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第25話 天翼族

 血の匂いがする……。


 たぶん、近い。

 先ほどの悲鳴を上げた人たちがいるはずだ。

 だが、このむせ返るような血の匂い……。

 おそらく最悪の事態を想定しなければならないかもしれない。


「ユーリ、あそこだ」


 先頭を走るアストリアが指を差す。

 薄暗がりから突如現れたのは、武装した男の死体だった。


 何か強い衝撃を側面から受けたのだろう。

 身体がくの字に曲がり、海老のように横たわっている。


「冒険者じゃないな……」


 アストリアは死体を検分しながら呟いた。

 男が着ている鎧に、ムスタリフ王国の国章が描かれている。


「王国の正規兵……」


 それも宮廷を守る衛兵だ。

 宮廷で働いていた僕が言うのだから間違いない。

 でも、何で衛兵がこんなところに?


「ユーリ、詮索は後だ。生存者を捜そう」


「はい……」


 しかし、状況は絶望的だ。

 ざっと見渡したところで意識がある人はいない。

 数は20前後と言ったところか。


 宮廷の衛兵がダンジョンの魔物を討伐しに来るなんて滅多にないはず。

 おそらく要人の警護だろう。

 20人も衛兵を付けるなんて、それなりに国にとって重要な人物のはずだ。


 一瞬、僕の脳裏にエイリナ姫の顔が浮かぶ。


 だが、その可能性はすぐに捨て去った。

 あの人じゃない。

 エイリナ姫は強い。

 衛兵に守られるというよりは、衛兵を守る側のお方だ。


「そう言えば元気かな、エイリナ姫」


 予定通りであれば、そろそろ外遊から帰ってるはずだ。

 もしかしたら、今頃僕が宮廷からいなくて、驚いているかもしれない。


「エイ…………リナ………………」


 何か譫言のような声がすぐ側で聞こえた。

 アストリアかと思ったが、違う。

 よく目を凝らすと、岩陰に女性がもたれかかっていた。

 同時に荒い息に気付く。


「大丈夫で――――」


 僕は言葉を詰まらせる。


 ウェーブがかったブロンドの髪。

 磨かれた象牙のような白い肌。

 木の実のように小さく熟れた唇。

 四肢は細い一方、女性としての部分は十分に魅力的に成長しきり、大人の身体をしている。


 彼女の身体の大半を覆う白い神官服は朱に染まり、特に下腹部の傷がひどい。

 息も絶え絶えと言った感じで、浅い息を繰り返していた。


 だが、僕が息を飲んだのは、彼女の美しい容姿でもなければ、重傷と言っても差し支えない傷でもない。


 彼女の背中から生えた白い翼であった。


「天翼族……」


 やっとの思いでその言葉を吐き出す。


 天翼族は主に第7層――外天ラゴスに住む種族だ。

 別名『神の種族』とも言われており、発達した魔法文化を形成し、地層世界でも一際強く存在感を放っている。


 その一方でとても閉鎖的な種族で、基本的に第7層でしか確認できない。

 時々、宮廷に国賓として招かれて、遠目で見ることはあったけど、こうして間近に相対するのは、初めてだ。


 その象徴ともいえる翼には血がべったりと付いていた。

 片方の翼は途中で折れ曲がっている。


「大丈夫ですか!」


「あな、た……は……」


 意識ははっきりしているようだけど、喋るのは難しそうだ。

 とりあえず目に見える傷の手当をしなきゃ。


 とはいえ、回復薬じゃ駄目だ。

 外科手術並の高レベルな回復魔法が、僕に使えればいいんだけど……。


「逃げて……下さい…………。わたくしを……置いて…………」


「そんなことはできません。大丈夫……。安心して。今血を――――」


 女性は少し瞼を開けて、僕を見た。

 綺麗な金色の瞳だ。


 とりあえず止血をしなきゃ。

 せめて現状を維持しないと……。


 僕は女性の患部に手を掲げた。


「患部――――」



 【閉めろ(ロック)】!



 流血をせき止める。

 【閉めろ(ロック)】を患部付近に絞ったので、他の部分で血が流れるはずだ。

 だが、これだと自己再生まで止まるからあくまで応急処置の範囲である。

 早く第1層に戻って、治癒師に診せないと……。


「ぐぅぅううううう……」


 女性は呻く。

 血は止めたけど、痛みが止まるわけじゃない。


「待ってて下さい。今、痛みを一時的に解放します」


「??」


 僕は続けざまに鍵魔法を使う。


「痛み――――」



 【開け(リリース)



 すると、天翼族の女性の目が大きく開いた。


「痛みが……、ない?」


 信じられないといように患部の部分に手を伸ばす。

 その腕を僕は握って、止めた。


「痛みは引いても、傷は治ってません。あまり触らない方がいいです……」


「あの…………」


 おっとりとした金色の瞳が、彼女の腕を握った僕の手に向けられる。


「あわわわわわわわ……。ご、ごめんなさい。反射的に!!」


 僕は慌てて手を離す。

 女性は「ふふ……」と鼻を鳴らし、柔らかな笑みを讃えた。


「凄いですね。一体どうやったのですか?」


「いえ……。単なる鍵魔法です」


「鍵魔法? 鍵魔法というのは、回復魔法も兼ねているのですか?」


「いえ……。単に鍵魔法で患部を――――」


 説明をしかけた瞬間、僕の方を見ていた天翼族の女性の顔が歪む。

 同時に僕の背中に怖気が立った。

 嫌な予感がして、慌てて振り返る。


 立っていたのはゴブリンだ。


 それも巨大な――――。


「ホブゴブリン!!」


『ばああああああああああああああああ!!!!』


 ホブゴブリンは雄叫びを上げるのだった。


本日もよろしくお願いします。

ホブゴブリン討伐編始まります!!

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― 新着の感想 ―
ホブゴブリンさん、待っててくれたのかな?
[一言] ホブゴブリン『いないいない…ばああああああああああああああああ!!!!』 痛みリリースが、語感的に逆の効果(痛み全開)かと思ってしまった。
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