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第46話 【時間停止】と【分子分解】

 何もかもが止まっていた。

 人間も、木々も、鳥も、空も……。

 王都を吹き抜ける風ですら、止まっていた。


 皮肉なことに、そこにいるすべて者は生き生きとし、止まっているのに死を感じさせることはない。


 美の巨匠が切り取った1枚の絵画のようであった。


 静止した世界の中で、唯一響いていたのは、笑声である。

 蛇の鳴き声のように歪つで、ただただ不快感しかない。

 勝ち誇っているように聞こえるのは、今この世界で唯一動けている自負からくるものだろう。


 S級冒険者も……。

 姫勇者も……。


 為す術なく静止し、固まっている。


 国家の力など恐るるに足らず。

 街に溢れ返っていた衛兵達も、まるでその者を崇拝するように見上げるだけだった。


 全ては【閉めろ(ロック)】していた……。



 かに見えた……。



「何を笑ってるんですか?」


 黒い化け物の笑声が止まる。

 鎌首の先についた目がぐるりと動いた。

 そこには先ほどまで、己を滅多刺しにしていた青年の姿がある。


 静止した世界の中で、依然として溌剌とし、魔力を漲らせていた。


『ナ、ナゼ……??』


 化け物は人間の言葉を喋る。


『ワタシハ、スベテヲ、ロックシタ』


「だから、お前も【閉めろ(ロック)】されているはずだ?」


『ソウダ! ナゼウゴケル! ナゼ、オマエハ、オレヲミアゲテイル!?』


「だから言ったんですよ。引き継ぎはいらないのかって」


 でも、良かったのかもしれない。

 もし僕がゲヴァルドに鍵魔法のすべてを教えていたら……。

 きっと、こんな勘違いはしなかったかもしれない。


 いや、そもそもこんなことにはならなかっただろう。


 仮に僕がゲヴァルドに教えることができれば、彼はきっと優秀な鍵師になれたかもしれないから。

 とはいえ、それを自らドブに捨てたのは、彼自身だけどね。


「すべての物体や事象を止めるなんて、無理です。それほど鍵魔法は万能じゃない。鍵魔法はあくまで魔法です。そこには魔力が必要で、対象となるものに魔力を通さなくてはならない。これは鍵魔法に限らない、すべての魔法に言えます。初歩の初歩です……」


『マサカ……』


 黒い化け物は何かに気付く。

 何かたじろぐように首を退いた。


「すべてに魔力を通すことなんて、不可能ですよ。あなたの方法では、あまりに対象が大きすぎるんです。この地層世界中の魔力すべてを使うぐらいじゃないと……」


『あ……。ああ…………』


「それでも王都を丸ごと止めたのは、さすが魔王の力ですね。まあ、僕には通じなかったですけど。あなたの魔力が通る前に、【開け(リリース)】したので」


『キ、キサマ……!!』


「だけど、1つだけあるんですよ。実質(ヽヽ)すべてを止める方法が……。唯一そこに魔法を通すことによって、すべてが止まる方法が……。まあ、言葉遊びみたいなものですけどね」


『ウルセェェェェエェエェエ!! コウシャクハ、キキアキタ!』


 その瞬間、黒い化け物は再び周囲から黒い剣を伸ばす。

 万、いやもしかしたら、100万以上あるかもしれない。


 王都のあちこちから生命力の強い雑草のように立ち上がってくる。

 その切っ先はどれも鋭利に光り、残っていた王都民の方へ向けられていた。


『ブッコロス! コノオウトニ、イル、ヤツラ! ブッコロス!!』


 もはや魔王の力がゲヴァルドを乗っ取ったのか。

 はたまた逆かわからない。

 とにかく、その憎悪と圧迫感は、これまで僕が対峙してきた相手では1番だろう。


『テメェハ、ソコデ、セカイノ、オワリマデ、タッテロ!!』


 王都民100万人を一斉に殺すべく、黒の剣が動き出した。


『シネェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエ!!』


 叫びと、殺意の波動は世界に満ちる。

 同時に100万人の命を守る魔法などない。

 ただし、僕の鍵魔法を除けば……。


「時間――――――」




 【停止(ロック)




 その時、真にすべてが止まった。

 100万人の王都民に向けられた刃。

 口を大きく開けたままの黒い化け物。

 僕の勝利を祈るように見つめるアストリア。


 本当にその時、すべての時間(とき)が止まっていた。


 動くことができたのは、時間の流れから【解放(リリース)】された僕だけだ。

 その僕は、黒い化け物の方に歩いて行く。


 あれ程警戒感をあらわにし、常に罵倒とこの世の怨嗟を繰り返してきた化け物は、僕が近づいても何の反応もない。

 そっと手を触れたが、脈を1つ動かすこともなかった。


「終わりだよ。これで……」



 分子――――。



     【分解(リリース)】!!



「うおおおおおおおおおおお!!」


 僕はありったけの魔力を込める。

 黒い化け物の分子結合を、【分解(リリース)】した。


 光が舞い上がる。


 分解されていく化け物から、浮き上がってきたのは光だった。

 なんとも皮肉な光景だ。

 固まれば、あれほど醜い光景はないというのに……。


 出来れば、アストリアと一緒に見たかったかもしれない。


 こんなにも世界が綺麗なのだから。


 僕は振り返る。

 王都が光に満ちていた。

 【分解(リリース)】の効力は目の前の化け物だけじゃない。


 王都を包んでいた闇そのものも分解し、あちこちから光が浮き上がっていた。

 まるで渦を巻くように、空へと上っていく。


 くらっ……。


 一瞬目眩がした。

 視界が暗転しそうになるのを、何とか堪える。


「さすがに魔力を使い過ぎたね」


 奥の手である【時間停止】と【分子分解】を同時に使ったんだ。

 ストックがあったとはいえ、さすがにやり過ぎた。

 でも、あともうちょっとなんだ。


 もうちょっとで全部が終わる。

 王都は元に戻るだろう。

 だから、あともうちょっと……。


 もうちょっとだけ頑張ってよ…………。


 視界は暗転する。

 暗い意識の中に落とされる。


 一方、世界は光に満ちていった。

 ついに白くなり、何も見えなくなる。


 世界はただ白一色となった。


やっとタイトル回収。

ここまでお待ちいただきありがとうございます。

お待たせしてすみません(>_<)


読んでみた評価はいかがだったでしょうか?

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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ザ·○ールドかな?
[良い点] 年内にタイトル回収できてるとこ。 [一言] ユーリ君こんな技術引き継がせちゃだめだって。 「静止した時の中を動けるのは、たったひとりでなくてはならない…」ってえらいひと言ってたよ。 いや…
[一言] おお、最大究極奥義でやっつけた/w これが認識されたら冒険者レベルも一気に上がりそうだけれど。 やっぱり、魔王がどうなるのかが心配。
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