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第52話 もう遅い

 一瞬、【時間停止(ロック)】したようだった。


 家臣、貴族……。

 エイリナ姫に、横にいるアストリア。

 全員が、この前代未聞の国王の謝罪に呆然としていた。


 当然僕もだ。

 夢と思うことすら憚れる。

 心臓はそのまま【停止(ロック)】してしまいたいほど、僕の頭は混乱の極みにあった。


 国王に頭を下げさせて、一体この後、どんな罰があるのだろう。

 そんなことばかり考えている。


「へ、陛下! 頭を上げて下さい」


 僕は陛下に頼み込む。

 誰かが言うべきなのだろう。

 でも、国王の行動を諫める人はいない。

 だって国で一番偉い人なのだから、仕方ないだろう。


「いや、こうさせてくれ。卑怯と思われるだろうが、お主にこうすることによって、余は許しをもらいたいと思っているのだ」


「許し……?」


「余は王だ。にも関わらず、ドラヴァンのような愚臣の専横を許してしまった。さらにお主のような国にとってかけがえのない人材に罪をなすりつけ、爵位を剥奪し、家の名に泥を塗ってしまった」


「あれはドラヴァン――――内大臣がやったことです。陛下は知らなかっただけで」


「だから、謝らなければならない。国王は国民の代表であるとともに、我の手足となって働く家臣の責任者でもある。ドラヴァンは余の家臣であった。家臣の罪は、王の罪でもある。危うく1人の忠臣の命を奪うところだったのだ。知らなかっただけでは許されるぬ。本来、余もまた責任を取り、首に縄をかけるべきであろう」


「な、縄!!」


 それって死罪になる覚悟があるってこと?


「いけません! それだけは――」


「ああ……。余は王だ。おいそれと玉座から退席するわけにはいかぬ。次代の王が決まらない状態では、国が傾く。故にだ、ユーリ・キーデンス……。こうしてお主に許しを請うておる。地位を利用した卑怯なやり方とそしられても構わぬ。どうかこれで寛恕(かんじょ)いだけないだろうか?」


 国王は本気だ。

 冗談で言っているようには少なくとも聞こえない。

 僕が許さないといえば、本当に縛り首になる覚悟を以て、頭を下げている。


 これが国王。

 これが国の代表。

 内大臣は殿上人。

 国王は神様だと、僕は喩えたけど全然違う。


 神様以上だ。


 許すというのは、簡単だろう。

 でも、それだけじゃ足りない。

 そして陛下もそれを望んでいないように思えた。


「国王陛下、どうか頭を上げてください」


 僕が言うと、陛下は頭を上げた。

 綺麗な黄緑色の瞳とかち合う。

 白髭の奥に隠れた瞳は、純真な子どものようだった。


「陛下……。許しを請いたいとおっしゃいましたね」


「そうだ」


「それは僕にはできません」


 僕がそう言うと、謁見の間は少しざわついた。

 陛下自身も、ピクリと眉宇を動かす。

 僕は言葉を続けた。


「今回のゲヴァルドの件……。いえ、それだけではありません。ドラヴァンが犯してきた罪によって、様々な人間が人生を狂わされてきたことは、想像に難くありません。僕のようにです」


 国王陛下は何も言わず、深く頷いた。


「陛下の命は1つです。ですが、陛下が仰った罪も、失われた命も無数にあります。その1つ1つに心血を注ぐのは、あまりに陛下のお命は少なすぎます」


「では、余にどうしろ、と?」


「どうかこれまで通り、国王として国と民にお仕え下さい。陛下はただの咎人ではありません。1人の咎人が、10年かかって為しえることを、陛下は1つ号令をかけるだけで、1日で成し遂げてしまうお力があります。そして失った命の代わりに、今失われそうな命をお救い下さい。そうすれば、いつか僕はあなたを真に許す時が来るでしょう」


