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閑話 オークはどこへ行った? Ⅲ(前編)

 ユーリたちが宮廷の内情を知る一方、この男は半分死にかけていた。


「はあ……。はあ……」


 荒い息を吐き出したのは、シュバイセルである。

 青い顔に、目の下にどす黒い隈を垂らしながらお披露目会の会場へと向かっている。

 その足取りもおぼつかない。

 明らかに夜勤明けと言った状態で、足元近くまで伸びた正装の布をまるで引きずるようにフラフラと歩いていた。


「何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 何故死なぬ?? 」


 シュバイセルは呪詛のようにその言葉を繰り返していた。

 あまり不気味すぎて、衛兵は遠目に見ることしかできない。

 おかげで今にも倒れそうなシュバイセルに手を貸すことさえできなかった。


 お披露目会までの貴重な1日。

 いや、半日と少し程度の時間で、シュバイセルはあらゆる方法を模索した。


 だが、すべて無駄骨だ。

 斬撃、突撃、爆撃……、外部からの攻撃は全く受け付けない。

 試しに口の中に爆弾を突っ込んでみたが、効果は認められたものの、オークの強靱な体力がそれを許さなかった。


 むろん毒薬同様、火薬もまた宮廷内で入手するのは難しい。

 翻意ありと烙印を押されれば、そこで人生が詰む。


 結局、半日と少しで致死量に至る毒薬をかき集めることはできず、ついにお披露目会が始まろうとしていた。


 ようやく会場にたどり着く。

 そこでシュバイセルが見たのは、目が覚めるような光景であった。


「な゛っ!!」


 思わず変な声が出てしまった。


 まず眼鏡越しに見たのは、多くの来賓客だ。

 各省の統括と、その家族を初めて、面立った“小臣(ことど)”の姿もある。

 さらに驚くべきは、王族方がすべて揃っていることだ。


 10歳の末の王子から、70歳の大后まで“大臣(おとど)”の冠位を持つ方々。

 フィーネル王女以外の王族方が、ずらりと並んでいたのだ。


「しょ、初月の歌会以上に人がいるではないか?」


 初月の歌会とは、第2層がもっとも寒い時期に行われる。

 そのため体調を理由に――というか、下手な歌を歌いたくないと欠席するものが多く、結局歌自慢だけが集まるため、人はまばらだ。


 それでも宮廷の年行事の中では、人が集まるのだが、今回のお披露目会はそれ以上の人数だった。


 確かに『巨大オークのお披露目会』などと銘打たれては、宮廷内にいて刺激を求める方々にとっては、金いっぱいの袋よりも魅力的に映るだろう。


 宮廷内は今静かにクーデターが起きている。

 その騒がしさを感じさせない賑やかな(うたげ)

 ほとんどが革新派だが、中には穏健派の姿もある。


 それも主催が中立的な立場を取っているからだろう。


「来たか、シュバイセル!」


 共を引き連れ、現れたのはラバラケルだった。

 自分が主催のお披露目会で、さぞ上機嫌だろうと思ったが、そうではない。

 シュバイセルに対して、厳しい視線を投げかけていた。

 何故か、微妙に距離をとっている。


 おそらくまだ男色の気があることを疑っているのかもしれない。


「なんだ? その顔は? 今日はお披露目会だぞ。もっと晴れやかな顔をしろ。せめて顔ぐらい洗ったらどうなんだ?」


 顔なら何度も洗った。

 おしろいも濃いめにした。

 それでやっとこの顔なのだ。


 そもそも急なスケジュールを告げたのは、ラバラケルだ。

 きっとお披露目会の会場の許可や、諸々の用意・手続きは済んでいるかと思ったが、結局自分任せで何もしていなかった。

 兵武省の奥でふんぞり返っていただけの男を前にして、晴れやかな顔をしろという方が無理がある。


 殺されないだけましだと思え、と言いたい。


 それでもシュバイセルは頭を下げなければならない。

 これも給料分のうちだと、諦めるしかなかった。


「申し訳ありません。少し顔を洗ってきます」


「もうよい。もうすぐ“(おおきみ)”がおこしになる。粗相のないようにな」


「心得ております」


 ラバラケルは主催者席へと帰っていった。

 隣に座った王族方と談笑し、大きな口を開けて笑っている。


「見ていろ……。いつかお前を抜いてやるからな」


 拳に力を入れた。





 程なくして“(おおきみ)”が御簾の中にお出ましになった。

 シルエットが見えるだけで、その姿を拝顔することはできない。

 皆が“(おおきみ)”に一礼する。

 シュバイセルも運営席からそれを見つめていた。


 主催者であるラバラケルが進み出る。


「皆様、この度はお越しいただき大変有り難く存じる……」


 そこから長い口上が続く。

 ラバラケルの長話は宮廷では有名だ。


 10分ほど経過したか。

 最年長の大后が欠伸を噛みしめる中、ついにオークのお披露目が始まった。


 門が開き、数十人の衛兵に囲まれ、特注の荷台が転がってくる。

 その上には布が被され、まさにヴェールに包まれていた。

 会場の中央へと進み出てくる。


 ラバラケルは大げさに手を振って注目を集めると、いよいよ披露目となった。


「さあ、ご覧下さい! これが神都を震撼させた超巨大オークでございます」


 ついに布がはぎ取れる。

 現れたのは、オークだった。


 目撃した者の反応は、様々だ。

 その大きさに声をあげる者。

 豚鼻の醜い姿に、顔をしかめる者。

 急に泣き出してしまう子どももいた。


 反応は上々。

 ほとんどの者が身を乗り出し、オークを覗き込んでいる。


 その中で勇敢にもラバラケルは近づいていった。


「如何ですか、皆様? まるで生きているよう(ヽヽヽヽヽヽヽ)でしょ?」


 シュバイセルのこめかみが、ピクピクと動く。

 「実は生きている」と喉まででかかったのを、何とか鎮めた。


「おお! 確かに!」

「今にも動き出しそうだ」

「大丈夫なのかしら」

「心配ない。ここは宮廷だぞ」


 歓声に混じって、心配する声も聞こえてくる。

 その反応は予想内なのだろう。

 ラバラケルは耳に手を置いて、人の声を聞く。

 うんうん、と頷いた後、共の者に剣を持ってくるように伝えた。


ちょっと長めになってしまったので、前後編です。

今日中にあげますので、しばしお待ちを。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり、王女はかんなぎで、神寄りでしたか。 神側に不心得者がいてそれが王側と結託していたり、とかかなあ。それを憂いた王女が… とか。 それはおいておいて。いよいよオーク一世一代の見せ場登場…
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