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ボロアパートには夕暮れとちゃぶ台が似合う

作者: 牛尾 仁成

「さて、どうして君がここにいるのかな?」


「それはこっちのセリフだ! 何で世界崩壊を企むお前たちの本拠地がこんなボロアパートなのよ!」


 捜査官の女の言葉に男は不機嫌そうに顔をしかめた。


「何を言う。ボロアパートとは聞き捨てならない。トイレ、風呂、冷房設備付きで月々たったの5万4千円だぞ。しかも駅チカ」


 男はそう言って、ちゃぶ台の上にあったお茶をすすった。


「トイレと風呂は共同で、しかもトイレは和式じゃない。冷房設備って言っても壊れかけの扇風機よね、これ?」


 そう言って女はクルクルと三枚羽根が危なげに回る、どう見てもくたびれた扇風機であった。


「味があっていいだろう?」

「いや、普通に熱中症で死ぬわよ」


 そう言って女は頭を振った。


 全てここで終わらせてやる、と女は抱いた決心しその身を奮い起こして懐の拳銃を取り出す。銃口は男に向けられている。


 カチリと撃鉄を起こす音がする。


 ボロアパートの四畳半に真っ赤な西日が差し込んできた。


「私を殺すか?」

「……ええ、責任を取ってもらう」

「責任?」


 男が不敵に笑った。


「何がおかしい! この世界を滅茶苦茶にした責任だッ! 到底足りないがその命で償えッ!」


 女が怒鳴るのも無理はない。


 既に世界は崩壊していた。


 いや、消失していると表現すべきだろう。何せこの広い惑星の中で建物と呼べるものはこのボロアパート一件だけなのだ。


 それ以外の建物は全て消し飛んだ。


 文字通り、世界は真っ平になった。この唯一の人工物を除いて。


 どういう方法を使って、どんな理由があってそんなことをしたのかなんて女には最早どうでもよかった。


「そんなに怒るとは驚きだな。君はこの惑星の住人でも何でもないだろう? 何だってこの惑星の行く末を気に掛ける」


 男は拳銃を向けられながらも、余裕のある態度だった。


「生き物としておかしいだろう⁉ どうして、自分が生きる世界を滅ぼそうとするんだ? 他者を憎むのは解る。他人を害そうとする気持ちも解る。だが、世界ごと他者を滅ぼして何になる? お前自身も死ぬというのに」


 女の詰問に男は愉快そうに笑った。


「見解の相違だな、捜査官。私は彼ら彼女らを憎んでいた訳ではないし、私が人間を滅ぼしたのでもない」


 そして、男はこの世のものとは思えない程優し気な顔と口調で言った。


「彼ら彼女らは、他ならぬ自分たちの意思でこの結末を引き起こしたのさ」


 男と女を照らす西日が部屋の砂壁に長いシルエットを刻んでいた。


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