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無能な俺が名探偵に!?  作者: 蒼守
木崎ちゃんのパンツ誘拐事件編
18/73

18話 犯人視点①

犯人視点

 俺は今、ロープに掴まってマンションのとある部屋に向かっている。掴まっているロープは特別製で、先端の機械の部分を固定してしまえば、後はロープに掴まっているだけでその機械部分まで引っ張りあげてくれるという優れモノ。何でも昨日の真夜中に、静穏性に優れたドローンを使って、これを対象のベランダに設置してきたらしい。ありがたいことだ。


 十二月の十七時ともなれば、日は落ちて辺りは真っ暗になる。さらに俺は今、全身黒のライダースーツを着用しているため、よっぽど注視しない限り俺の姿が認識されることは無いだろう。


 そもそも何で俺がこんなスパイ映画の様な真似をしているのか。それは俺の所属している組織が先月、とある仕事を引き受けたからだ。


 うちの組織は、人生のレールからはみ出しちまった連中の集まりみたいなもので、前科持ちやヤクザ崩れなどが沢山いるゴミの掃きだめみたいな集団だ。勿論俺もその組織の一員だからこれまで悪い事は色々やってきた。


 そんなうちの組織の人間は、いつもは自殺者の出た部屋の片付けだったり、身寄りの無い死者の遺骨の処分だったりと、人がやりたがらないような仕事をして生活している。だが、そういったまともな仕事だけでは食ってはいけず、時には非合法な仕事もうちの組織は請け負う。今回はその非合法な仕事だった。


