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第53話 魔王登場

 どさっ……。


 席を立った国王は、再び玉座に着いた。

 座ったというよりは、玉座が受け止めたという方に近い。

 目は放心し、謁見の間の隅に視線を向けている。


 部屋の空気は最悪と言っていい。

 皆が項垂れる一方、エイリナ姫だけが怒りを滲ませている。


「なんてことなの……。これじゃあ、内大臣とその息子に、まんまとやられたようなものじゃない!!」


「結局、10億ルドを払うしかないのか……」


 国王もがっくりと頭を垂らした。


「待って下さい、国王陛下、エイリナ姫」


 僕は2人に提言する。


「僕ができないと言ったのは、あの予算の方法ではできないと言ったんです」


 え…………?


 僕の声を聞いた人は、顔を上げる。

 再び国王陛下も、エイリナ姫も、僕の方を向いた。

 勿論隣に立ったアストリアもだ。


「実は、そのやり方には重大な欠陥がありまして」


「欠陥?」


「ユーリ……。あたしが見たところ、あなたの予算案に書かれた方法は完璧よ。それはルナミルも認めていたわ。欠陥なんて……」


 エイリナ姫は「完璧だ」と認めてくれる。

 しかし、僕は首を振った。


「いえ。欠陥はあります。この封印じゃダメなんですよ」


「え……? どういうこと?」


「だって、この方法じゃ100年ぐらいしか保たないので」


「ひゃ……」



「「「「100年!!」」」」



 皆が声を震わせた。

 みんなが驚くのも無理ないか。

 だって――――。


「そうですよね。100年じゃ短すぎますよね」


「ば、バカ! ユーリのバカ!!」


「す、すみません!」


「謝らなくてもいいわよ! ああ! 面倒くさい!! 十分よ! 100年もあれば……! そうすれば、また新しい魔法が生み出されるかもしれないし。てか、なんで100年が少ないと思えるのよ、あんたは!!」


「ご、ごめんなさい。で、でも……皆さんの願いは恒久的な封印でしょ」


「確かにそうじゃが……。100年という人間の寿命でいえば、一生分じゃぞ」


 国王陛下は髭を撫でる。


「魔法の祖――天翼族ですら、5年が精々だと言ってるのよ。100年は異常なの。あんた、そろそろ自分が高スペックなのを理解しなさいよ!」


 エイリナ姫は僕のところまでやってきて、おでこをぐりぐりと指先で突く。


 僕は「痛い痛い」と言っても、やめてくれなかった。

 よっぽど僕の事が嫌いなのだろう。


 弱ったな……。

 僕のどこが高スペックなんだろう。

 あの予算案の方法も、思いつきを10分ぐらいで書いたものだし。

 そもそもあの予算案は、別の目的(ヽヽヽヽ)があって書いただけなんだけどな。


「で――。ユーリがそういうのだから、他にも方法があるってことよね」


「は、はい。成功するかは、わからないですけど。とにかく僕を地下に行く許可をいただけないでしょうか?」


「うむ。では、ユーリよ。健闘を――――いや、この国を頼む」


「はい。お任せ下さい」


 僕は膝を突き、手に当てた胸に誓いを立てるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 地下へと向かう道すがら、唐突にアストリアは足を止めた。