「ふふ……。そなたの許しを得るまで、余に働けというか。可愛い顔をして、存外惨いことを言うな、ユーリ・キーデンス」


 国王陛下は笑った。

 その時になって、僕は我に返る。

 なんかつい興奮して口を()いてしまった。

 僕は一体何を偉そうに喋っていたのだろう。


 目の前にいるのは、国王陛下だぞ。


 変な汗が流れてきた。

 やばい。

 トイレに行きたい……。


「だが、お主の言う通りだ、ユーリよ。許しなどおこがましい。余が許されるために、国王になったのではない。民に安寧を与えるために、あの玉座に座っていたことを思い出したよ」


 国王は振り返る。

 そこには煌びやかな装飾がされた玉座があった。


「改めて礼を言う、ユーリ」


「い、いえ……」


「わざわざ玉座から下りた甲斐があるというものだ。さすがは、我が娘が目をかけるだけはある」


 え?

 何故、このタイミングでエイリナ姫が。

 目をかける?

 エイリナ姫が、僕に目をかける?


 嘘でしょ?

 いつも怒られてばかりいるのに、僕……。


 一体、国王陛下に何を吹き込んだのだろうか。


 僕はエイリナ姫を見る。

 すると、向こうは顔を真っ赤にしていた。

 目が合うと、ぷいっと顔を背ける。


 やっぱなんか怒ってるよ。


 とりあえず後で「許し」を請おう。


「さて、ユーリよ。そなたに頼みたいことがある」


 再び玉座に座り直した国王陛下は、僕の方を見て言った。


「そなたが提出した予算案。余にはわからぬが、専門家に言わせれば素晴らしい出来らしい」


「予算案というのは……?」


「そなたが追放される前に提出した予算案のことだ。覚えておらんのか?」


 あ! あれか!?


 今の今まで忘れていた。

 捨てられたのかと思っていたけど、残していたんだな、大臣。


 弱ったなぁ。

 あれを陛下に見られたのか。

 当然エイリナ姫や、専門家であるルナにも見られてるよな。


「どうか。この方法を以て、今1度魔王の封印に尽力して欲しい。他の方法だと、10億ルドがかかると言われてな。今も王国議会はその予算捻出のことで、喧々諤々の議論をしているところだ。お主の案であれば、すぐにでも予算通過できるのだが」


 国王陛下は鼻息を荒く、仰った。

 その態度から、この方法による封印の期待度がわかる。


「はい。是非お力を貸したいのですが……」


 ははは……。

 僕は苦笑いを浮かべる。

 そして声のトーンを落として言った。


「すみません。できないんです」


「はっ?」


 国王陛下はポッカリと口を開けて、固まった。

 陛下の横に控えるエイリナ姫も驚いている。

 側にいたアストリアも、目を剥いていた。


「ちょ! どういうことよ、ユーリ? できないって……。もしかして意地悪で言ってるんじゃないでしょうね」


 家臣が居並ぶ列の前に立っていた彼女は、1歩前に出て、金切り声を上げる。

 先ほどまで澄ました顔をしていた姫のこめかみには、青い筋が浮かんでいた。


「違いますよ。そんなんじゃありません。その――――」


「「その……?」」


 陛下と姫の声が重なる。

 他の家臣やアストリアも、やや前のめりになって、僕の次の言葉を待った。


「その方法には大量の魔力が必要で、ずっとため込んでいたんですけど」



 ゲヴァルドとの戦いで全部使い切っちゃったんですよね……。



 あ…………。


 謁見の間がピンと張り詰める。

 空気に何か察するような気配が混じった。

 直後、皆の叫声が謁見の間に響くのだった。


「な、なんだってぇぇぇぇええええええええええ!!」


ご心配をおかけしました。

無理のない方向で頑張って参ります。

でも、今日はもう1本投稿する予定です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
下から入れる、若しくは魔王ちゃん(不明)から吸うしかない……
溜まりに溜まった物、出しきったのね…(;´Д`)
[一言] 追放された側の感情論とか、追放した側の法や通すべき筋とかじゃなく、 資源的な意味で戻れない(戻っても意味が薄い)という展開は新しいですね。
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