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第93話 国賓来訪

 この日、神都の市中は騒がしかった。

 正門から宮廷へと真っ直ぐ伸びる南大通り。

 道幅は広く、サーゲイ便や馬車が行き交う神都の中でも屈指の賑わいを見せる通りだ。


 そこでは様々なものが行き交うのだが、今日1番目を引いたのは、馬上に乗った見目麗しい女性の姿だった。


 淡い桃色に、テネグにしか生えていないブロームという花の絵柄が描かれた衣を纏い、薄い黄緑色の生地に細かい幾何学的な紋様が描かれた帯を巻いている。


 残念ながらその顔は笠から下がった(うすぎぬ)のせいで見えないが、かろうじて見える口元は薄く、手綱を握る手は楚々として綺麗だった。

 心なしか馬が興奮しているところを見ると、きっと美人なのであろう。


 その周りを固めるのは、異国の武具を纏う衛士たちだ。

 少人数であれど、徐々に集まり始めた野次馬に目を光らせている。

 掲げられた旗には、ムスタリフ王国の国章が掲げられていた。


 市中の“(ぴん)”たちは遠巻きに見るだけだ。


「なんだろ、こんな時に?」

「輿入れか?」

「もしかして、他国から嫁を」

「宮廷の人らは純血にこだわるんじゃ……」


 口々に予想する。


 だが、彼らが輿入れと思うのも無理はない。

 その行列の後ろでは、人よりも多くの荷物が荷車に引かれていたからだ。

 すべて布に覆われ、中身を確認することもできない。


 嫁入り道具といわれても、少々荷物が多すぎるように思えた。


 行列はそのまま宮廷に入る。

 入る前に門番にチェックを受け、女性の護衛として2名の衛士が選ばれ、残りは宮廷の外で待機することになった。


 迷路のような宮廷を歩き回ること、20分。

 ようやく女性は“(おおきみ)”がいる正殿の前にやってくる。

 そこには見事な白砂が広がっており、流れる川のような紋様が描かれていた。


 そこにはすでに人が集まっている。

 どうやら女性を待っていたらしい。

 騒がしく、女性に対して好奇な視線を送っていた。


 馬に乗ったまま笠紐を解く。

 現れたのは、豊かな金髪だ。

 アップにしたことによって、白いうなじが見えている。

 美男美女が多いエルフの肥えた目をもってしても、目が釘付けになるほどの魅力を持っていて、一瞬騒がしかった場内がしんと静まり返るほどだった。


 馬上から下り、その挑戦的な視線の先にあったのは、正殿前に置かれた御簾だ。

 程なくして、人の気配が現れる。

 女性は膝を突き、頭を垂れた。


「遠路はるばるようこそお越しになられた、エイリナ姫」


 御簾の向こうに立った人間が、まず声をかける。

 顔こそ見えないが、そこに立つ限りカリビア神王国“(おおきみ)”であろう。


 そして、向かい立つはエイリナ姫だ。

 同じ王族といえど、他国の王族を己と同等と見る国は、地層世界エドマンジュでは少ない。

 故に礼節を持って、応対しなければ失礼に当たる。

 エイリナ姫が他国の正装を持って現れたのは、そのためでもあった。


 郷に入れば郷に従う、というヤツだ。


「ご無沙汰しております、“(おおきみ)”。ご機嫌麗しゅう」


「ああ……。すこぶる良い。もう少し近うへ」


 エイリナ姫は仰せに従う。


 御簾の向こうから吐息が漏れた。


「美しい……。母上に似てきましたな。王妃様の若い頃に似ている」


「ありがとうございます。母もお喜びになるでしょう」


「して――。余に謁見とは?」


「まず謁見の栄誉を賜り感謝申し上げます。私がここへ来たのは、この層で起こした事件についてです」


「報告は聞いている。……兵武省の“小臣(ことど)”を叱責したとか。だが、あなたに非はないと、余は感じている。あなたはここでは“大臣(おとど)”として振る舞うことができる。たかが(ヽヽヽ)小臣(ことど)”の声に、気に病む必要はない」


 実は謁見の席には、シュバイセルも同席していた。

 上司であるラバラケルの後ろに隠れながら、シュバイセルは奥歯を噛む。


「それと、姫の知己という冒険者に対する圧力は認められなかった。だが、余の名前でギルドから話を通していた故、程なくすればギルドから報告があるであろう」


「ありがとうございます、“(おおきみ)”」


 エイリナ姫は再び頭を垂れる。


「なんの……。これぐらい造作もないこと」


「感謝の印として、“(おおきみ)”に贈り物をお持ちしました」


「ほう……。こちらが迷惑をおかけしたというのに」


「お気になさらないでください。もらってばかりいるのは、私の性に合わないだけです」


「はっはっはっ……。姫らしいですな」


 “(おおきみ)”は愉快げに笑う。


「して――――」


 エイリナ姫は合図する。

 残っていた衛士は手分けをして、ここまで引いてきた荷車の荷を解く。

 現れた物を見て、皆が騒然となった。


「あれは……」

「もしや!」

「すごい!」

「ま、魔物じゃないか!!」


 驚く男もいれば、目を輝かせる子どももいる。

 ご婦人の中には、悲鳴を上げるものもいた。


「いかがでしょうか、“(おおきみ)”」



 魔物たちの剥製です。



 そう言ったエイリナ姫の顔は、悪戯小僧のように笑っていた。


いよいよ宮廷での作戦の始まりです。


ここまで読んでいかがだったでしょうか?

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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああー… たくさん連れてきちゃったのかあ。 オーク一体じゃないのか。 エイリナ姫に迷惑が掛からないと良いけれど。
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