第59話 もしかしてこれって大発見かも…?!
とはいえヒヨルドさんたちとの会議までには、数日空きがあった。会議を早めてもよかったんだけど、ウィルさんがヒヨルドさんに観光をする許可を取ってくれたから、次の日から私たちはようやく、街に出て色々と見学をさせてもらうことにした。
「それでは本日は仕事というより観光のような気持ちで、息抜きしながら参りましょう。」
「はい、そうですね。」
ウィルさんが言った通り、私たちは終始和やかな雰囲気で観光をした。ウィルさんは10年も住んでいたってものあってルミエラスの街のことをよく知っていて、私たちはまるでツアーを楽しむみたいに、ウィルさんの話を真剣に聞いた。
「あら、ウィルじゃない。帰ったの?」
「お久しぶりです、マギーさん。今日は仕事で来たんです。」
ルミエラスは発展している国だとはいえ、まだ海外から人が入ってくることはめったにない。だから歩いているだけで私たちは注目の的だったし、明らかに近寄りがたいという目で見られた。でもその中でもウィルさんだけは、ルミエラスの人にたくさん話しかけられていた。
きっと受け入れられるまでは時間がかかっただろうけど、ウィルさんは少しずつ、この街の人たちとの関係性を築いてきたんだろうな。
こうやってここで仕事が出来るのもウィルさんの努力が大きいんだろうなと、視線を感じながらそう思った。
「ここがダンデムだよ、リア。」
「うわぁ…。」
しばらく歩くと、この国の銀行機関であるダンデムにたどり着いた。
建物はリオレッドやテムライムと同じレンガ造りだけど、やっぱり見た目からして頑丈な感じがして、改めてルミエラスの技術力の高さを感じた。
「中に入ってみたい?」
外からジロジロと建物を見ている私に、ウィルさんは微笑みながら聞いた。
そう言われたら見ないわけにはいかないと思ってうなずくと、ウィルさんはにっこり笑って「ちょっと待ってて」と言って銀行へ入って行った。
「いいって。おいで。」
しばらくして建物から出てきたウィルさんは、私に手招きをして言った。さすがに大人数で入るわけにはいかないとみんなには外で待っていてもらって、私だけ中に入れてもらうことにした。
「すごい…。」
一歩足を中に踏み入れると、そこはまさに私の知っている"銀行"のような景色が広がっていた。
いくつか立ち並んでいるカウンターには数名のスタッフが座っていて、待合の椅子にはセレブそうな人たちが座っていた。さすがにまだATMみたいなシステムはないみたいだけど、カウンターの奥では何人かの人が忙しそうに動いているのも見えた。
「リオレッドのバンクは、リアが作ったんでしょ?」
「私が作ったなんて…。それは大げさな表現です。」
「王様はそうおっしゃられてたけど?」
ウィルさんはにっこり笑いながらそう言った。
確かにアイディアを出したのは私だけど、形を作ったのは私ではない。それなのに作ったなんて言われていると思ったらなんだか気恥ずかしい気がして、「本当に違うんだけど…」とうつむきながら答えた。
「いつかリオレッドのバンクも、ここくらい発展させられたらいいね。」
ウィルさんはいつも通りの優しい声で、うつむく私にそう言った。私はその声に反応してやっと顔をあげて、「うんっ!」と元気に返事をした。
するとその時、ウィルさんの向こう側で忙しそうに動いている人の姿が目に入った。前の世界でも銀行員さんは忙しそうだったけど、この世界の人も忙しいのなと思って何気なく見ていると、ふとその人の持っているものが気になった。
「あれって…。」
その人が持っていたのは、何か固そうなケースみたいなものだった。それはまるで前世でいう、アタッシュケースみたいなもので、鞄みたいな形をしているけど、どう見ても布では出来ていなさそうだった。
「あれはね、円を運ぶときに使うんだよ。強度が強くて外を運ぶときに雨風にさらされても平気らしいんだ。」
「へぇ…。」
いわゆる保護ケースみたいなものかと思った。
用途としてもアタッシュケースと同じように使われているんだろうな。
それにしても本当にルミエラスはすごい。
まだリオレッドではバンクで円を運ぶときは、確か袋みたいなものに入れて運んでいた気がするし、物を運ぶときだって木製の…
「物を、運ぶ…。」
「ん?」
さっきウィルさん、確か雨風にさらされても平気って…。
「ねぇ、ウィルさん?」
「ん?」
「あれって軽い?」
ウィルさんは急に私が静かになったのが不思議なのか、少しキョトンとした顔をしていた。でもしばらくすると「そうだね」と、私の質問に答え始めてくれた。
「すごく軽いかと言われればうなずけはしないけど、重くはないと思う。」
「木と比べるとどう?」
「木の方がずっと重いと思うよ。」
「これだ」と、私の中にある考えが浮かんだ。
もしかして大発見をしたかもしれないって気が付いた私は、ニヤケが止められなくなり始めた。
「ねぇ、ウィルさん。」
ニヤケ顔のまま、私はウィルさんを見上げた。
するとよっぽど不気味な顔をしていたのかウィルさんは若干引きながら、「な、なに?」と言った。
「あとで、ご相談があります。」
「は、はい…。」
久しぶりに来た、これは文明が開化する音だ。
昔はもっと無邪気に喜んでいたはずの私は、ニヤケ顔のままアタッシュケースを見つめていた。ウィルさんは相変わらず不審な顔をして私を見ていたけど、そんなことは気にならないくらい、大きな発見かもしれないことにワクワクしている自分がいることを、私は隠し切れなかった。