「どうしたんですか、アストリア?」


 質問しても、答えは返ってこない。

 やや俯き加減のまま、沈黙している。


「ちょっと何をやってるのよ。地下でルナミルが待ってるのよ」


 前を行くエイリナ姫が声をかける。


「先に行ってて下さい。場所はわかってますから」


 僕は返答すると、エイリナ姫は1度アストリアに視線を向けた。

 はあ、と息を漏らす。


「…………わかったわ。あまりゆっくりしてる時間はないからね」


 エイリナ姫は他の家臣と一緒に、その場を後にする。

 宮廷の長い廊下で、僕たちは2人だけになった。


「気付いてはいたが、君は私が思っていたよりも凄い鍵師だったんだな」


「そんなことないです。アストリアの方がずっと凄いですよ」


「ふふ……。エイリナの言う通りだ。君には全然自覚がないようだ。まあ、その才能と数奇な運命を考えれば、仕方ないのかも知れないが……」


「??」


 僕が首を傾げる。

 すると、アストリアはまた笑った。


 そして改まって、僕に向き直る。


「ユーリ……。ユーリ・キーデンス、君に話がある」


「はい。……僕もアストリア・グーデルレインに話があったんです」


 そして僕たちは、宮廷の廊下で互いのことを話し合った。



 ◆◇◆◇◆



 宮廷の地下に辿り着く。

 勝手知ったる元職場だ。

 この生臭いというか、漂っている腐臭に似た臭いも、どこか懐かしさを感じる。


「うっ……」


 口に手を当てたのは、隣に立ったアストリアだ。


「ここは魔力が濃いな」


「あなたも来たのですね、アストリア」


 ルナが進み出て来る。

 薄暗い地下の中でも、白い翼は綺麗だ。

 ほのかに光っているようにも見える。

 初めて会った時とは違って、溌剌としていた。


 さすがは天翼族だ。

 もうここの環境に慣れてしまったのだろう。

 いや、そもそも天翼族は魔力が濃い第7層に住んでいる。

 むしろ、この地下の方が住みやすい可能性もあるかもしれない。


「ああ……。特別に許可をもらった」


「それだけですか?」


「どういうことだ?」


 ルナはそれ以上答えなかった。

 ただ「ふふ」と鈴を振ったように笑うだけだ。


「それで、どうするの、ユーリ」


 封印の扉の様子を窺っていたエイリナ姫が、声をかける。


 扉はきちんと閉まっていた。

 どうやら、ルナがやったらしい。

 かなり強力な魔力によって、【閉めろ(ロック)】されているようだ。


 だが、どうやら僕が不在の間、何かあったことは明白だった。

 周囲の地形が少し変わっている。

 扉の側には土嚢を積んだような跡が残されていた。

 何で土嚢?

 用途すら僕には想像できなかった。


 僕は扉に向き直る。


「はい。説得してみようと思います」


「説得?」


 そして僕は手を掲げた。


「扉――――」



 【開け(リリース)



 鍵魔法をかける。


 直後、ゆっくりと扉が開き始めた。

 これには、エイリナ姫も動揺を隠せない様子だ。


「ちょ! ユーリ! 折角、ルナミルの封印を……」


「大丈夫です」


「大丈夫じゃないわよ。ほら、黒い塊がまた……」


 エイリナ姫が指を差す。

 開いた扉の隙間から、黒い塊が出てきた。

 横のアストリアも構える。

 それは、ゲヴァルドの戦いで見た物と同じだったからだろう。


 そんなアストリアを僕は手で制する。

 「大丈夫」と一言声をかけると、ゆっくりと扉に近づいていった。


「黒い塊が……」


 驚いたのは、ルナだ。


 まるで潮を引くように黒い塊が、扉の中へと戻っていく。


「まるでユーリを恐れているようだ」


 アストリアも唖然とした。


 やがて黒い塊がなくなる。

 綺麗になった扉の前で、僕はそっと声をかけた。


「サリア……。いるんだろ?」


 しばし反応はなかった。

 重苦しい空気が支配する空間で、僕の声だけが響く。

 やがて出てきたのは、青白い子どもの手だった。


 扉にそっと手をかける。

 続いて現れたのは、角だ。

 水牛のように太く、先が尖っている。

 色は黒く、どこか禍々しい。


 その瞬間、危機を察したのか、僕以外の人間たちが構える。


 だけど、僕は姿勢を変えなかった。


「大丈夫だよ、サリア。ここにいる人たちは、君を傷付けたりしないから」


「ホント?」


 ついに顔が出る。

 透明で如何にも純真そうな紫色の瞳。

 さらにプラチナブロンドの長い髪が揺れる。


 およそ人外とは思えない可愛い容姿に、大半の人間が言葉を発するのも忘れた。


「ユーリ、その子は?」


 アストリアは尋ねる。

 僕は振り返り、彼女を紹介した。


「彼女の名前はサリア……。えっと……有り体にいうと――――」



 魔王です。


あら、かわいい!


本日はここまでになります。

お読みいただきありがとうございます。

引き続き更新してまいりますので、

「面白い」と思っていただけたら、

是非広告下の★★★★★を付けていただけると励みになります。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ユーリは何を話したんでしょうね。 [一言] 扉の伏線がここにきて回収。扉の指が魔王で有ることは想像でき、魔王が幼女の姿とは思ってましたが、思ってた通りでしたね。 ユーリここに来てもフラ…
[一言] 長年封印してきた相手をどう説得するのか、はてさて…。 と。彼女と明言されたので、僅かにあったショタの可能性がなくなった。 挟まれた指はもう大丈夫なのかな?
[一言] こっちの魔王はサリアですか。向こうの魔王のグリザリアと名前が似てるのはたまたまですかね
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