 俺のような下っ端には詳しい情報が与えられないのであまり細かい事は良く分からないが、依頼人は外国人だった。

 何でもその依頼人はあるパソコンに、ハッキングする為のバックドアを仕掛けたいらしい。

 その為に、ターゲットのパソコンに依頼人の持ってきたウイルス入りのUSBを一分間指し込んで帰って来る、というのが今回の俺の仕事の最終目標。


 だが、その肝心のパソコンはマンションの二十六階にあるらしく、組織で一番身軽で潜入に向いているからという理由で、今俺はこうやって苦労する羽目になっている。


 依頼人は今もうちの幹部連中と一緒に俺の仕事を遠くから監視しているらしいが、どこから監視されているのか……こういった仕事の経験が長い俺を以ってしても分からない。

 耳に装着した通信機から先程、潜入予定の部屋の女が買い物に出掛けていて部屋は今無人だという報告を受けたので、このマンションを監視しているのは間違いないのだが。


 そんな事を考えていたらふと、昨日たまたま会った同期の出世頭との会話を思い出した――。

 


~~~~~~



「お前明日あの仕事の実行役だろ? 気を付けろよ、俺もドローン越しに見たが二十六階てのはすげえ高さだ。ちょっと気を抜いたらすぐに冷静さを保てなくなっちまうぞ」


 先週の一週間、俺達の組織は犯行を実行する前の事前の情報収集として何名かがターゲットのマンション付近に派遣されていた。その部隊を率いていたのが目の前のこの男だ。


 一週間前の段階で、既に組織はターゲットのマンションの部屋の間取りや家族構成、友人関係、職業等あらゆる情報を把握しており、後は侵入経路、目当てのパソコンの場所、住人の行動パターンを調査して計画を実行するという所まで来ていた。


「だが、なんでドローンなんて使ったんだ? 犯行前に怪しまれる行為は慎むべきだろ?」


 普段なら情報収集の段階でこのようなリスクのある行為は決してしないはず。それにドローンなんてうちの組織に使える奴がいたのか?


「それが……ターゲットの部屋なんだが、高層マンションの高い階層の部屋だってのに、朝と夜は完全にカーテンを閉めきっていてな。昼は洗濯物が常にあるせいで、何日経っても部屋の中を確認できないしで、まるで情報が取れなかったんだよ。

 それでうちのお偉いさんの一人が痺れを切らして、洗濯物をどかしちまえって言ってな。それを聞いた依頼人が、それなら部下にドローンのエキスパートがいるからそいつらを貸してやるってんで、とんとん拍子に話が進んで選挙運動で騒がしくなる土曜日にとうとうドローンを使って洗濯物を盗んじまったんだよ」


「へえ、そりゃ時代の最先端をいくような犯行だな。俺なんてドローンを触ったこともねえぞ」


 ドローンは確かに昔よりは安くなって一般庶民にも手が届く価格帯になってきたが、問題の飛ばす場所が無い。許可も無く勝手にそこら変で飛ばしてたら下手すりゃ逮捕されちまう。


「俺だってそうだ。依頼人の部下達が操作しているのを後ろから見ていたが、すげえ指の動きしてたぞ。あんなの俺らには絶対無理だ。

 それにパソコンにドローンからの映像が映し出されてたんだが、二体のドローンが機体に付いているフックをそれぞれ物干し竿の両端に引っ掛けて、一緒に持ち上げたんだ。そしてその角度を平行に保ったまま、うちの用意したクリーニング屋の車に綺麗に積み込みやがった。ありゃあ神業だ。ドローンの操縦だけで食っていけるぞあいつらは。何でこんな犯罪に係わってるんだか……」


 うちの組織は登記上では清掃業となっていて、幅広い業務を行うお掃除屋さんみたいなものだ。その表向きの業務の一つにクリーニング屋もあるから、その社用車を今回は使ったのだろう。なんでも、こういった裏の仕事にも使えるように車の『○○クリーニング』といった塗装部分を架空の会社のものにして誤魔化しているらしい。だから今回の仕事に使った車を目撃されたとしても、そこからうちの組織が露呈することは無いはず。


「世の中にはすげー奴がいたもんだな。それにしても依頼人はそんなすげえ奴らを部下にしているなんて一体何者なんだ?」


「さぁな、ただ、あまり詮索しない方がいいぞ? 今回の仕事はかなりの金が動いているらしく、幹部連中も総勢でこの仕事に注力しているって話だからな。俺達の先週の仕事もずっと監視されていたらしい」


「監視!? そんなこと今まで無かっただろ! ……そんなにヤバい仕事なのかよ、緊張してきた」


「まぁ、幸い、洗濯物をどかすという強引な手段ではあるが、ターゲットのマンションの部屋をその日の夕方までじっくりと観察できた。目的のパソコンの場所も凡そであるが当たりは付いている」


「それは良い知らせだが、こんなデカい仕事、もし失敗したら俺殺されるんじゃないだろうな?」


「…………」


「なんか言ってくれよ! やっぱお前もそう思ってんだろ? あぁ、吐きそうだ。どうして組織で一番身軽だからとかいうふざけた理由で、俺がこの仕事の実行役に選ばれちまうんだよ」


「それについてはもう諦めろ。マンションのセキュリティが厳重すぎて正面からの突破は不可能。だからターゲットの部屋へ潜入出来るのはベランダからのルートのみ。だが、そのベランダも二十六階。お前のような身軽な人間にしかこの仕事は出来ない。

 それに一週間監察して気が付いたが、あそこのベランダはいつもカギがかかっていない。まぁ、二十六階もの高さだ。ベランダから誰かが入って来るなんて想像もしてないのだろう。だからこそ、そこを突けばきっとこの仕事は上手くいく」


「そ、そうなのか? 一応窓ガラスを静かに開けられるように、色々と器具も持っていくつもりだが、それならなんとかなりそうだな」


「そうだそうだ、その調子だ。それに、計画の邪魔になりそうな人間には既に監視を付けているが皆全く動きが無い。一番の警戒対象である、ここら一番の名探偵さんも事務所に引き篭もってずっとテレビで将棋を見てやがる。今日マンション付近で聞き込み調査をしていた探偵も、のほほんとしてて事件の重大性にまるで気付いた様子は無かったし、俺たちの計画は間違いなくまだ誰にも気付かれていない」


 探偵を監視? そんなことまでしていたのか。だが、未だ計画が露見しておらず、組織からのサポートもいつも以上に万全。ここまでお膳立てされているのなら明日の成功は約束されたようなものだろう。


「ま、そういうことだから、お前はいつも通りやれば問題ない。んじゃ頑張れよ。成功したらまた今度飲みに行こうぜ」


 そう言ってあいつは俺の背中をバンッと叩いて、そのまま車に乗ってどこかへ行ってしまった。



~~~~~~



 大丈夫、大丈夫だ。マンションの部屋は今は無人。パソコンの場所も分かっている。奴の話によるとベランダのカギも空いている。きっと上手くやれるさ。そうやって俺が必死に自己暗示を掛けて自信を付けようとしていると、通信機から連絡が入った。


『こちら本部。そちらはまもなく二十六階に到着する。対象の部屋には現在住人はおらず、ベランダの鍵も開いているものと思われる。仕事をするにこれ以上ない環境だ。だが油断するなよ。正確に慎重に事を進めろ。以後問題が無い限り通信は行わない。それでは健闘を祈る』


 一方的に語りかけられて通信を切られてしまった。まぁ、こっちから言うことなんて特にないから良いんだけどよ。


 幸運な事に、同期のあいつの話通りどうやらベランダの鍵は閉まっていないらしい。これならかなりの短時間で仕事を終えられそうだ。

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