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無能な俺が名探偵に!?  作者: 蒼守
消えたサンタクロース事件編
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39話 今井舞視点Ⅱー①

今井舞視点

「種は全て撒き終えた。後は柿木と今井の二人次第だよ。という事であとよろしく!」


 そう言って店長のトナカイに案内されて店内の奥の方へ向かう広谷センパイ。


 えぇ、ここで私達に丸投げしちゃうんですか……?


 広谷センパイは名探偵であり、頼れる上司であり、そして憧れの人でもある。しかし、そんなセンパイにも欠点はある。行動と言動が自由すぎる点と、秘密主義な点、あと人を試さずにはいられない点もそうだろう。


 今だって、捜査の真っ最中だというのにその全てを私と柿木先輩に放り投げて、自分は将棋を指しに行ってしまった。自由人過ぎますよ、センパイ……。


 センパイは高校の時からそうだったが、自身の能力ならすぐに解決できる問題でも、こうして周囲の人間に解決を任せる癖がある。


 柿木先輩が言うには、自身の天才性をあまり公にしないためと、自身の把握している私達のデータが現実の能力とどれほど乖離しているか調査する目的でこのような真似をしているらしい。


 うぅ、大事な依頼の最中に私達の成長具合を確かめるのはやめてください……。


 勿論、センパイは無責任にただ人任せにするわけではない。問題解決に必要な情報を引き出し、言葉で、そして行動で周囲に何気なくヒントを呈示する。そうして最大限手助けをした上で人任せにするのだ。


 今こうして私達に全てを託したという事は、そのヒントの提示も完了し、私達なら何とか答えに辿り着けると判断したからに違いない。


 しかしセンパイ程の優秀な頭脳を持っていない私には、考えても考えても二条ふみさんの居場所なんて想像つかない。


 チラリと私の何倍も優秀な柿木先輩の様子を伺うも、突然センパイに置いて行かれ困惑している。この様子では未だ謎は解き明かせてはいないようだ。


「どうします、柿木先輩?」


 しかしこうしてセンパイに依頼を丸投げされるのはよくある事。


 今日は偽の情報を持ってきてセンパイ達には迷惑しか掛けていないので、ここでなんとか依頼解決に貢献したいところだ。


「所長が私達に後を任せたという事は、現時点の情報で依頼を解決できるということです。ならば、私達はこれまで集めた情報、所長の言動、そして行動を振り返り、そこから推理して答えに辿り着かなければいけません」





「まずこの依頼を受けた時点で判明していた情報から振り返りましょう。探している人物は二条ふみさん。過去に田鳴市にある田鳴女子高に通っていました。当時は将棋部に入っており、大会で出会った依頼人の久慈井さんとは、何度もプライベートで将棋を指したほどの仲の良さ。そして生粋の居飛車党で相掛かりを好んで指していたそうです」


 カバンから取り出したメモ帳を見ながら、一つ一つの情報を改めて確認し直す柿木先輩。


 うーん、これじゃあほとんど何も分からないと思うんだけど……。


 ていうか居飛車党だとか相掛かりが好きだとか、その情報必要? 私は将棋に詳しくないので専門用語を言われてもよく分からないが、間違いなく二条ふみさんを探すヒントにならない事は理解できる。


「最初にこの情報が出た段階での所長の言葉は『いや分かる訳ないよね?』でした。これをそのまま受け取ると、この時点ではまだ二条ふみさんに辿り着けないということになりますが……」


「センパイの言う事っスからねー。いつも絶対に事件の真相が分かってる癖に、聞いても分からないって誤魔化しますし。センパイの分からないほど信用できない言葉は無いっス」


「ですよね……。私も所長のこの言葉はちょっと嘘くさいなと思っていました」


 満場一致で、センパイの分からないというセリフは信用できないと結論付ける私達。恐らく、ここに事務所の他のメンバーがいたとしてもその結果は全く変わらなかっただろう。


「次に、所長は舞ちゃんを電話で呼び出しました。呼び出した理由は恐らく、舞ちゃんのお母さんが田鳴女子高のOGで、二条かなえさんという方と同級生だったから」


 二条という苗字は非常に珍しいから、きっと二条かなえさんは二条ふみさんと血縁関係にあると推測した私達は、そこからは二条かなえさんを追う事となった。


「でもそれかなり信用性が薄くないっスか? 結局パン屋に二条かなえさんは勤めていなかったそうですし……」


 パン屋は潰れてるし、二条かなえさんはそこで働いていなかったしでもう散々だった。


 もっとお母さんにちゃんと話を聞いておくべきだったとなぁ、と今更ながらに反省。あと、パン屋がまだやってるかくらいは事前に調べておくべきだった。こちらは完全に私のミス。


「いえ、舞ちゃんのお母さんの証言については私は信用すべきだと思います」


「え? でも実際に嘘もあったし、情報として信頼度は低いんじゃ……?」


「本来ならば、そうです。しかし所長はこう言っていました。『今井、別にお母さんは嘘は言ってないと思うぞ?』、『今井のお母さんはちゃんと真実を俺達に教えてくれたよ? 感謝しないとね?』と」


 確かにあの時センパイはそんな事を言っていた。


 でもあれは落ち込んでいた私を慰めるためじゃ――?


