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第48話 罪と詰み

 宮廷でユーリを待ち構えていたドラヴァンは、今は王都にある私邸にいた。


 ゲヴァルドが起こした、王都を巻き込む大騒動。

 幸いにもドラヴァンの私邸は無事のままであった。

 だからといって、ドラヴァンの心が晴れるわけではない。


 今に至っては屋敷ごと潰して欲しかったと、ドラヴァンは荷物を纏めながら嘆いた。


 そう。

 今、ドラヴァンは荷物を纏めている。

 部屋のカーテンを閉め、扉と窓には鍵をかけた密室で、バッグにはこれまで自分が密かに収集してきた宝石、あるいは金貨、証券といったものすべてを詰め込んでいた。


 政治家として彼は詰みだ。

 自分の数々の悪事は、姫勇者に暴かれようとしている。

 あのユーリも、姫勇者の庇護下となったことを、部下から聞いた。


 そして何よりも息子の失態は大きい。


 あろうことか国そのものが潰れかけたのだ。

 国家叛逆の罪は目に見えている。

 自分が当事者ではないとはいえ、きっかけを作ったのは自分である。


 責任を命によって取らされる公算は高い。


 ならば、その前に逃げる。

 どこか遠くへ。

 なんだったら、下層の最奥でもいい。


 金ならある。

 各層のギルドを抱き込み、下へと向かう権利を買う。

 そういう方法があるのかわからないが、世の中は金が物を言うはず。

 それにあてがないわけではない。


 下層にもドラヴァンの友人はいる。


「ん?」


 はたと何かに気付き、振り返る。

 一瞬カーテンが動いたような気がしたのだ。

 もう1度施錠をしようと手を伸ばした時だった。


 バンッ!!


 施錠して置いた扉が開かれる。


「お邪魔するわよ、内大臣」


 現れたのはエイリナ姫だった。

 ツインテールを揺らし、やや挑戦的な笑みをドラヴァンに向ける。


「ひ、姫!! さ、さすがに無礼ですぞ。人の屋敷に断りなく入るなど」


「ノックもしたし、挨拶もした。随分と手荒い挨拶だったけどな」


 横合いから現れたのは、銀髪の騎士風の少女だった。

 細腕にもかかわらず、その脇にはドラヴァンの私兵を抱えている。

 失神した部下を見せつけるように、少女はドラヴァンの前に放り投げた。


 ドラヴァンは子鼠のように悲鳴を上げる。

 無様に尻餅をつき、蛇に睨まれた蛙のように汗を流した。


「き、貴様! 何者だ……」


「申し遅れた大臣殿。私の名前はアストリア・クーデルレインという……」


「あ、アストリア!! まさか『円卓(アヴァロン)』の――」


「一国の大臣に我が名を知って貰えているのは光栄だ。だが――――」


 進み出たアストリアは、ドラヴァンにショートソードを向ける。


 ドラヴァンは慌てて手を振った。


「や、やめろ! ぼ、暴力反対!」


「よく言うわね。あんたの部下……。あたしを見るなり襲いかかってきたわよ。全く……。主人も主人なら、家臣も家臣だわ」


「貴様ら! 何をしにきた?」


「ご挨拶ね……。あんたも薄々感づいているんでしょ? だから、下層への高飛びの準備をしていたんじゃないの?」


「こ、これは、その――――。いや、そもそもなんで私が捕まるのだ?」


「まだあたし、あんたを捕まえるなんて言ってないけど……」


「ぐぅ……。こ、小娘がぁ!!」


 パン!


 乾いた音が鳴り響く。

 その瞬間、ドラヴァンの頬を何かがかすめていった。

 タプタプとした肉の一部がそぎ落とされると、血の筋が浮かび上がる。


「ぐぁ!!」


 熱した鉄ごてを当てられたような痛みに、ドラヴァンは悶える。

 傷口を押さえて、くの字に身体を曲げた。


 その前には、ひどく冷徹な表情を浮かべたエイリナ姫が立っていた。


「今の発言だけでも、王族への侮辱罪として、十分あんたの首に縄をかけることができるわよ」


「ひっ! お許しを! つい気が苛立って……」


「ついね……。まあ、いいわ。あたしは心が広いから許してあげる」


「あ、ありがとうございます。え、エイリナ姫」


 よろよろとドラヴァンは膝を突く。


「でも、あんたが国にやってきた罪を許すわけにはいかないわ」


 エイリナ姫は書類の束を掲げる。

 その束に一抹の不安を抱えたドラヴァンは荷物を漁り始めた。

 それはもしかしたら、自分の命よりも大切なものかもしれないからだ。

 だが、いくら探しても出てこない。


 先ほどそれを鞄の奥底に隠したはずなのに……。


「ない! ない! そんな――――今、入れたばかりなのに」


「何がないのかしら、大臣?」


「わ、我が家の裏帳簿――――あっ!!」


 思わず口を塞いだが、もう遅い。

 してやったりと、エイリナ姫がニヤリと笑ったのは言うまでもなかった。


「やっぱり裏帳簿があったのね。こういう格言を知っているかしら、大臣? 『悪党ほど、よく払う』ってね」


「どうしてお前たちが持ってる? ずっと周到に隠して」


「ええ……。周到に隠してたみたいね。あたしの部下に内偵させて探させていたけど、金のことになると、あなたは本当に用心深くなる性格だったようだわ」


 そんなドラヴァンでも、ガードを下げる時がやってくる。


「本当はもっと先だと思っていたわ。外堀を埋めて、あなたが馬脚を現したところで、抑えるつもりだった。まさかこんな形で、手に入れるとは思ってもみなかったけど」


「待て! それまで見つけられなかったって……。では、その裏帳簿はなんだ?」


「これ? これは真っ赤な偽物……。それらしく偽装したものよ。」


「じゃあ、本物は――――」



 こちらですよ、大臣……。



 ハッとなって振り返る。

 そこに立っていたのはユーリだった。


 冷たい視線で内大臣を射貫くと、そっと懐からドラヴァンが探していた裏帳簿を取り出し、見せた。



「終わりです、大臣」


ここまでお読みいただきありがとうございます。

なんとか来年になる前に、あと1本更新する予定です。

頑張りますので、是非ブックマークと★★★★★の評価の方をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに大臣も。まあ、魔王の力を借りた息子に比べたら、圧倒的な小物感。 今年最後の更新、お待ちしています。宮廷が完全に片着く、というまでには行かないと思うのですが。
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