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第65話 デートでは?

 ソロンさんと別れ、僕とアストリアは遅めの昼食を取ることにした。

 アストリアが昔通っていたという大衆食堂に行く。

 安くて、うまいと、昔から評判がいいらしい。


 ただオーナーが変わったらしく、アストリアが通っていた頃とは、店員が変わっているそうだ。


 そこでアストリアが注文したのは、ナーナーという果樹の葉っぱで包んだ蒸し鶏だった。

 まだ湯気を吐く葉っぱを開かれると、フルーティーな匂いが立ち上ってくる。

 鶏1匹丸々入っていて、さらに数種類の果物と、数種類のスパイスを混ぜ込んだソースがかかっていた。


 第2層の名物料理なのだそうだ。


「おいしそう……」


 思わず目を輝かせる。

 ナイフで取り分けてもらうと、アストリアとともに手を合わせた。


「「いただきます」」


 アストリアと声を重ねる。

 早速ソースがかかった蒸し鶏をいただいた。


「うん。うまい!」


 鳥は柔らかく、プリプリしてる。

 くっと噛むと、気持ちのいい弾力が返ってくる。

 さらに肉汁が溢れ、僕の口の中に広がっていった。


 ソースはピリッとして少し辛い。

 でも、決して食べられない辛さじゃなくて、鳥の旨みとの相性もいい。

 他の果物と一緒に食べると、甘さと辛さが相まって、絶妙な加減になっていた。


 初めて食べたけど、おいしい。

 貴族の食卓に出すには、ちょっと野性味がありすぎるけど、こういう食堂でしか味わえないワイルドな味だった。


 どうやら影に隠れたサリアも喜んでいるらしい。

 切り分けた鶏を載せた皿を差し出すと、すぐにおかわりを要求してきた。

 相変わらず食欲は旺盛で、もう1つ頼まなければならなかったほどだ。


 注文すると店員が驚いていた。

 鳥1匹丸々食べるのだ。

 2人とはいえ、なかなかもう1匹注文する客は少ないのだろう。


「どうだ、おいしいか?」


「はい。おいしいです」


「それは良かった」


 かく言うアストリアはあまり食が進んでいない様子だ。

 さっきのことが、尾を引いているのかもしれない。


 ここは僕がエスコートしなきゃ。

 なんか話題がないかな。

 えっと……。


 ところで、今思ったけど、これってデートじゃない?


「強くなったな、ユーリ」


「え?」


 まごまごしていると、アストリアの方から声をかけてきた。


「結局逃してしまったが、あのオークを倒せたのは、君自身の手柄だ。そこは誇っていい。あの冒険者たちも、君の名前を覚えただろう。ソロンの言うとおり、名は売っておいた方がいい。トラブルも多くなるが、それが助けになる時もある」


「う、うん。でも、まだまだだよ。もっと強くならなきゃ」


「なら、早く下層に向かわないとな。君の才能は、もっと下層で発揮されるべきだ。おそらく第4層ぐらいまでの魔物なら相手にもならないだろう」


「そんなに――――」


「事実、Aランクの相当のホブゴブリンや、あの巨大オークにも君の力は通じた。絶大な効果を持ってな。おそらく私がいなくても、第5層までなら楽々到達できただろう」


「あ、ありがとうございます」


 ちょっと大げさだけど、アストリアが認めてくれたことは素直に嬉しい。

 実感はないけどね。


 それにしても、恋人同士の会話って感じがしない。

 弟子と師匠みたいだ。

 まあ、実際その通りなんだけど。


 僕たちは食事を終える。

 おいしかった。

 かなり満足した。


 サリアは何も言わない。

 ということは、やはり美味しかったのだろう。

 まずい、と文句を言うし、普通でも「ひと味足りない」とやはり文句を垂れる。

 無言なのは、魔王様にとって最大限の賛辞なのだ。


「アストリア、あのシュバイセルが使ってた魔法って……」


 実は、かなり気になっていた。

 僕の推測が正しければ、あれは魔法じゃない。

 発露の瞬間、魔力をあまり感じなかった。


「気付いたか。さすがだな、ユーリ」


「じゃあ、あれは一体……」


「あれは神仙術だ」


「しんせんじゅつ?」


「第2層は、第1層よりも下層だが、魔力が少ないという実情は変わらない。第1層では魔王がその代役を担っていたわけだが、第2層では魔法という体系そのものを書き換えることによって、魔法と同じ力を発露できるようにしたのだ。それが――――」