「恐らくこの言葉が今回の所長からの最大のヒントでしょう。誰がどう見ても信用できない二条かなえさんのこの情報をわざわざ二度に渡って、嘘ではない、これは真実だと私達に伝えてくれました」


 流石は長年広谷センパイの相棒をやっている柿木先輩だ。私はその言葉を普通に流してしまっていたが、なるほどそう言われるとその言葉は私達に向けたヒントである可能性が高いように思える。


「でも、コンビニの店長は二条かなえさんなんて店員は居なかったと言ってたっスよ? これはどう説明するんです?」


 こればかりは実際に居なかったという証言があるのだから、私のお母さんの話には嘘が紛れていたという事実に他ならない。センパイはどうしてそれを知って、嘘は言っていないなんて言葉を――?


「それはもう少しコンビニの店長の言葉を正確に思い出せば、自ずと答えは見えてきます。『あのパン屋に二条なんていう苗字の店員は存在しなかった』、これがコンビニの店長が言った言葉です」


 うーん……? ――――あっ!


「二条なんていう"苗字"の店員は存在しなかった――?」


「そうです、店長は二条かなえという個人が店に居なかったなんて言っていません。二条という苗字の人物が居なかったと言っているだけです」


 私のお母さんは嘘は言っておらず、真実を伝えたというセンパイの言葉も併せて考えるとつまり――


「苗字が変わっていた?」


「その通り。舞ちゃんのお母さんはこうも言っていました。『昔、二条かなえさんの結婚式に出てきり、連絡を取り合っていない』と。つまり、二条かなえさんは結婚して苗字が変わっていた。だからかなえさんはパン屋で働いていたのに、二条なんていう苗字の店員は存在しなかったという一見矛盾した証言が生まれたのです」


「うわぁー、そういうことだったんスね!」

 

 恐らく、お母さんは二条かなえさんがあそこのパン屋で働いているという情報を、二条さんが結婚した後に人づてに聞いたのだろう。だから結婚後連絡を取り合っていなかった二条さんの勤め先を、お母さんが知っていた。うん、これならば話の筋が通る。

 

 ごめんなさい、お母さん。今の今まで嘘情報教えやがってぇーって思ってました。まさか私の推理力と理解力が足りていなかっただけだったとは……。


「でもだったらコンビニの店長には、かなえさんという店員は居なかったかって聞いておくべきだったっスねぇ。せめて結婚後の苗字も分かっていたらもうちょっと捜査が楽になったはずなのに」 


「そうですね。でも、所長もその場にいたのに、所長はそれを敢えて聞かなかった。つまりその情報はいらない……もしくは既に必要が無くなっていたと考えられるんですよね……」


 流石にこれ以上は柿木先輩にもまだ分かっていないらしく、うーんと小さく唸りながら悩みだす。


 私も一生懸命考えないと! 他にセンパイは何と言っていたか?


 そう言えばここに来る道すがら、センパイはこの将棋道場に向かう重要性を熱く語っていたな。『少し気になることがある』とか『俺達は将棋道場に向かうべきだよ、絶対』とか『将棋道場に行くことが何よりの近道だ』とも言っていた。


 こうして振り返ってみると、センパイの言葉からはまるでこの将棋道場という場所に私達の求めている何かがあると言っているように聞こえてしまう。


 一体ここに何があるって言うんだろう?


 ヒントを求めて店内をぐるぐると見回してみるも、それらしいものは当然見付からない。


 あ、広谷センパイが投了した。


 ――いやいや、今はセンパイのことを見ている場合ではない。ちゃんと推理をしないと…………あれはッ!?


 店内の壁に所狭しと並べられた書道の作品たち。中にはプロ棋士の署名のあるものまであって、それだけでとても価値のある作品たちだと理解できる。


 そんな作品の中に……私から見て広谷センパイの直線上の壁に、その作品はあった。


 『楽しむことこそ上達への一番の近道』


 そう書かれた作品は数多くある書道の作品の中で最も目立つ位置に飾られていた。そこまで上手い字では無いが、大きくそして迫力のある字だ。


 この作品を見ながら、先程のセンパイの言葉を思い起こす。『将棋道場に行くことが何よりの近道だ』。


 何よりの近道ということは一番の近道ということでもある。……もしかしたらセンパイはこの書道の作品を私達に気付かせたかったのでは?


 この作品にはきっと何かがある! そう思った私はこの書道の作品になにか重要なヒントが隠されているのではないかと、血眼になってそのなにかを探す。



 ――――あぁ、そういうことだったんですね、センパイ。



 ようやく見つけた。この捜査を終わらせる最大の鍵を。


 『楽しむことこそ上達への一番の近道』そう書かれた作品の左端に小さく書かれている作者名を見ると――――――


 ――そこには『八段 二条龍五郎』と記されていた。

次回も今井視点になります。

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