夜のお約束をしているらしく、夕方には王の部屋から返してもらえた。キモ。

それなのにまるで深夜まで起きていたみたいに瞼が重かった。前世にいるときはなかなか痩せられなくて苦労したはずなのに、痩せたら痩せたで体力がなくなるのかと初めて実感しながら、すぐに眠りの世界へと落ちていった。





「うっわ…。」



次に目を覚ましたら、すでに夜だった。このまま朝まで寝られたらいいのに、一度目覚めてしまったせいで目が冴えてしまって、すぐには寝られそうになかった。




「これ…。」



ベッドから体を起こしてみると、クローゼットの横に身に覚えのないドレスが置いてあった。それはどう見ても脱がせやすい形になっていて、いつ使うものかなんてすぐにわかってしまった。



「はぁ…。」



普通、初めての夜って、もっとドキドキするもんだよね。



前の時は確かそうだったなと、遠い昔の話を思い出した。


私はあのキモ男と、ちゃんと出来るだろうか。

っていうかどうやってやるのかも、もう忘れちゃった。

この世界でも同じようにするのかな。

想像するだけでキモいな、どうしよ。


なんでもいいや、もう。

どうせグダグダ考えたって、その日はやってくる。

それが自分の選んだ道だし、

その時さえ我慢すればきっとすぐに飽きてくれる。


その間は…、そうだな。

今度はアイスの映像でも頭に浮かべてみようか。

いや、でもパンケーキで無理だったんだから、

もっと何か思い出すだけで心が軽くなるようなもの、探さなきゃ。



窓からのぞいている月は、不気味なほど真っ赤に燃えていた。

同じ赤なはずなのに、エバンさんの目の赤とは反対で、見ているだけで気持ちがソワソワしてしまうような赤に見えた。




「あの日…。」



リオレッドで見た月は穏やかな青をしていた。

もしかしてみる人の気持ちで、月の色も違って見えるものなのだろうか。



「一生、キレイな月は見れないかもな。」



だとしたらもう、私の目に入ってくる月はこの不気味な赤だ。

長年生きてきたけど、そんなことしらなかった。気持ちによって見える景色が変わるなんて、初めて知った。



人生勉強の連続だ、何年生きたって学ぶことはたくさんある。

って私、いくつになったんだろう。



「もう、分からないや。」



儀式を終えたら、私はアリア・サンチェスではなく、ただの"アリア"になる。サンチェスって苗字は結構気に入っていた。


前の人生の鹿間菜月だって、すごくいい名前だった。みんなからシカちゃんって呼ばれるの、結構好きだったな。

ある日突然名前が変わって最初は受け入れられなかったけど、19年かけて私はちゃんと"アリア・サンチェス"になっていたはずなのに。



「私が私で、なくなっちゃうみたい。」



まるで自分が自分でなくなるような、そんな感覚すらした。

覚悟を決めたつもりだったのに全然納得できていない自分がいることを、ここにきてやっと自覚した。



「情けない。」



情けない女だ。夢だったプリンセスになるんだから、しっかりしないと。それにこんな情けない女じゃ、ティーナにだって見捨てられちゃうかも。



知らないうちに流れていた涙をぬぐって、これ以上悲しくならないために月から目をそらした。すると城壁の外の方で小さく、何かが動くのが見えた。



「ウマか?もしかしてウマなのか?」




茂みでウマを見つけた時みたいにワクワクした感情で、何の動物がいるのか目を凝らしてみた。するとその影はぴょんぴょんと飛び跳ねてはじめた。飛び跳ねるってことは、ウサギみたいな動物かなと思った。でもみれば見るほどそれは、人間の動きに見えた。





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