第43話 鍵師の業務
更新がいつもより遅くてすみません。
ああ……。そうだ。
やっと言えた。
いや、やっとわかったんだ。
僕がアストリアに付いていく理由が……。
僕は僕が好きになった人の側にいたいんだってことに。
多分僕の選択は、ある人たちから見れば間違っているのだろう。
これが正解じゃないこともわかっている。
でも、もう止められそうにない。
理性があるなら、僕はこの場に立っていたりしないのだから……。
「ユーリ……」
アストリアはびっくりしていた。
大きく青い瞳を僕に向けている。
呆れているのか、それとも言葉もないのか。
少なくとも、赤い顔をしていないところを見ると、怒ってはいないようだ。
えっと、と――――。
必死に言葉を探している。
そうやって慌てふためくアストリアは、戦っている時とはまるで別人で、女の子らしい。
それがまた一段と僕には愛おしく見えた。
「今は、僕の言葉を覚えてくれているだけでいいですから。あとは、ゆっくりしていて下さい」
僕はアストリアに背中を向ける。
ゲヴァルドに立ちはだかると、彼女はついに叫ぶ。
「ユーリ! 君は、まさか1人で戦うつもりか?」
「え? いけませんか?」
「いけませんかって……。君――――」
「ご心配なく……。これが――――」
宮廷鍵師の日常業務みたいなものですから……。
「え?」
アストリアは息を呑む。
僕はアストリアに鍵魔法をかける。
ダンジョンで天翼族のルナにかけた方法で、その痛みを【開け】した。
「すみません。エイリナ姫と、一般人の避難をお願いできますか?」
「ちょ……! 待て! ユーリ!!」
「あと、エイリナ姫に言っておいて下さい。『すみません』って」
「ば、バカ!! まるで遺言みたいじゃないか! そう言うのは、自分で言え!」
アストリアは叫ぶ。
その時だった。
怨讐めいた声が響いたのは。
「ユーリ・キーデンスゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」
黒い塊に覆われたゲヴァルドは叫ぶ。
その目は血走り、いやもはや人の瞳ですらない。
さらに黒い塊が膨らんでいく。
樹木のように急速に根を張り、周囲を侵食していった。
全体が黒に覆われ、昼間だというのに夜のように黒くなる。
おそらくゲヴァルドが発する魔力の影響だろう。
「お願いしますね」
「ちょっ……! ユーリ!!」
僕はゲヴァルドの方へと歩いて行く。
最初出会った頃に比べると、随分と変異したゲヴァルドの前に立ちはだかった。
「久しぶりですね、ゲヴァルド」
「ゲヴァルド様だろうが! てめぇが! てめぇのせいでオレは、家臣に陰口をたたかれ、姫勇者にはなじられ、そして親父にも殺されそうになった!」
僕はピクリと眉を顰める。
だが、極力動揺を示さず、僕は反論した。
「だとしても、僕は謝りませんよ。引き継ぎを拒否したのは、あなたとあなたの父親であるドラヴァン大臣です。あなたに少しでも僕の仕事のことを話せていれば、こんなことにはならなかった」
少なくとも、僕は僕の仕事の大変さを知ることができただろう。
こんな悲劇にはならなかったはずである。
「居直りやがって!!」
「どうとでも言って下さい。あなたと議論するために、来たんじゃない。僕の大切な人を守りたくてやってきたんだ!!」
「ふざけるな! ここは戦場だぞ!! そんなに恋人ごっこがしたいなら、まとめて殺してやるから、あの世で乳繰り合ってろ!!」
ゲヴァルドが叫ぶ。
地面や建物を浸食した黒い根から、黒い剣が伸びる。
その切っ先は僕の方に向かって、蛇行しながら迫ってきた。
数えるだけ無駄だ。
ざっと見ても、1000はあるだろう。
その1本1本に、ゲヴァルドの怨念を感じる。
だが、冷たい殺意を感じても、僕が退くことはない。
何故なら、僕の後ろにはアストリアがいる。
そして、僕には鍵魔法がある。
アストリアが、家族が、ルナが、エイリナ姫が認めてくれた才能がある――――。
「全身――――」
【閉めろ】!!
千の刃が僕の目の前で止まった。
その主であるゲヴァルドも口を開けたまま固まっている。
しん……。
あれほど騒がしかった戦場が静まり返る。
まるで戦いそのものが夢であるかのように。
その時、エイリナ姫が目を開ける。
僕の姿を見つめると、「ゆ、ユーリ?」とぼんやりと呟いた。
アストリアもまた呆然としていた。
「すごい……。一部とはいえ、魔王の力を帯びたゲヴァルドを止めるなんて。鍵魔法――いや、ユーリが凄いのか?」
僕を讃えた。
だが――――。
【開け】!
その呪唱は僕ではない。
だが、確かに誰かが鍵魔法を使った。
直後、黒い剣が動き出す。
僕の方に再び迫った。
その時、声が聞こえる。
ゲヴァルドの声だった。
「鍵魔法を使えるのは、自分だけと思うなよ」
鍵魔法vs鍵魔法が開幕です!
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