「神仙術ですか」


「ああ……。冠位十二階(グランド・トゥエルブ)の頂点――概念存在『(しん)』の力を借り受け、奇跡を起こす。正直、私も深いところまで知らない。『神』を知るのは、『神和(かんなぎ)』や『()』の階位を持つものだけだからな」


 わかっていることと言えば、この神仙術が少し魔力を使うことぐらいだろう。

 僕の鍵魔法が神仙術という別体系にも通じたのは、この魔力部分に鍵魔法の効果が働いたからだと、アストリアは分析していた。


「じゃあ、アストリアも神仙術を仕えるんですか?」


「ああ……。神仙術はエルフ個々人によって能力が違う。私の場合は、耳だった」


「耳?」


 僕はアストリアの細長いエルフ耳を見つめる。


「私の耳は、声の小さいものでも聞くことができる。人間には可聴不可の声もな。例えば、聖霊の声だ」


「あ! だから、聖霊との契約が……」


「まあ、それだけが理由ではないがな」


 個々人で違うということは、あのシュバイセルの能力もまた固有の神仙術ということか。

 あんなヤツに、あんな禍々しい凶器を持たせるなんて、第2層の神様は一体何を考えているのだろうか?


 結局、シュバイセルの話になってしまった。

 戦いや、技術の話になると、こうして盛り上がるんだけどなあ。


 あ。そうだ。

 あと1つアストリアに聞いておくことがあった。


「ねぇ、アストリア。アストリアの実家って、この神都にあるの?」


「ん? あ、ああ……。まあ……」


「家には帰らないの? 久しぶりに戻ってきたんじゃない?」


「予定はないな。君もいるし。自分だけ家に帰るのは、気が引けるというか」


「じゃあ、一緒に行こうよ」


「はあ!?」


 アストリアは声を上げて、席を立つ

 大きく瞼を広げ、僕を見つめた。


「アストリアは僕の母さんと妹を知ってるんだし。僕も、アストリアの家族にご挨拶をしておきたいんだ」


「いいいいいいいいいいいいやいやいやいや……。あ、挨拶って、ユーリ」


「ダメかな?」


「待て待て。落ち着け、ユーリ。た、確かに私は君が好きとは言った。その気持ちは嘘じゃない」


 アストリアは顔を赤くして白状する。

 改めて「好き」って言われると、僕の方も緊張してきてしまった。

 あああああ……。

 顔が赤くなっていくのを感じるぅぅぅぅぅ。


「だ、だからといって、婚約したわけではない、の……だ…………ぞ」


「いや、そそそそそそういうことじゃなくて。いや、まあ確かに相手の両親に挨拶するってことはそういうことだけど……。でも僕が言いたいのはそのアストリアの両親ってどんな人なんだろうっていう興味本位っていうか、アストリアが僕の両親に会ってて僕がアストリアの両親にあっていないのはおかしいっていうか」


 あああああああ!! もう――!


 自分で言ってて、訳がわからなくなってきた。


「ま、まあ……。でも、確かにそうだな。ユーリの言葉は一理あるか」


「で、でしょ……」


 そして、なんかよくわからないことを口走っている間に、アストリアも納得してくれたらしい。


「確かにフェアじゃないな。それに随分と帰っていないし」


「そ、そうだよ、アストリア。ご両親も心配してると思うし」


「そんなことを言って……。私の家に上がり込みたいだけなんじゃないか、君」


 う……。割とその通りだったりする。

 単純にアストリアの生家を見てみたかった。


「君、普段はどちらかというと消極的なのに、こういう時だけ積極的なんだな」


「迷惑だったら謝るよ。でも、本気だから。ちゃんと本気だから」


 僕は告白する。

 多分、僕には色々とまだまだ自信がない部分がある。

 冒険者として、相棒として、男として……。

 でも、1つだけ自信があることがある。


 僕がアストリアを好きだということだ。

 これだけは、絶対本気なんだ。

 だから、僕は常に前を向けるのだと思う。

 多分、それは君がずっと僕の前で走り続けているから。


 すると、アストリアはフッと笑った。


「わかった。私の負けだ。実家に帰ろう」


「いいの?」


「ああ。両親がどんな顔をするのか見当も付かないけど、紹介するよ」



 私のユーリ・キーデンスを……。


ユーリくん、なかなか積極的じゃないか。

いいぞぉ……。


ここまで読んでいかがだったでしょうか?

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よろしくお願いします。


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タイマーどうなったのかな……次回とかにあるのか、平民には見えも聞こえもしないのか
[一言] やっぱり会いに行くことにはなりましたか。 どんな両親なんだろう。扱い的には、不肖の娘、になっていそうですね…
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